表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/422

第24話 「懐かれたな」

――◇――◇――◇――◇――◇―


「おい、シロよ。なんだか、日に日に顔色が悪くなってないか?」


「……ほっとけ」


 寝不足の頭を何とか動かしながら、シローは朝食を口に運ぶ。

 向かい側に座ったゼノが、たいして心配していないような顔で、朝から骨付き肉を頬張っている。いつもと同じコーヒーが、異様に苦く感じた。


 あの日。

 ユーリィの突然の来訪から、数日が経っていた。

 このまま彼女に部屋を用意できないと、自分の精神的安定が得られないと思い、翌朝には学園長室の扉を叩いていた。


 ユーリィの不当な扱いと、自分がオルランド軍の現役少尉であること。そして、ベッドの下にある『あれ』にも触れて説得を試みたが、学園長の返答はとても簡単なものだった。


 ……女子寮に空き部屋がないから、しばらくお前の部屋で面倒を見てやれ。


 嘘をつけ!と叫びたくなるのを必死に堪える。

 相手は上官であり、上官の言うことは絶対だ。なので、自分の上官に恨めしい視線を向けながら、何か問題が起きたらどうするんですか、と丁寧な口調で脅迫することにする。だが、お前にそんな甲斐性はない、とバッサリと断言されてしまった。


 以来、ユーリィはシローの部屋で寝泊まりをしている。


「シローさん、どうしたんですか? 寝不足なんですか?」


 隣に座っているユーリィが、何食わぬ顔でこちらを見上げてくる。

 まるで、自分は何も関係ありませんよ、と言っているようだった。違うベッドで寝ていたはずなのに、朝になったら同じ布団に潜り込んでいたり。寝込みを襲うかのように背中から抱きつかれたり。健常な男でもあるシローにとって、とても熟睡できるような状況ではなかった。


「どうせ、銃の整備でもしていたんだろう。……それに比べて、ユーリィは顔色がいいな」


「えへっ、わかりますか?」


「あぁ。なんか肌のツヤがいいっていうか」


「えへへ。実は、最近ぐっすりと眠ることができまして。寝起きの気分もとてもいいんですよ」


 嬉しそうにはにかみながら、ユーリィがこちらを見上げてくる。

 それを、シローは敢えて無視した。


「……コーヒーのお代わりをもらってくる」


 シローはそれだけ言って席を立つ。

 今のうちにカフェインをとっておかないと、午前中の授業で眠ってしまいそうだった。何より、ユーリィの甘えるような視線から逃げ出したい、という本音もあった。……いや、嫌ではないのだが、あの視線を向けられ続けると、頭のネジがどこかに吹き飛んでしまいそうだ。何というか、理性が危険アラートを鳴らし続けている。


 ……だが。


「はい、わかりました」


 何を思ったのか、ユーリィも一緒に席を立つと、シローの後を追いかけてきた。

 そして、ちょこんと服の裾を摘まむと、とことこと一緒に歩き出す。まるで生まれたばかりの雛鳥が、親鳥の後をついていくように。


 そんな二人の姿を見て、くすくすと笑い声がした。上級生からは生暖かい視線さえ向けられて、シローの居心地は更に悪化していた。


「なぁ、ユーリィ?」


「何ですか?」


「俺はコーヒーを取りに行くだけだぞ。別に、一緒に行動する必要はないと思うんだが?」


「はぁ」


 ユーリィが小さく首を傾げる。

 その表情は、何のことを言われているのか、わかっていないようだ。

 これが演技であれば逆に感心するのだが、困ったことに、彼女は実に自然体であった。ちょこんと摘まんだ服の裾は、何があっても離すことはないだろう。


「……まったく」


 シローは小さく溜息をついて、コーヒーを片手に席に戻る。

 そこには、それまでの光景を見ていたゼノが、にやにやと嫌味な笑みを浮かべていた。


「……シロー、懐かれたな」


「……ほっとけ」


 先ほどを同じ席について、頬杖をつきながらコーヒーカップを持ち上げる

 隣には、ユーリィが嬉しそうにシローのことを見上げていた。


「えへへ」


「なんだ?」


「なんでもないですよ」


 にこり、と彼女が笑う。

 その視線を感じながら、コーヒーへ口をつける。どうしてか、さっきよりも甘く感じた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ