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第12話 「不穏なランク戦」

 シローは自分の上官を訝しむように見た。


「大佐は、自分の報告を聞いていなかったのですか?」


 きっちりと直立不動を保ったまま、彼は続ける。


「あの男は危険です。帝国軍の高級将校でありながら、選民思想に傾倒しています。まして、所属が情報部。この学園にいるだけでも色んな問題が起きるでしょう」


 言葉遣いは丁寧だが、その口調は断固としたものがあった。


 それだけ、シローはザルモゥ中佐への不信感を募らせていた。


「残念だが、これはもう決まったことなのだ。シロー・スナイベル少尉」


 それに対して、グラン大佐の返答は簡単なものだった。


「既に、教官たちの了承も得られている。共和国と帝国の戦争が終わって、まだ日が浅い。このようなイベントで友好を深めていくのは、決して悪いことではないだろう?」


「……しかし、大佐」


 なおもシローは食い下がる。


「あの男は自分たちの、……自分・・のいるチームを名指ししてきているのですよ。その事には何の疑問も湧かないんですか?」


 暗喩に、事の重大性を強調する。


 帝国の選民思想、登録魔術兵士たちへの憎悪、まるで再び戦争になることを望んでいるような態度、それらは全て『過激派』に通ずるものがある。


 再び共和国と帝国に戦争を起こさせようとする『過激派』。帝国内でも共和国内でも、不穏分子として影を潜めていると聞く。


 そんな疑いのある人間に、『穏健派』のグラン大佐が何も警戒しないなんてありえるのだろうか。


「……あ」


 そこまで考えて、はたと気づかされる。


 そうだ。

 それが、おかしい。


 明らかに挑発的な行動をとってきたザルモゥ中佐に対して、戦争を起こさないためなら何でもする『穏健派』の大佐が、彼を自由にしておくはずがない。それを敢えて、見過ごすということは―


「スナイベル少尉。貴様は再び戦争をしたいのか?」


 突然、グラン大佐が口を開いた。

 その言い方は、先ほどまでにはない。厳格としたものがあった。


「いいか、少尉。帝国との戦争が終わって、まだ二年しか経っていないのだぞ。今がどれだけ不安定な時期なのか、説明しなくてもわかっているだろう。ちょっとした小競り合いが、大きな戦争に発展するかもしれない。表面上は平和でも、水面下では血生臭い戦いが繰り広げていることを想像できるはずだ」


 大佐は続ける。


「あの男が危険なのは承知している。今、共和国軍の情報部に掛け合って、あの男の素性を探っているところだ。本当に帝国の将校なのか、それとも軍歴を偽った工作員なのか」


 彼は鋭い目で、シローを捕えている。


 その視線には、感情は込められておらず、現状を把握しようとする意思だけ伝わってきた。


「それと、こっちのほうが問題なのだが。……あの男の目的がまだわかっていない」


 自分の前で手を組んで、厳しい表情を浮かべる。


「まっとうな帝国軍の軍人であれば、それでよし。だが、我が国に対して敵対行動をとるなら、断固とした態度を取るつもりだ」


「……だから、今は泳がせておくと?」


 シローは上官の考えを汲み取って、次の言葉を続ける。


 大佐も重々しく頷く。


「スナイベル少尉。あの男の目的が少尉ではないかと、私は予想している。もしそうだとしたら、奴は少尉の正体に気がついているということだ。これがどういう意味なのかは、わかっているな?」


「……」


 シローは黙って頷く。


 数年前の戦争の最大功労者。共和国から名誉勲章まで授与された英雄『ホワイトフェザー』は、正体不明でなくてはいけない。臆病者のように、人前に姿を見せず、戦場の伝説として語られていく。


 それが戦争への最大の抑止力になる。


 共和国には『英雄』がいて、それは帝国にとって『死神』となる。この事実だけでも、戦争を思い留まらせる要因に成りえるのだ。


「ザルモゥ中佐の動向には注意しつつ、現状を静観しろ。可能な限りだ」


「……了解しました」


 シローは直立不動のまま、グラン大佐へ敬礼する。

 上官からの正式な命令である、と彼は認識していた


「ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


 シローは大佐の険しい視線を受け止めながら口を開く。


「もし、あの男が生徒に危害を加えようとしていたら?」


 交戦の許可は下りますか、と言葉にせずに尋ねる。

 グラン大佐も答える。


「……戦場でも言うだろう。一発なら誤射かもしれない、と」


 ギロリ、と表情を険しくさせた。


「もし、あの男が生徒に手を出そうとしたら、躊躇することはない。帝国側には、流れ弾に注意するようにと通達しよう」


「了解しました」


 シローは淡々と答える。

 つまり、……そういうことだ。


 ユーリィや他の生徒への危険が及ぶなら、迷うことなく排除すればよい。


 ザルモゥ中佐が何を企んでいるかはわからないが、彼の魔術兵士に対する憎悪は並々ならぬものがあった。他人よりも、自分の心配をしたほうがいいかもしれない。


「あぁ、それと。あの少女の様子はどうだ?」


 大佐が思いついたかのように聞いた。

 シローはすぐに頭を切り換えて、大佐の質問に答える。


「はい。いつも通りに学園に通っています」


「そうか」


 返事はあっけなかった。


 大佐はそれだけ言うと、くるりをシローに背中を向ける。

 最後の一言を伝えて。


「あの少女からも目を離すなよ」


「……え?」


 シローは面食らう。

 どういうことなのか問いかけるが、大佐は答える様子はない。


 厳格な態度を見せる上官を見ながら、シローは人知れず不安に駆られる。


 そして、思い出していた。

 ユーリィのことは、帝国との国境沿いの街で保護した、ということを。そして、この前の歴史の授業内容であった帝国のスパイの存在。それらの点が、一本の線になりそうで怖くなってしまい、それ以上の思考を止めてしまった。



――◇――◇――◇――◇――◇―



 シローは学生食堂の入り口に立っている。

 そして、そこの掲示板に貼られているランク戦の予定表を見ていた。


 自分たちの学園ランキングは62位。

 このところの連勝により、ランキングも上昇傾向にある。中堅クラスの50番台まで、あと少しだ。


 だが、その前に。

 大きな壁が立ちはだかることになった。

 シローは次の対戦相手を見て、大きなため息をついていた。


「……こんな状況で、上位ランカーとぶつかるのか」


 相手のチームメンバーと所属している専攻科。そして、学年ランキングを順番に追っている。

 そして、そこには23位という数字が記載されていた。


 オルランド魔法学園のランキングでは、30位以上が上位ランカーとされている。10番台が精鋭と呼ばれ、ランキング一桁のチームはもはや人外扱いである。


 そんな彼らの実力は、シローの目から見ても高い。


 何より、使用する魔法が強力だ。

 次の対戦相手のチームリーダーは、設置した魔法陣から魔法陣へと瞬時に移動する、『空間転移魔法ディメンション・ムーブメント』の使い手であった。

 


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