第16話 「試作型グレネードランチャー『イフリート』」
オルランド共和国も、ガリオン帝国も、銃の名称には動物が使われている。
共和国で唯一の国営銃器メーカー、イーグル社のスナイパーライフル『イーグル・M24』。
帝国製の最新型ライフル『クロコダイル・AK』や、近距離戦のサブマシンガン『ウルフ・UZI』。その他にも、散弾銃や軽機関銃といった種類があるが、どれも銃の特性にあった動物の名前が与えられている。
だが、それらの中で。一般的な動物ではない名前がつけられる銃があった。
軍部の試作品や、職人による特注品など。世界にたった一つしかない銃には、伝説上の動物や精霊などがつけられる傾向にある。
ミリアが持っている、帝国製の試作型グレネードランチャー。『イフリート』も、まさにそんな銃であった。
「……グレネード、ランチャー?」
「あぁ。それがミリアの使っている銃だ」
シローはユーリィに説明しながら、ミリアが手にしている奇妙な銃を指さす。
大きな銃だった。
そして、とても歪な形をしていた。全長は70㎝ほど。他の銃と同じように引き金があって、弾が出る銃口がある。
しかし、類似点はそれだけだった。
古いタイプの拳銃、回転式リボルバー銃を大きくさせて、両手で構えられるようにした外見。しかも、その回転弾倉が異様に大きく、装填する弾も大きい。
そして、弾が飛び出る銃口もまた、呆れるほど大きかった。比較するなら、シローたちが使っているスナイパーライフルの七倍ほど。もはや、小さな大砲といって構わないだろう。
「グレネードランチャーっていうのは、火薬の入った弾、……グレネード弾を撃ちだす銃だ。簡単に言えば、持ち運びできる小型の大砲みたいなものだ。グレネード弾は普通の弾より重いから、あまり遠くまでは飛ばせない。しかし、広範囲を砲撃できるのは、とても貴重な攻撃手段だ」
「実際には、どれくらいの距離に届くのですか?」
「だいたい300~400メートルだ。だが、真っ直ぐ敵を狙っても届かない。放物状を描くように、ななめ上を狙う必要がある。……そうだったな、ミリア?」
「ふえっ!? あの、その、……そ、そうです」
シローの問いかけに、ミリアはおどおどと脅えながら答える。
時刻は放課後。
場所は、学園の敷地内にある射撃訓練所。
これまでシローたちが使っていた狙撃用の射撃場ではなく、広大な敷地にでこぼことした隆起のある場所だった。地面には大小様々な穴があって、標的と思われる残骸がそこらに散らばっている。……ここは《砲兵科》の射撃場であった。
「なぁ、ミリア。学園のほうは大丈夫か?」
「は、はい、……大丈夫、です」
びくびくと辺りを気にしながら、ミリアが泣きそうな目で答える。
これまでずっと引きこもりだった彼女が、学園の授業に出て、ランク戦に参加しようとしているのだ。そのことが大きな負担になっていなければいいが、とシローは心配していた。
数日前の女子寮での爆発事件から、ミリアは学園に通っている。
引きこもるための部屋がなくなったことと、今回の爆発は事故ということにしてやるから学園に来い、というお達しがあったからだ。さすがに、それを伝えに来る命知らずな教官はいなかったので、シローが代わりに彼女に伝えると、意外にも素直に学園に来るようになった。
今では、《砲兵科》の一年生として、毎日学園に通っている。今のところ、大きな問題は起きてはいないらしい。
「でも、どうして急に学園に来る気になったんだ?」
「ふえっ!? え、えっと、その、……シロー先輩がいるからー」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ、なんにも!」
ミリアがぶんぶん首を振って、その度にピンクのツインテールが躍る。
彼女が何を言ったのか、よく聞こえなかったが、どうやらミリアにも学園に来る理由ができたようだ。それは良いことだ。だが、どうしてか、……ユーリィの視線が冷たく感じた。
「……なぁ、ユーリィ。なんで怒っているんだ?」
「え? 怒っていませんよ?」
にっこりと、小さな黒髪少女が笑う。
しかし、誰がなんと言おうと、その目は笑っていなかった。
「いいから話を進めようぜ。もう俺は、腹が減っちまったよ」
ふわぁ、とゼノがあくびを漏らす。
この場には、シローのチーム全員が集まっていた。次のランク戦への作戦会議と、ミリアの魔法は実際に見てもらったほうが良い、というシローの発案だった。
「射撃場の貸出時間も決まっているんだ。早くしないと次のチームが来ちまうぜ」
「そうだな。では、話を戻そう」
シローはミリアから銃を受け取って、皆に見えるように構えた。
「……この試作型グレネードランチャーの名称は『イフリート』。まだ帝国の試作段階のもので、市場には出回っていない。つまり、他のチームも持っていないということだ。これは俺たちにとって、かなり有利なことだ」
ユーリィとミリアが真剣な顔で頷く。
「この銃の最大の特徴は、六発連続で射出できることだ。引き金を引くたびに、回転弾倉がひとつ動いて、すぐに次の弾を撃てる。絶え間なく撃つことで、あっという間に広範囲を制圧できるんだ」
ランク戦の戦闘区域が野外で、開けたフィールドであったのなら、とてつもない威力を発揮するだろう。
逆に、屋内の戦いだったら出番はない。こちらの身が危なくなる。
「はい、シローさん。質問です」
ユーリィが手を上げた。
「そんなに便利なものがあったら、魔法なんていらないんじゃないですか?」
「お、いい質問だな」
シローが回転弾倉を開けて、グレネード弾が入るところを見せながら答えた。
「ユーリィの言う通り、この試作型グレネードランチャーが完成すれば、誰でも砲兵として活躍できるだろう。……だが、まだ実用の段階ではない」
「なんでですか?」
「技術的に不可能なんだ。そもそも連発式グレネードランチャーという設計思想が、帝国の技術力ですら及ばないところにある。……とりあえず作ってみた、……でも、危なくて誰も使えません。そんな失敗武器なのさ。帝国内でも実射試験を行っているみたいだが、暴発事故が後を絶たないらしい。唯一、運用が保障されているのが、爆発系の魔法を併用させての砲撃だ」
「えっと、……つまり?」
頭の上に疑問符を浮かべているユーリィに、シローがあっけらかんと答えた。
「これはミリアにしか使えない。他の奴が勝手に使おうものなら、その場で吹き飛ぶことになる」
「うわぁ!」
ユーリィが大げさに驚いた。
だが、それは本当のことだった。
ミリアは類いまれなる魔法の力(コントロールできるかどうかは、軍の砲兵主義のもとに無視されている)を持っていた。彼女が学園を退学にならなかったのも、将来を有望とされている《砲兵科》であることと、これだけの魔法を使える奴を野放しにできない、という理由からだ。
また、裏の事情では。『イフリート』の試験データを提供することで、帝国から莫大な資金を巻き上げていたりもする。
「でも、ミリアさんって凄いんですね。世界にたったひとつだけの特別な銃を使えるなんて」
「い、いえっ!? そ、そんなこと、ないのです!?」
ユーリィにさえ、ミリアはびくびくと脅えていた。
自分より小さい女の子が、年上の先輩だと知った時は、心の底から驚いていた。そして、ちゃん付けで呼んだことを、何度も謝っていたそうだ。
「……そういえば。戦争の英雄『ホワイトフェザー』も、世界にひとつだけの銃を使っていたらしいな」
唐突に、ゼノが言い出した。
その内容に、ユーリィが首を傾げる。
「ホワイトフェザー?」
「あぁ。ユーリィは知らないのか? 帝国の『戦場での要注意人物』の一番上に載っている奴でな。戦時中は懸賞金をつけられたほどさ。そうだったよな、シロ?」
「……さぁな、俺は知らん」
ゼノの問いに、シローは他人事のように答える。
その様子を、ユーリィがじっと見つめていた。
「まっ、いいさ! ミリアがランク戦に参加すれば、この間みたいに無様に負けることはねぇ。次こそ、ぶっ飛ばしてやるぜ」
「ゼノ。やる気を出すのはいいが、あまりプレッシャーをかけるなよ」
「あぁ、わかっているさ」
にやり、とゼノが笑う。
「ミリアの砲撃は、敵の勢いを削ぐための広範囲攻撃だ。直接倒すのは、俺と、シロとユーリィの狙撃銃さ。そこに変わりはない。そうだろう?」
ゼノが、年季の入った旧式のライフルを掲げてみせる。
そんな彼を見て、シローは溜息をついた。
……なんだ、よくわかっているじゃないか。




