第11話 「朝食とプリン」
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「……ユーリィ。何だか元気がないように見えるけど、大丈夫か?」
朝の学生食堂。
シローたち四人は、仲良く肩を並べながら朝食を食べていた。
シローはいつもと同じ朝食セット。サンドイッチにベーコンエッグ。それと今日はデザートにプリンがついた。
ゼノは肉を溢れるほど挟んだ肉サンド、ミリアは小さなクルミパンに苺のジャムをつけている。楽しく会話を弾ませながら、時折、思い出したかのように口に運ぶ。それは普段通りの光景に見えた。
ただ、ひとつ違う点があるとすれば。
ユーリィが食事にまったく手をつけていないことだった。
「もしかして、食欲がないとか?」
「い、いえ、そんなことありません!」
彼女は慌てて笑顔を作って、目の前で両手を小さく握る。
まるで、自分は何も困っていません、とアピールしているように見えた。
「そ、その、今までの生活とはだいぶ違っているので、戸惑っているのかもしれません。……この学園に来るまで、毎日ごはんが食べられるなんて思ってもいませんでしたから」
「……え」
ぴたり、とコーヒーを持った手が止まる。
シローだけじゃない。ゼノとミリアも、今の発言に驚いて食べるのを止めていた。
「……そんなに、大変だったのか?」
さりげなく問うと、ユーリィが淡く微笑んだ。
「そうですね。教会に行けば施しのパンを貰えましたけど、それも二日か三日に一度だけ。あとは、日雇いのお仕事があればそれをやって、なければ飲食店の裏口で―」
淡々と語る彼女に、シローは言いようのない不安を感じた。
……そうか。まだ自分は、彼女のことを何も知らないんだな。彼女の過去のどのようなものがあったのか。その中には、自分が知りたくないこともあるかもしれない。
それでも知りたいと思う自分がいる。
「だぁーっ! それ以上は言わないでくれ!」
突然、ゼノが大声を上げた。
わざとらしく目元に腕を当てて、嘆くように天井を見上げる。
「泣かせる話じゃねーか! そんなに不憫な生活を送ってたなんてよぉ!」
そう言って、彼は自分が食べていた肉サンドを差し出した。
「さぁ、食え! 食ってくれ! お前がそんなに小さいのも、きっと肉が足りてないからだ! これからは俺たちと一緒に肉を食おうぜ! 朝も昼も夜も、肉、肉、肉! 肉祭りだ!」
そんな食生活を送っているのはお前と獣くらいだよ、とシローは心の中で思う。
それと同時に、ユーリィの小柄な体にも納得していた。幼年学校の生徒にも間違えそうな体格は、彼女の食生活が影響していたんだな。
「……ぐすん。ユーリィ先輩、そんな辛い過去があったのですね」
今度はミリアが口を開く。
こっちは本当に涙を流していた。
「も、もし、よろしかったら、あたしのジャムパンも食べてください」
そう言って、ミリアはまだ口のつけていないクルミパンを差し出した。
裕福な家の出身であるミリアにとって、ユーリィの話すことは信じられないことばかりなのだろう。この間、学園都市に服を買いに行った時もそうだが、彼女の話を聞くたびに泣いてしまうな。
「え、えっと、……ありがとうございます」
にこり、とユーリィが笑った。
彼女の食べている朝食に、クルミパンと肉サンド(食べかけ)が添えられた。朝からそんなに食べられるわけがないだろうに。
「まったく、大袈裟なんだよ」
シローは穏やかな表情でコーヒーカップに手を伸ばす。
「確かに、ユーリィの過去には辛いものがあったかもしれない。だが、この学園では俺たちがいる。今更、昔のことを掘り起こす必要はないだろう」
そもそも、だ。
食欲がなさそうな人に向かって、食べ物を差し出すってのはどうなんだ? 彼女のことを思うのなら、特別扱いせず、いつも通りに接すればいいだろう。
そうだ。それが正しい。
どこか達観とした心境で、シローはコーヒーに口をつける。
そんな時だ。
ゼノが呆れたような口ぶりで聞いてきたのは。
「……なぁ、シロ?」
「なんだ?」
「お前、凄く偉そうなことを言っているけどさ、……その左手はなんだ?」
ぴくり、とコーヒーを持っていないほうの手が震えた。
だが、途中で止めることはできず、そのままユーリィの前へと差し出す。
「……シローさん、これは?」
首を傾げる彼女に、シローは答える。
「……プリンだ」
「えっと、それはわかりますけど」
「今日の朝食セットについてきた。それなら食欲がなくても食べられるだろう」
コーヒーを片手に返事をする。
シローの視界には、既に空になってカップの底があった。なんとなく今の顔を彼女に見られたくなくて、不愛想の態度を必死になって貫く。
そんなシローの優しさに、ユーリィは自然と笑っていた。
「ありがとうございます」
「……あぁ」
まだシローは、コーヒーカップを持ったままだ。
きっと、ゼノがにやにや笑っているんだろう。そう思うと、無性に腹が立ってくる。
だが、ユーリィが自分の差し出したプリンを食べるのを見て、その苛立ちも霧となって消えていった。
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「すみません。言っていることが、よく理解できないのですが」
放課後。
シローは授業が終わると、その足で学園長室へと足を運んでいた。学園内の放送で呼び出されていた。
「だから、私の言ったとおりだ」
学園長のグラン大佐は、シローしかいない部屋で重々しく口を開く。
「次のランク戦。帝国軍の将校、ザルモゥ中佐が監視役をやりたいと言っているのだ。……お前たちのチームを名指しでな」




