第14話 「君はいったい、何者なんだ?」
「……こんにちは、ザルモゥ中佐」
シローはあからさまに警戒しながら、帝国軍の将校に挨拶をした。
「今日はわざわざ、自分たちのランク戦をご覧になられるようで。帝国軍の高級将校に観戦していただけるなんて、とても光栄なことです」
「ははっ、そうかい。自分としても共和国の時代遅れな戦い方に興味があってね」
シローの棒読みの歓迎にも、ザルモゥ中佐は表情を崩さない。
どこか嘲笑するような顔だ。
そんな不快感しか与えないような態度で、シローたちのチームメイトを順番に見ていく。
視線すら合わせようとしない、ゼノ。
ずっと怯えるようにそわそわしている、ミリア。
彼らのことを見ても、ザルモゥ中佐は何も言わなかった。
だが、最後に。
落ち着いた微笑みを浮かべているユーリィを見て、彼はその表情を変えた。
その様子は、どう表現したらいいのかわからない。
とにかく狡猾で、残忍な笑みを浮かべたのだ。近くにいたシローとゼノが、思わず身構えてしまうくらいに。
「くくっ、実におもしろい」
彼の言っていることが理解できなかった。
「極東の盤上遊戯を連想しますね。使えなくなって捨てたはずの『駒』が、まさかこんなところで使えるなんて」
ザルモゥ中佐はユーリィのことを見ながら、不気味な愉悦に浸っている。
……何か危険な感じがする。
シローは咄嗟に彼女の前に入って、ザルモゥ中佐の視線から庇おうとする。これ以上、この男を近づけてはいけない。なぜか、そんな気がしたのだ。
「ザルモゥ中佐。そろそろ、ランク戦が開始になります。監督教官の席にまで戻ってください」
その突き放した言い方は、他国とはいえ上官に対する口ぶりではなかった。シローの身分が書面上は学生とはいえ、教官に知られたら厳しい処罰を覚悟しなければならない。
それでも、この瞬間。
ユーリィを守れれば、それでよかった。
それほどまでの緊張感を肌で感じていた。
「ふふっ、そうですね」
ザルモゥ中佐は静かに答えると、表情を元の薄い笑みに戻した。
それから踵を返して、シローたちから離れていった。
最後の一言を残して。
「あなたの戦い方にも期待していますよ。学生のシロー・スナイベル君」
その挑発するような視線を前にして、シローは何も言わず黙って見送った。
「ユーリィ、大丈夫か?」
ザルモゥ中佐の姿が見えなくなってから、シローはユーリィに声をかける。
あの男が去ってから、一言も話していない。
気分でも悪くなったのだろうか、と心配になっていたのだ。
だが、意外にも。
彼女からはいつも通りの声が返ってきた。
「え、別に大丈夫ですよ」
にこっ、と笑いながらシローを見上げる。
……なんだ、いつもと変わらないじゃないか。
そう思って、彼女から視線を外そうとした瞬間。
今までにはない違和感を覚えた。
いや、正確には違和感ではない。
それは、……既視感だ。
ユーリィが浮かべている笑顔はどこかで見たことのあるものだった。シローが自身の記憶の糸を辿っていくと、その情景に思わず眉をひそめた。
『今日だけ、どうか泊めてください。明日には出ていくので』
そうだ。
あの時の彼女と同じ笑顔なんだ。
泊るところもなく、頼れる人もいない。そんな時でもユーリィは笑っていた。
全てを諦めている、自嘲の笑みを浮かべて。
「さぁ、今日のランク戦も頑張りましょう!」
ユーリィが元気づけるように、いつもより大きな声を出す。
そして。
この時ばかりは、シローも見逃さなかった。彼女の、……ユーリィの手がわずかに震えていることを。
何があっても怖がることのなかった彼女が、あの男だけは恐れているのだ。
ユーリィにしてみたら、あの男は縁もゆかりもない帝国軍の将校のはず。
それなのに、なぜ恐れている。
なぜ何も言わない。
その笑顔の仮面の下には、何を隠している。
……なぁ、ユーリィ。
……君はいったい、何者なんだ?




