第26.5話 「余談。とあるチームの恋愛事情①」
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シローとゼノが話をするより、少し前に遡る。
彼らと同じように学園ランク戦を行っていたチームがあった。男子三人、女子一人の《狙撃兵科》だけで編成されたチーム。
そのリーダーの名前は、ジャック・スミス。『厨二体質』という魔法を持つ男だ。
「皆。ランク戦が終わった直後で疲れていると思うが、このまま反省会議を開きたい」
場所は、学園の学生食堂。
いつも使っている、階段のすぐ傍の丸テーブル。そこにメンバーが集まっていた。全員が同じ学年ということもあって、いつも仲良しチームである。
だが、今日の彼らはどこか様子がおかしかった。
チームで一人だけの女子は申し訳なさそうに俯いているのに、他の男子二人は不機嫌そうに口を曲げているのだ。いや、もっといえば、呆れ果てているという感じだった。
「今日の戦いは惜しかったな。全員が最大の力を発揮したというのに、勝利まで一歩届かなかった。それについて、何か意見はあるか?」
リーダーのジャックは、対照的な態度を取っているチームメイトを見渡す。
元々、小心者である彼は、その重苦しい空気だけで胃に穴が空きそうだった。
「……いいんじゃないか。別に反省会なんかしなくても」
一人の男子が不貞腐れるように呟く。
その言葉の節々には、かつてないほどの棘が見え隠れしていた。
「やっぱり無理なんだよ、俺たちが勝つなんて。こんなチームはさっさと解散するべきだ」
吐き捨てるような口調に、隣の男子も同調する。
そんなチームメイトを見て、リーダーが焦せるように言った。
「そ、そんなこと言うなよ! 今回は対戦相手との相性が悪かっただけさ!」
リーダーは頭の中で、昼間に行われたランク戦のことを振り返っていた。
機関銃を扱う《普通歩兵科》の三年生チーム。そのチームリーダーは普段は大人しいが、機関銃を持つと性格が変わる『乱射体質』という魔法の持ち主だった。対戦前に挨拶に来たのだが、自分の魔法を性質が似ていることもあって親近感を覚えたものだ。
リーダーの魔法『厨二体質』も感情が高ぶってしまい、普段なら言わないようなことを口にしまう厄介なものであった。
「大丈夫! もっと努力すれば、次は勝てるさ! 皆、頑張ろう!」
チームを励ますように声をかける。
だが、彼らを纏っている空気は変わらない。ピリピリとした緊張感と、どうなってもいいという虚無感が、重くのしかかっていた。
そんな時だ。
ふいに、今まで黙っていた方の男が口を開いた。
「頑張る? ……ははっ。頑張ったって、結果は変わらねぇだろう?」
それは自分たちを嘲笑うように言い方だった。
「なぁ、ジャック。俺たちが手を抜いていると思うか? 俺たちの努力が足りないと思うか? さっきのランク戦でそれしか感じないのだったら、お前はリーダー失格だぜ」
「っ!」
ぐさり、と胸に突き刺さる言葉だった。
自分がチームリーダーに向いていないと知っているため、余計に重くのしかかる。
「……悪かった。命令が間違っていたかもしれないし、皆のことをちゃんと考えていなかったかもしれない。でも、俺なりにチームのことを考えて―」
「考えて? ははっ、よく言うぜ」
男は付き合っていられないというように、頬杖をついてリーダーから視線を外す。
もう片方の男も、腕を組んだまま険悪な表情を浮かべている。
その様子を見て、ただ一人の女子であるアン・ミシェルも怯えるように俯く。
まさに、チーム崩壊の危機だった。
リーダーも頭を抱えたくなる。何か言わなくてはと思うのだが、何を言っていいのかわからない。
「……っ」
「……」
気まずい空気が流れた。
そんな時、腕を組んでいた男が口を開く。チームのことを誰よりも理解しているサブリーダー的な立ち位置にいる男だった。
「ジャック。一つ聞いてもいいか?」
「な、なんだ?」
身構える自分たちのリーダーに、その男は端的に言った。
「さっきのランク戦。俺たちの敗因は何だと思う?」
「そ、それは、アンが最初にやられたせいで、チームの連携がとれなくなって―」
「他には?」
「他には、……その」
リーダーはたじろぎながら、言いたくないことを隠すように口を閉じる。
そんな彼を見て、もう一人の男のほうが、ポツリと呟く。
「……アンジェ。死ぬな。我の妻になるまで死んではならんぞ」
「っ!?」
「ぅん!?」
その小さな囁きに、ぼんっとリーダーとアンの顔が赤くなる。
恥ずかしそうに二人が顔をそらすので、男たちは更なる追撃を開始した。
リーダーとアン。
友達以上、恋人未満の甘い会話を、当人の目の前で再現してやる。
「……しっかりしろ、アンジェ。我が最愛の人よ。まだ誓いの言葉を交わしてもいないではないか!」
「……大丈夫ですわ。この体はすでに貴方さまへ捧げたもの。例え肉体が滅びようとも、魂だけは貴方様の傍にいます」
「……アンジェ。目を開けてくれ!」
「……あぁ、私のご主人様。アンはいつまでも貴方様を愛していますわ」
「……我もだ。愛しているぞ、アンジェ!」
「……嬉しいです。大好きです」
「……我も好きだ、大好きだ。大好きなんだーーーっ!」
淡々と紡がれていく、恥ずべき痴態。
先ほどのランク戦のことだ。まず最初に、アンが負傷した。
怪我の内容はたいしたことなかったのだが、それに慌てたリーダーが『厨二体質』全開で駆けつけてたのだ。そして、何をトチ狂ったのか、その場で公開告白を始めたのだ。
……好きだ。
……愛してる。
……俺の妻になってくれ。
チームメイトの白い視線と、敵の銃弾が降りそそぐ中で、こいつらは何をやっているんだ、と。それは自然と殺意を覚えるほどだった。
しまいには、ランク戦の監視をしていた強面教官から「まぁ、お幸せに」と笑顔で言われてしまうほどである。
「あの笑顔は、マジで怖かったな」
「俺、怖ぇんだけど! 次に、あの教官に会ったら何を言われるんだよ!」
男たちは底知れぬ恐怖に震えながら、リーダーとアンを交互に見る。
二人は顔を赤らめたまま何も言わない。
「「……で、お前らはマジで付き合ってないの?」」
防衛拠点への集中砲撃。
こういったことは、徹底して行わなくてはいけないのだ。
「あ、あの、その!」
「お、俺、飲み物買ってくる!」
真っ赤になって狼狽えるアンと、逃げ出すように食堂の窓口に走り出すリーダー。
そんな二人を見て、男たちは深々と溜息をつく。
「はぁ、まったく」
「お前らの面倒を見なくちゃいけない、俺たちの身にもなってくれ」
誰に向かって言ったわけではないが、アンは頬を染めたまま頭を下げた。
「……ご迷惑を、おかけします」
両手の指をくっつけながら、初々しい反応をする彼女を見て、まだまだ学園ランキングが下がりそうだなと思う男たちだった。
【余談。とあるチームの恋愛事情①(完)】
重い話が続いているとの感想をいただいたので、重くない話を載せてみました。
ちょっとした気分転換みたいなものなので、最終話と同時に削除する予定です。




