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第11話 「朝食とプリン」

――◇――◇――◇――◇――◇―


「……ユーリィ。何だか元気がないように見えるけど、大丈夫か?」


 朝の学生食堂。

 シローたち四人は、仲良く肩を並べながら朝食を食べていた。


 シローはいつもと同じ朝食セット。サンドイッチにベーコンエッグ。それと今日はデザートにプリンがついた。


 ゼノは肉を溢れるほど挟んだ肉サンド、ミリアは小さなクルミパンに苺のジャムをつけている。楽しく会話を弾ませながら、時折、思い出したかのように口に運ぶ。それは普段通りの光景に見えた。


 ただ、ひとつ違う点があるとすれば。

 ユーリィが食事にまったく手をつけていないことだった。


「もしかして、食欲がないとか?」


「い、いえ、そんなことありません!」


 彼女は慌てて笑顔を作って、目の前で両手を小さく握る。


 まるで、自分は何も困っていません、とアピールしているように見えた。


「そ、その、今までの生活とはだいぶ違っているので、戸惑っているのかもしれません。……この学園に来るまで、毎日ごはんが食べられるなんて思ってもいませんでしたから」


「……え」


 ぴたり、とコーヒーを持った手が止まる。

 シローだけじゃない。ゼノとミリアも、今の発言に驚いて食べるのを止めていた。


「……そんなに、大変だったのか?」


 さりげなく問うと、ユーリィが淡く微笑んだ。


「そうですね。教会に行けば施しのパンを貰えましたけど、それも二日か三日に一度だけ。あとは、日雇いのお仕事があればそれをやって、なければ飲食店の裏口で―」


 淡々と語る彼女に、シローは言いようのない不安を感じた。


 ……そうか。まだ自分は、彼女のことを何も知らないんだな。彼女の過去のどのようなものがあったのか。その中には、自分が知りたくないこともあるかもしれない。


 それでも知りたいと思う自分がいる。


「だぁーっ! それ以上は言わないでくれ!」


 突然、ゼノが大声を上げた。

 わざとらしく目元に腕を当てて、嘆くように天井を見上げる。


「泣かせる話じゃねーか! そんなに不憫な生活を送ってたなんてよぉ!」


 そう言って、彼は自分が食べていた肉サンドを差し出した。


「さぁ、食え! 食ってくれ! お前がそんなに小さいのも、きっと肉が足りてないからだ! これからは俺たちと一緒に肉を食おうぜ! 朝も昼も夜も、肉、肉、肉! 肉祭りだ!」


 そんな食生活を送っているのはお前と獣くらいだよ、とシローは心の中で思う。


 それと同時に、ユーリィの小柄な体にも納得していた。幼年学校の生徒にも間違えそうな体格は、彼女の食生活が影響していたんだな。


「……ぐすん。ユーリィ先輩、そんな辛い過去があったのですね」


 今度はミリアが口を開く。

 こっちは本当に涙を流していた。


「も、もし、よろしかったら、あたしのジャムパンも食べてください」


 そう言って、ミリアはまだ口のつけていないクルミパンを差し出した。


 裕福な家の出身であるミリアにとって、ユーリィの話すことは信じられないことばかりなのだろう。この間、学園都市に服を買いに行った時もそうだが、彼女の話を聞くたびに泣いてしまうな。


「え、えっと、……ありがとうございます」


 にこり、とユーリィが笑った。

 彼女の食べている朝食に、クルミパンと肉サンド(食べかけ)が添えられた。朝からそんなに食べられるわけがないだろうに。


「まったく、大袈裟なんだよ」


 シローは穏やかな表情でコーヒーカップに手を伸ばす。


「確かに、ユーリィの過去には辛いものがあったかもしれない。だが、この学園では俺たちがいる。今更、昔のことを掘り起こす必要はないだろう」


 そもそも、だ。

 食欲がなさそうな人に向かって、食べ物を差し出すってのはどうなんだ? 彼女のことを思うのなら、特別扱いせず、いつも通りに接すればいいだろう。


 そうだ。それが正しい。

 どこか達観とした心境で、シローはコーヒーに口をつける。


 そんな時だ。

 ゼノが呆れたような口ぶりで聞いてきたのは。


「……なぁ、シロ?」


「なんだ?」


「お前、凄く偉そうなことを言っているけどさ、……その左手はなんだ?」


 ぴくり、とコーヒーを持っていないほうの手が震えた。

 だが、途中で止めることはできず、そのままユーリィの前へと差し出す。


「……シローさん、これは?」


 首を傾げる彼女に、シローは答える。


「……プリンだ」


「えっと、それはわかりますけど」


「今日の朝食セットについてきた。それなら食欲がなくても食べられるだろう」


 コーヒーを片手に返事をする。

 シローの視界には、既に空になってカップの底があった。なんとなく今の顔を彼女に見られたくなくて、不愛想の態度を必死になって貫く。


 そんなシローの優しさに、ユーリィは自然と笑っていた。


「ありがとうございます」


「……あぁ」


 まだシローは、コーヒーカップを持ったままだ。


 きっと、ゼノがにやにや笑っているんだろう。そう思うと、無性に腹が立ってくる。


 だが、ユーリィが自分の差し出したプリンを食べるのを見て、その苛立ちも霧となって消えていった。



――◇――◇――◇――◇――◇―



「すみません。言っていることが、よく理解できないのですが」


 放課後。

 シローは授業が終わると、その足で学園長室へと足を運んでいた。学園内の放送で呼び出されていた。


「だから、私の言ったとおりだ」


 学園長のグラン大佐は、シローしかいない部屋で重々しく口を開く。


「次のランク戦。帝国軍の将校、ザルモゥ中佐が監視役をやりたいと言っているのだ。……お前たちのチームを名指しでな」

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