第15話 「四人目の勧誘」
「あの、それで、……シロー先輩は、どうしてここに?」
ミリアの問いかけに、シローは本来の目的を思い出した。
「そうだった。今日はミリアに頼みがあってきたんだ」
「た、頼み、ですか?」
何を言われるのか、と少し身構えている彼女に、シローは淡々と言った。
「学園に来ていないミリアは知らないかもしれないが、今の俺たちは本気でランク戦に取り組んでいるんだ」
「ら、ランク戦!? シロー先輩がですか!?」
ミリアが驚いたように目を丸くさせる。
シローが、銃の引き金を引けない『臆病者』だと、当然ながら彼女も知っていることだった。
「あぁ。俺とゼノ、そしてユーリィの三人でチームを組んでいる。だが、やはり仲間が足りなくてな。この間も、何もできずに負けてしまった」
相手が自分たちより上位のランクとはいえ、四人いればもっと違う戦いができたはずだ。
「そこで、皆と話し合ったのだが、……ミリア。お前の手を借りられないだろうか?」
「あ、あたし、ですか!?」
「あぁ。無理を承知で頼んでいる。不登校のお前には酷な話だということも知っている。だから、気が向いたらでいいんだ。一緒にランク戦に参加してくれないだろうか?」
シローは軽く頭を下げる。
ミリアがチームに合流してくれれば、戦力的にも上位ランカーとも渡り合えるようになる。ゼノの言っていたとおり、それは正しい計算だろう。
だが、シローは。
そんな事ではなく、まったく別のことを計算していた。
そもそも、シローにとってランク戦とは、ただの学園の行事であって、絶対に勝たなくてはいけないものではない。学園のトップなんて、ゼノが勝手に目指せばいいのだ。シローとしては、学園長の指示通りに、ユーリィの面倒を見れれば良いと思っている。
つまり、これは見せかけだけの説得。
パフォーマンスなのだ。
この場にはいないゼノには悪いが、さりげなくミリアが断わるように話をしよう。シローの腹の中で、無気力な打算が積み上げられていく。
「……が、学園には、行きたくないのです」
戸惑っているミリアに、シローは曇りのない眼差しを向ける。
「それはわかっている。だが、これはミリアにしかできない重大なことなんだ。それは理解してほしい」
……責任の重圧。
「同じチームにいるんだ。チームの仲間のために、手を貸したいという気持ちはないだろうか?」
……義務感に陥れて。
「無理にとは言わない。断っても、決して怒らない。でも、可能ならば。俺たちを助けてほしい」
……そして、あえて逃げ道を作ってやる。
完璧だ。
責任や義務感に押しつぶされそうになった時、目の前の逃げ道に走るのが、人の情というもの。これなら彼女も責められないし、ちゃんと説得したという事実も残る。
あとは彼女から、ごめんなさい、という声が聞ければ計画通りだ。
「し、シロー先輩を、助ける?」
「あぁ、そうだ」
「で、でも、……あう~。あたしに、そんなことができるでしょうか?」
まだミリアは迷っているような様子だった。
……ちっ。押しが足りないか。
……ならば、実力行使するまでだ。
「ミリア!」
「ひゃあう!?」
どんっ、と壁に手をついて、彼女の顔へと近づいていく。
そして、ミリアの頬に手を伸ばすと、くいっと視線を合わせるためをに顎を上げさせた。
……どうだ。
……これだけ強引にされたら、断りたくなるだろう。
「あ、あうあう! し、シロー先輩!?」
「俺のチームには、お前が必要だ。無理にとは言わない。気が向いたらでいい。考えてくれないか?」
「し、シロー先輩……」
それまで強張っていたミリアの体から、そっと力が抜ける。
瞳を潤ませながら、ぼぅと頬を染める。
そして、身を委ねるように体を預けながら、彼女の小さな唇は囁いた。
「は、はい。……シロー先輩の、お役に立てるなら。……よろしく、お願いします」
まるで夢でも見ているように、虚ろな目を細めている。
それから、ふらふらとした足取りで、ミリアは中庭から去っていった。大丈夫かなと心配になるが、シローは今更になって自分の大きな過ちに気がついた。
……あれ?
……どこで間違えたんだ?
自分の誘導は完璧だったはず。それなのに、なぜミリアはあんなにも簡単に了承をしてしまったのか。
そんなのことを真剣に考えていると、突然、右足に激痛が走った。
「痛ってぇ!」
あまりの痛みに、思わず悲鳴が出てしまう。
そして、何が起きたのか考える間もなく、丁寧な口調が耳に入ってきた。
「あら、ごめんなさいね」
ユーリィがにこりと笑っていた。
言葉の内容だけは謝罪しているのだが、どう見ても行動は伴っていなかった。小さな足を振り上げては、先ほどと同じところを蹴ろうとしていた。
「この、この!」
「痛っ! ユーリィ、やめろって!」
シローが頼んでも、彼女は止めようとはしなかった。
その小さな体を存分に生かして、足の急所を的確に狙ってくる。
「やっぱり、女の子だったら誰でもいいんですね!」
「ちょっ、何を怒っているんだよ!」
「怒っていません!」
それからしばらくの間、彼女のシローへの怒りは治まらなかった。




