表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/422

第26.5話 「余談。とあるチームの恋愛事情①」


――◇――◇――◇――◇――◇―


 シローとゼノが話をするより、少し前に遡る。

 彼らと同じように学園ランク戦を行っていたチームがあった。男子三人、女子一人の《狙撃兵科スナイパー》だけで編成されたチーム。

 そのリーダーの名前は、ジャック・スミス。『厨二体質ダークケルベロス』という魔法を持つ男だ。


「皆。ランク戦が終わった直後で疲れていると思うが、このまま反省会議を開きたい」


 場所は、学園の学生食堂。

 いつも使っている、階段のすぐ傍の丸テーブル。そこにメンバーが集まっていた。全員が同じ学年ということもあって、いつも仲良しチームである。


 だが、今日の彼らはどこか様子がおかしかった。

 チームで一人だけの女子は申し訳なさそうに俯いているのに、他の男子二人は不機嫌そうに口を曲げているのだ。いや、もっといえば、呆れ果てているという感じだった。


「今日の戦いは惜しかったな。全員が最大の力を発揮したというのに、勝利まで一歩届かなかった。それについて、何か意見はあるか?」


 リーダーのジャックは、対照的な態度を取っているチームメイトを見渡す。

 元々、小心者である彼は、その重苦しい空気だけで胃に穴が空きそうだった。


「……いいんじゃないか。別に反省会なんかしなくても」


 一人の男子が不貞腐れるように呟く。

 その言葉の節々には、かつてないほどの棘が見え隠れしていた。


「やっぱり無理なんだよ、俺たちが勝つなんて。こんなチームはさっさと解散するべきだ」


 吐き捨てるような口調に、隣の男子も同調する。

 そんなチームメイトを見て、リーダーが焦せるように言った。


「そ、そんなこと言うなよ! 今回は対戦相手との相性が悪かっただけさ!」


 リーダーは頭の中で、昼間に行われたランク戦のことを振り返っていた。

 機関銃を扱う《普通歩兵科アサルト》の三年生チーム。そのチームリーダーは普段は大人しいが、機関銃を持つと性格が変わる『乱射体質トリガー・ハッピー』という魔法の持ち主だった。対戦前に挨拶に来たのだが、自分の魔法を性質が似ていることもあって親近感を覚えたものだ。


 リーダーの魔法『厨二体質ダークケルベロス』も感情が高ぶってしまい、普段なら言わないようなことを口にしまう厄介なものであった。


「大丈夫! もっと努力すれば、次は勝てるさ! 皆、頑張ろう!」


 チームを励ますように声をかける。

 だが、彼らを纏っている空気は変わらない。ピリピリとした緊張感と、どうなってもいいという虚無感が、重くのしかかっていた。


 そんな時だ。

 ふいに、今まで黙っていた方の男が口を開いた。


「頑張る? ……ははっ。頑張ったって、結果は変わらねぇだろう?」


 それは自分たちを嘲笑うように言い方だった。


「なぁ、ジャック。俺たちが手を抜いていると思うか? 俺たちの努力が足りないと思うか? さっきのランク戦でそれしか感じないのだったら、お前はリーダー失格だぜ」


「っ!」


 ぐさり、と胸に突き刺さる言葉だった。

 自分がチームリーダーに向いていないと知っているため、余計に重くのしかかる。


「……悪かった。命令が間違っていたかもしれないし、皆のことをちゃんと考えていなかったかもしれない。でも、俺なりにチームのことを考えて―」


「考えて? ははっ、よく言うぜ」


 男は付き合っていられないというように、頬杖をついてリーダーから視線を外す。

 もう片方の男も、腕を組んだまま険悪な表情を浮かべている。


 その様子を見て、ただ一人の女子であるアン・ミシェルも怯えるように俯く。

 まさに、チーム崩壊の危機だった。

 リーダーも頭を抱えたくなる。何か言わなくてはと思うのだが、何を言っていいのかわからない。


「……っ」


「……」


 気まずい空気が流れた。

 そんな時、腕を組んでいた男が口を開く。チームのことを誰よりも理解しているサブリーダー的な立ち位置にいる男だった。


「ジャック。一つ聞いてもいいか?」


「な、なんだ?」


 身構える自分たちのリーダーに、その男は端的に言った。


「さっきのランク戦。俺たちの敗因は何だと思う?」


「そ、それは、アンが最初にやられたせいで、チームの連携がとれなくなって―」


「他には?」


「他には、……その」


 リーダーはたじろぎながら、言いたくないことを隠すように口を閉じる。

 そんな彼を見て、もう一人の男のほうが、ポツリと呟く。


「……アンジェ。死ぬな。我の妻になるまで死んではならんぞ」


「っ!?」


「ぅん!?」


 その小さな囁きに、ぼんっとリーダーとアンの顔が赤くなる。

 恥ずかしそうに二人が顔をそらすので、男たちは更なる追撃を開始した。

 リーダーとアン。

 友達以上、恋人未満の甘い会話を、当人の目の前で再現してやる。


「……しっかりしろ、アンジェ。我が最愛の人よ。まだ誓いの言葉を交わしてもいないではないか!」


「……大丈夫ですわ。この体はすでに貴方さまへ捧げたもの。例え肉体が滅びようとも、魂だけは貴方様の傍にいます」


「……アンジェ。目を開けてくれ!」


「……あぁ、私のご主人様。アンはいつまでも貴方様を愛していますわ」


「……我もだ。愛しているぞ、アンジェ!」


「……嬉しいです。大好きです」


「……我も好きだ、大好きだ。大好きなんだーーーっ!」


 淡々と紡がれていく、恥ずべき痴態。

 先ほどのランク戦のことだ。まず最初に、アンが負傷した。

 怪我の内容はたいしたことなかったのだが、それに慌てたリーダーが『厨二体質』全開で駆けつけてたのだ。そして、何をトチ狂ったのか、その場で公開告白を始めたのだ。


 ……好きだ。

 ……愛してる。

 ……俺の妻になってくれ。


 チームメイトの白い視線と、敵の銃弾が降りそそぐ中で、こいつらは何をやっているんだ、と。それは自然と殺意を覚えるほどだった。


 しまいには、ランク戦の監視をしていた強面教官から「まぁ、お幸せに」と笑顔で言われてしまうほどである。


「あの笑顔は、マジで怖かったな」


「俺、怖ぇんだけど! 次に、あの教官に会ったら何を言われるんだよ!」


 男たちは底知れぬ恐怖に震えながら、リーダーとアンを交互に見る。

 二人は顔を赤らめたまま何も言わない。


「「……で、お前らはマジで付き合ってないの?」」


 防衛拠点への集中砲撃。

 こういったことは、徹底して行わなくてはいけないのだ。


「あ、あの、その!」


「お、俺、飲み物買ってくる!」


 真っ赤になって狼狽えるアンと、逃げ出すように食堂の窓口に走り出すリーダー。

 そんな二人を見て、男たちは深々と溜息をつく。


「はぁ、まったく」


「お前らの面倒を見なくちゃいけない、俺たちの身にもなってくれ」


 誰に向かって言ったわけではないが、アンは頬を染めたまま頭を下げた。


「……ご迷惑を、おかけします」


 両手の指をくっつけながら、初々しい反応をする彼女を見て、まだまだ学園ランキングが下がりそうだなと思う男たちだった。




【余談。とあるチームの恋愛事情①(完)】






重い話が続いているとの感想をいただいたので、重くない話を載せてみました。

ちょっとした気分転換みたいなものなので、最終話と同時に削除する予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ