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第17話 「次の対戦相手」


 陽が傾きだした、夕方頃。


 シローたちはミリアの魔法を確認してから、今後の作戦について話し合っていた。《砲兵科カノン》の射撃場は明らかに穴が増えているが、そのことは誰も気にならない。彼女の魔法を見た後では、それくらい当然だろうと、誰もが思うはずだった。


 射撃訓練場は学園の設備である。

 そのため、生徒たちは平等に使うことができる。学園の上位ランカーでも、シローたちのような99位のチームでも、それは変わらない。


 だが『あくまで原則』という頭文字がついてしまう。

 上位ランカーは何かと優遇されることがあり、下位のチームは上位に譲るべき、という悪しき風習がある。これも実力主義の魔法学園では仕方ないことだ。


 そんなこともあって、上位ランクの人間は、下位ランクに対して傲慢になりやすい。

 だが、それでも下位の人間にも礼儀正しい人はいる。作戦会議を続けているシローたちに近づいてきたチームも、そんな人間の集まりだった。


「こんばんは。次に、この射撃場を借りている者だけど、ここで待たせてもらっていいかな?」


 温和そうな男だった。

 ひょろりと痩せた体格に、穏やかな表情。顔にかけてある丸眼鏡が、学者然とした雰囲気を放っている。銃を持つよりも、ペンを持っていたほうが似合いそうな男だった。


「それとも、まだ作戦会議中だったかい? もしそうなら、話が聞こえないように少し離れているけど」


「……大丈夫ですよ。俺たちも終わったところなんで」


 一応、相手が先輩ということもあって、シローも敬語で対応する。

 まだ、作戦の説明の途中であったが、相手が相手なだけに話を中断せざるを得ない。


「そうかい。それじゃ、遠慮なく使わせてもらうよ。……皆、こっちにおいで」


 彼は自分のチームメイトの声をかけると、眼鏡を奥に穏やかな笑みを浮かべる。


「……君は、シロー・スナイベル君だね。僕の名前はカレィ・カリンカ。《普通歩兵科アサルト》の三年生だ」


「知っています。確か、現在のランキングは68位でしたね」


 ちらり、と後ろにいるゼノに目配せをする。

 彼もまた、静かに頷いた。


「ははは、そうだね。でも、今はちょっと調子が良いだけなんだ。本当の僕らはもっと低いランクの人間さ」


 自分たちを卑下するわけでもなく、事実だけを話している感じがした。

 その証拠に、彼の表情は常に朗らかだった。


「さて、学園のほうから聞いているかな? どうやら次のランク戦は、僕たちと戦うみたいだけど?」


「はい、知っています」


 シローは淡々と答える。

 数日後のランク戦。ミリアをチームに合流してから、初めてのランク戦だ。

 その対戦相手が、目の前にいる男。カレィ・カリンカが率いるチームだった。


「先輩たちがここに来たのは、偶然ですか? それとも俺たちへの敵情視察に?」


 ゼノがミリアを隠すように立ち位置を変える。

 次の対戦相手が決まってから、相手の情報を集めるのはランク戦の基本だ。シローのわずかに緊張した視線を受けて、カレィは朗らかに答えた。


「ははは、ただの偶然ですよ。この時間で使える《砲兵科》の演習場が、ここしかなかったので」


 嘘を言っているようには見えなかった。

 シローは彼の真意を測りながら雑談を交わす。そうこうしていると、彼のチームメイトが荷物を運んできていた。大きな金属製のコンテナを、男が三人がかりで持ち運んでいる。その三人もまた、カレィと似たような人間だった。

 一人は長身の猫背で、一人は小太りで、一人は身長の低い男だ。ふらふらとコンテナを運んでいる姿は、どこか頼りなく見える。


「……見ろよ、チームに女の子がいるぞ」


「……本当だ。いいなぁ」


「……うちのチームにも欲しいなぁ」


 そして、とてつもなく内気な性格をしているようだった。

 ユーリィがその視線に気がついて、にこりと笑ってみせると、男たちはさっと顔を下に向けた。


「それでは、俺たちはこれで帰ります。……皆、行こう」


 シローは仲間たちに声をかける。

 ユーリィとミリアはとことこと小走りで後を追いかけて、ゼノが後ろから悠然と歩いていく。


「ランク戦、楽しみにしていますよ」


 カレィが笑顔で手を振る。

 やはり、その姿は。実力主義の魔法学園の生徒とはかけ離れていた。


「なんだか、優しそうな人でしたね」


 射撃場から少し離れたところで、ユーリィが口を開いた。


「チームの皆さんも大人しい感じがしました。あんな人たちもいるんですね」


「あう~。……で、でも、次のランク戦の相手なのですよね? あの人たちも、ちゃんと戦えるのでしょうか?」


 ミリアが他人の心配をするとは珍しい。

 それほどまでに、彼らが弱々しく見えたのだろう。

 ……だが。


「そんな心配は不要だ。彼らのランキングが60台だぞ」


 シローが苦々しく言った。

 そんな様子を見てか、ゼノが二人の女子へと声をかける。


「ユーリィも、ミリアも。油断するなよ。あんな感じに見えて、あいつらは強いぜ」


「え?」


「そうなのですか?」


 二人が後ろを歩いているゼノへと振り返る。


「あぁ。そもそも、なんで《普通歩兵科アサルト》の人間が、《砲兵科カノン》の射撃場に顔を出すと思っている? 歩兵の武器といえは、ライフルかサブマシンガンくらいだ。だが、それだったら広い射撃場は必要ない。……奴らの武器は、もっと凶悪なものさ」


 けらけら、とゼノが笑う。


「それに、これも重要なことだがな。人間は見た目じゃ、そいつの本当の姿まではわからねぇ。相手の心配をするなら、奴らの魔法が何なのか。それを知ってからでも遅くはないぜ」


 ゼノは旧式のライフルを担ぎながら、ユーリィとミリアを見下ろした。

 二人はその言葉の意味を、次のランク戦で嫌というほど知ることとなった。


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