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第21話 「悲しいけど、これランク戦なのよね」

――◇――◇――◇――◇――◇―


 ……くそっ、なんでこんなことになってしまったんだ!


 男は自分の傍に横たわるチームメイトを見て、この惨事を激しく呪った。


 状況は最悪だった。

 魔法による砲撃で仲間との連携もとれず、飛んでくる砲弾を見ては、慌てて逃げ出すことの繰り返し。


 さらに状況を悪くさせているのは、スナイパーの存在だ。

 塹壕に中から、ひょっこりと顔を出しては、こちらへ向けて狙撃してくる。


 しかも、なかなかの腕を持っているらしく、この距離でも正確に狙いを定めてくる。スナイパーライフルを持った黒髪少女と、観測手の男。その二人一組は、塹壕の中を走り回り、予期せぬ場所に出現しては、周到に狙撃を仕掛けてくる。


 ……不甲斐ない。

 ……最高の仲間に囲まれているはずなのに、俺は何もできないのか。


 これといった取柄もなく、使える魔法といえば暗闇を照らす照明魔法。夜戦であれば照明弾などを撃てるが、昼間の戦いが多いランク戦では、ほとんど戦力外通告を受けているようなものだ。


 ……そんな俺を、あの人は、……カレィ隊長は拾ってくれた。


 友と呼んでくれて、一緒に戦おうと言ってくれた。

 一人、また一人と仲間が増えて。四人のチームが出来上がった。一番になろうなんて思っていない。絶対に勝たないといけないわけじゃない。


 ……だけど。

 ……隊長や仲間に、友と呼んでもらえる間は、あいつらに恥じない男になると決めたんだ!


「うおおおぉぉ!」


 男は、倒れた仲間のライフルを拾い上げると、チームの隊長であるカレィの元へと駆け出した。

 せめて、あの人の盾にならなくては。


 隊長、待っていてくれ!

 今、助けにいくぞ!


「隊長っ! お前だけは、俺が守ってみせる!」


 二丁のライフルを構えながら、突撃兵のごとく駆けていく。

 男の視線の先には、まだ機関銃にしがみついている隊長の姿が映っていた。何度も爆風に巻き込まれても、その機関銃だけは離そうとはしない。


「はっ、はっ、……隊長!」


 男は砲撃の恐怖に怯えながらも、カレィの傍へと駆けつけた。

 そして、彼のことを守るように、二丁のライフルを敵へと向ける。


「隊長! 待たせたな! お前だけは何があっても、絶対に守ってやるぜ!」


 壮絶な戦場において、男は笑みを浮かべる。

 例え、ここが地獄だろうと。

 戦友と一緒なら怖くはなかった。


 ……だが。


「……た、隊長?」


 男は異変に気がつく。

 隊長が握っている軽機関銃『エレファント・DP28』。そこから、一発の弾も出ていないのだ。カラカラッと何かが空回りするような音と、残弾のない弾帯が風に揺れている。


 そして、何より。

 彼らのチームの隊長、カレィ・カリンカの目は。

 ……完全に白目を剥いていた。


「隊長ーーーーーーっ!」


 男は叫んだ。

 カレィ隊長の魂は、すでにその体にはなかった。機関銃の弾薬は底を尽きてしまい、魔法の砲撃に何もできなくなってしまった。


 だが、それでも彼はここに立っていた。

 この場所に立って、引き金を引き続けていた。

 例えこの命が朽ち果てようとも、機関銃からは手を離さない。その言葉を、身をもって体現しているのだと、男は瞬時に悟った。


「く、くそぉ! よくも隊長を!」


 男は敵チームの塹壕に向かって走り出した。


 両手には、戦友のライフルを握りしめて。

 心には、隊長の魂を背負って。

 男一人。敵地へ突貫する。


「うおぉぉぉ! 我が一生、一片の悔いなし!」


 彼が叫んだ、……その瞬間。

 男の目の前で爆炎魔法ボルケーノが炸裂した。

 凄まじい爆風に吹き飛ばされ、意識を刈り取られていく。

 その気絶する瞬間に、彼は心の中で思った。


 ……すまない、皆。

 ……俺も、ここまでのようだ。



――◇――◇――◇――◇――◇―



「あのー、シローさん?」


「なんだ?」


 塹壕から出てきたユーリィが、相手チームのほうを見ならがら口を開く。


「……これって、ランク戦ですよね?」


「……あぁ、そうだな」


 シローとユーリィがなんともいえない無常感を味わっている横では、ゼノが楽しそうに笑っている。


「敵ながら、気合の入った良い奴らだった。俺は、こいつらのことを絶対に忘れないぜ」


「……いや、死んでないからな」


 念のために釘を刺す。


 機関銃を構えたまま気絶している、カレィ隊長。

 フィールドに無残に転がっている仲間たち。その内の一人は、砲撃でできた大穴に、うつ伏せになって倒れている。


 そして、そんな彼らにひたすら謝っている少女がいた。

 ミリアが試作型グレネードランチャー『イフリート』を抱えたまま、敵チームのメンバーへと頭を下げている。


「あ、あの、あの! ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! こ、ここまでするつもりはなかったのです! 許してくださいっ!」


 何はともあれ。

 シローたちは二つ目の白星を掴むことができた。

 放課後に食堂の掲示板を見てみると、学園ランキングは99位から85位に上がっていた。





読んでいただいてありがとうございます!

月~金の更新予定でしたが、明日(10/21・土曜日)も更新しようと思います。よかったら見てやってください。

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