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第26.72話 「余談。とあるチームの恋愛事情②」

 

――◇――◇――◇――◇――◇―


 男の中の、おとこ

 カレィ・カリンカは怒りに燃えていた。


「オラララララララッ! 女がなんぼのもんじゃ! 恋人がなんぼのもんじゃい!」


 狙撃手だけで構成された二年生チーム。

 その中の一組のカップルが、自分たちの目の前で愛の告白をしているのだ。激しい弾幕など関係ないように愛を語る相手チームを見て、感情が抑えきれなくなっていたのだ。男所帯のカレィには、まさに火に油だったのだ。


 それは彼のチームメイトも同じようでで、彼ら全員が帝国製ライフルをフルオートでぶっ放していた。


「くそっ! くそーーっ!」


「悔しくないぞ! 悔しくなんかないぞっ!」


「爆発しろ! リア充は爆発すればいいんだ!」


 溢れる涙を拭うこともせず、男たちは引き金を引き続ける。


 俺たちは殺戮のマシーンだ!

 恋人なんていらない。敵を倒す銃だけあれば!

 自分たちのそう言い聞かせて、ありったけの銃弾を撃ちこんでいく。


 それは相手チームが降参したあとも鳴り響いていた。

 まるで、負け犬の遠吠えのように。



「勝ったな」


「あぁ、勝ったぜ」


「けっ! ざまあみろ!」


「燃えて灰になれ! 蛆虫どもが!」


 普段は紳士的な彼らも、ランク戦が終わってしばらくの間は激しく荒んでいた。学生食堂の入り口付近に陣取っている彼らは、水を片手にぐちぐちと言葉を交わす。


 一番端にいるのが、眼鏡をかけている隊長のカレィ。その隣に猫背の長身が座っていて、相向かいにデブとチビの二人がいた。


 彼らの話す内容は、相手チームの嫉妬から始まり、自分たちにはそんな浮ついたものはいらないと断言するに至る。だが、次第に話すことが、なぜ自分たちには恋人ができないのか、というものに変わっていた。


「やっぱり、隊長の機関銃が怖いんじゃないか?」


「あぁ、そうだな。この学園であの巨大な銃を使っているのは、カレィ隊長くらいだし」


「だったら、色を変えてみるなんてどうだ? 女子ウケのいいピンクとか」


「「いいねぇ~」」


 チームの中から拍手が上がる。


「それだったら、隊長の機関銃にマスコットのキャラクターでも描くか?」


「マスコット? 例えば、何だ?」


「そうだな。……猫なんてどうだ? 隊長、猫好きだろう?」


「「おぉ~」」


 今度は感嘆の声が漏れる。


 彼らの話は脱線に脱線を重ねていた。

 そして、最後には。自分たちに恋人ができないのは出会いがないからだ、という結論に達した。


「くそ~、俺たちにも運命的な出会いがあれば!」


「確かに。俺たちの使っている銃のアタッチメントやこだわりのポイントまで、熱く語ってやるというのに!」


「何で、女子は近づいてくれないんだろうな?」


 はぁ、とため息をつくチームメイト。彼らは本当に、自分たちがモテない理由について心当たりがないようであった。

 そんなチームメイトに向かって、隊長のカレィは励ますように言った。


「大丈夫ですよ。僕も女の子との出会いなんてありません。ですが、僕たちには愛銃がある。銃が恋人。それでいいではありませんか」


 理知的な眼鏡を押し上げながら、カレィが笑いかける。

 そんな自分たちの隊長を見て、仲間たちは感動のあまり涙ぐんでいた。


「た、隊長っ!」


「俺! 一生、あんたについていくぜ!」


「アニキと呼ばせてくれ、カレィ隊長!」


 チームメイトから熱い視線を受けて、カレィは拳を胸に当てる。


「よし、ここで誓わせてもらおう。僕は君たちを置いていかない。僕に恋人ができるときは、君たちも恋人ができた時だ」


 そんな隊長に見惚れて、チームの仲間たちも拳を胸に当てた。


「隊長! あんたって奴は!」


「どこまで良い人なんだ!」


「惚れてしまうぜ!」


 彼らは互いのことを見つめ合いながら、高らかに宣言した。


「……我ら、生まれた場所は違えども―」


「「童貞を捨てる時は一緒だ!」」


 言葉が力強いだけあって、なんとも虚しい気分になる。

 だが、彼らには関係ない。この熱い友情だけが、正義であった。


「ふふ、男同士の友情に勝るものはない」


「その通りだ。女なんていらない」


「もし、この誓いを破ったらどうする?」


「その時は、丸太に磔にして銃殺刑としましょう。僕の機関銃が火を吹きますよ」


 彼らは自分たちの友情に酔っていた。

 特に、隊長のカレィ。彼は自分の言っていることの重大さに気づいていない。

 そして、気がついた時には。

 既に手遅れだった。


「あっ、こんなところにいたんだ」


 突然、食堂の入り口から声がした。

 女の子の声だった。

 誰を呼んでいるのだろうと顔を向けると、そこにいる人物に目を丸くさせる。


 可愛らしい女の子だった。

 魔法学園の中等部の制服を着ていて、紫色の髪をツインテールにしている。彼女の話す言葉は、どこか舌足らずで。でも、ちょっと生意気そうなものだった。


「おーい、カレィお兄ちゃん! 遊びに来たよ~」


 瞬間。

 男たちに戦慄が走る。


「……カレィ」


「……お兄ちゃん」


「……だと?」


 ギギギィと油の切れた人形のように、軋んだ音を立てて隊長を見つめた。

 いや、睨んでいた。

 それに気がつかない隊長は、普段通りに彼女を迎え入れる。


「あ、ルゥ。こんな所にまで遊びに来たのかい? いけない子だね」


 カレィはその女の子を手招きで呼ぶと、脇に手を入れて持ち上げる。そして、そのまま膝の上に抱っこしたのだ。


「えへへ、カレィお兄ちゃん! だーい好きっ!」


 ピシリッ、と空気が割れる音がした。

 呪怨と怨恨にまみれた視線を仲間が送っているのに、彼はそれに気がつかない。膝の上に女の子を抱いたまま、嬉しそうに表情を崩す。


「あー、そうだ。ルゥは初めて会うよね。この人たちが、いつも話している僕のチームメイトさ」


「そうなんだ。初めまして、ルゥ・ラピストリアと言います! カレィお兄ちゃんとは従妹なんです」


「ははっ。まぁ、妹みたいなものなんだけどね」


 カレィが笑う。

 仲間が呪う。

 チームメイトの異変に気がつけない隊長は、彼らの苛立ちにとくとくとガソリンを注いでいく。


「……従妹」


「……義理の妹」


「……それって、結婚できるってことだよな?」


 彼らの怒りが沸点に達するまで、わずかな猶予もなかった。

 考えていることは、ただ一つ。

 この裏切り者に断罪を下すことだけだ。

 丸太に磔にして、機関銃でぶち込んでやる。男の友情を破ったものに、明日を生きる資格はない!


「じゃあね、カレィお兄ちゃん!」


「うん。気をつけて帰るんだよ」


 嬉しそうに手を振っている隊長に、彼らは背後から静かに手を伸ばしていた―




【とあるチームの恋愛事情②(完)】




余談の回です。

今回も最終話の掲載と同時に、削除する予定です(笑)


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