第19話 「完全なる奇襲」
「最高の気分だぜ! ヒヤッハー!」
カレィ・カリンカは機関銃を撃ち続けながら、その高揚感に酔いしれていた。
彼のトレードマークである丸眼鏡も割れていて、整えられた髪も完全に逆立っていた。温和だった時の姿など微塵もなく、その瞳は飢えた肉食獣のように獲物を探し続ける。
「よっしゃ! カレィ隊長に続け!」
「撃ちまくってやるぜ!」
「感じる! 脳内麻薬が理性を蝕んでいくのを感じるぞぉ!」
そして、彼のチームメイトもまた、似たような嗜好の持ち主であった。
帝国製のライフルをフルオートモードにして、塹壕に隠れている相手チームに撃ち続ける。
弾切れの心配はない。
なぜなら、彼らが普段から持ち歩いているコンテナには、それこそ山のような弾丸が収められているのだから。
「ひゃほー! 今日が塹壕戦でよかったぜ!」
「これで、また勝ち星が増えるな!」
「さあ、出て来いよ! 臓腑を引きづりだしてやる!」
普段なら決して口にしないような言葉を、この時ばかりは自然と口から零れる。
内気で弱々しい印象の彼らだったが、ランク戦では別人のように豹変していた。それもまた、チームの中心で機関銃を撃ち続けているカレィの『乱射体質』影響なのだろう。彼の高揚感が、チームの仲間にまで伝染していた。
塹壕戦、という本来の戦い方をまるで無視して、彼らは縦穴に隠れることなく銃を撃ち続ける。
銃弾は無限。
ならば、この快感も永遠だ。
そう言わんばかりの光景であった。
「ヒヤッハー! さぁ、神に祈る時間だ! 弾幕と機関銃の女神に、貴様らもひれ伏すがいいっ!」
カレィが景気よく、次の弾倉に手を伸ばそうとした。
その時だった。
相手チームの塹壕がピカッと光った。
何をしたのかと思っていたら、ポンッと巨大な弾丸が放たれていた。それは綺麗に放射状を描いて、彼らの視線の先に着弾する。
そして、次の瞬間。
凄まじい爆風と炎によって吹き飛ばされていた。
「ぎゃあぁぁっ!」
「ひでぶっっ!」
「ば、爆発したぞぉぉ!」
チームメイトの三人は、そのまま塹壕へと突き落とされる。
何が起きたのか、彼らは正確にはわからなかった。
ただ、ひとつ。理解したのは。敵のチームに《砲兵科》がいることだった。
「く、くそぉ! 砲撃とは卑怯な!」
「男なら正々堂々と戦え!」
爆炎魔法を放ったのが、ミリアだと知るわけもない彼らは、漢気をもって戦いへと挑もうとする。地面に落ちてしまったライフルを拾い、すぐさま塹壕から這い上がった。
だが、その数秒後には。
再び、爆風に巻き込まれていた。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
「あべしっっ!」
「ま、また爆発したぁぁ!」
次々と放たれる魔法による砲撃。
砲撃は一度きりで、それ以降は時間がかかると思っていた彼らは、何度も何度も爆炎魔法の餌食となる。
爆風に吹き飛ばされて。
塹壕に落とされて。
土と砂にまみれながら、苦渋に顔を歪める。
その圧倒的な威力の前に、彼らの中にあった闘志も消えかけていった。
「……な、なぁ。もう降参しないか?」
「……そうだよ。これは無理だ」
「……所詮、俺たちはここまでというわけか」
諦めにも似た空気が、彼らの周囲に漂っていく。
砲撃は、いまだ止まない。
たった一人の砲兵に負けるなんて、悔しくて仕方ない。だが、彼らの戦意も限界だった。塹壕という棺桶に身を縮ませ、砲撃の恐怖に脅えはじめる。
ただ、一人。
あの男を除いては。
「……おい、隊長はどこにいった?」
「……わからない。最初の爆発から姿を見ないぞ」
「……まさか。この砲撃に飲み込まれて、すでに―」
最悪の光景を想像してしまう。肉片だけになって、その存在すら消されているんじゃないか、と。
だが、そんな時だった。
彼らの耳に、聞き慣れた男の声が聞こえた。
「――ぉぉぉおおおお!」
爆風にかき消されそうになっているが、それでも確かに。
彼の声がしたのだ。
「まさか!?」
「まだ、戦っているのか!?」
「この砲撃の中を!?」
男たちは同時に顔を見合わせる。
そして、爆風に怯えながらも、そっと塹壕から顔を出す。
土と砂が舞う荒れ地に。
その男は一人で立っていた。
爆風に吹き飛ばされそうになりながらも、機関銃にしがみついて、その引き金を引き続けている。
「うおおおぉぉ! やらせはせん、やらせはせんぞ! 魔法の性能が、戦力の決定的な差ではないことを教えてやる!」
「「「隊長ーーーーっ!」」」
男たちは叫んだ。
そして、自分たちの愚かさを悟った。
あいつは一人になっても戦い続けているのに、自分たちは怯えることしたできないのか、と。
だが、彼らとて戦士である。
仲間が死を賭して戦う姿を見て、黙って見過ごすような男ではない。
「……隊長、お前って奴は」
「……本当に、馬鹿野郎だぜ」
「……あぁ、死ぬときは一緒だ」
にやり、と男たちは笑う。
覚悟は決まった。
いざ、友のために死地へと赴かん。
地面に転がっていた愛銃を抱きしめて、彼らは塹壕を飛び出した。
戦友の隣で死ねるなら、それは本望だ。
「隊長! 俺たちも一緒に戦う―」
男の一人が手を伸ばす、……その時だった。
一発の弾丸が、その男の頭へと着弾した。
そして、そのまま力なく地面に崩れ落ちてく。
「え?」
「おい、どうし―」
仲間たちが振り返る。
そして、仲間の額に残された銃弾の痕を見て、恐怖に背筋が凍りつく。
彼らは慌てて、相手チームの塹壕線を見つめた。
そこにはスナイパーライフルを構えた黒髪の少女が、静かに男たちを狙っていた。
……狙撃。
……砲撃さえも囮にした、完全なる奇襲であった。
「ひ、ひ!」
気がつけば、彼らは爆風の負けないくらいの大声で叫んでいた。
「「卑怯だろう、それはーーーーーーっ!」」




