第14話 「女の子だったら、誰でもいいんですね」
オルランド魔法学園に入学するためには、魔法の素質、……魔力反応があることが必要だ。
魔力反応は、出生時の検査や幼年学校の健康診断に行われるため、共和国に住む人はほとんど検査をしている。そして、その反応があった者にのみ、この魔法学園への入学手続きが進められるのだ。
しかし、この時点では。
生徒は大きく二つに分類されてしまう。
すなわち、魔法を自分の意思で扱える人間と、自分ではコントロールできない人間だ。
強力な魔法を持っているものほど、その力に振り回されてしまう傾向がある。そういった生徒たちが、正しく魔法を使えるようになるのも、この学園の存在意義である。
……女子寮に引きこもっていたミリアも、まさにそんな生徒であった。
「あうあう、その、ごめんなさい!」
ひたすら頭を低くして謝っているのは、先ほどの爆発を起こした張本人のミリアだった。
場所は、女子寮の中庭の隅。
周囲からはちょっと見えない、建物と植木の隙間で、彼女はずっと頭を下げ続けていた。
「そ、その、シロー先輩が来てくれるなんて、全然、考えてなくて。……だから、あの、その―」
「いいから落ち着け。これでは会話にならない」
シローは謝ってばかりの後輩に、優しく声をかけた。
「それに寮の一部が壊れただけで、怪我人もいなかったんだ。そこまで気にする必要はない。なぁ、ユーリィ?」
隣で、女子寮の三階を見上げているユーリィに声をかける。
しかし、彼女からは肯定の返事がなかった。
その代わりに―
「……シローさん。ゼノさんの姿が見当たりませんけど?」
「この魔法学園では、こういった事故はつきものだ。そこまで自分を責めるなよ」
「……あの、三階のベランダに。……黒焦げになって動かない、人のようなものが引っ掛かっているのですが?」
「それにしても久しぶりだな、ミリア。お前が編入してきて、もう半年くらいか。時間が経つのは早いな、ハハハッ」
ユーリィの声には耳も貸さず、白々しい笑みを浮かべている。
そもそも、あんなことになったのは、全てあの男が悪いのだ。気を使ってやる必要なんてない、とシローは心の底から思っていた。
先ほどの爆発で、ミリアの部屋は吹き飛んでしまった。
だが、幸いにも。被害は思いのほか少なかった。
隣の空き部屋に穴があいたのと、下の掃除用具室が瓦礫に埋まった程度だ。ミリアにはルームメイトはいないので、他に怪我人もいない。
元々、こんなことがあってもいいように部屋を割り当てられているので、他の生徒には大きな影響はなかった。
「あうあう~、本当に、お騒がせしました」
もう一度、ミリアが深く頭を下げる。
そして、女子寮を見上げていたユーリィに声をかけた。
「えっと、あの、あたしの名前は、ミリア。……ミリア・プロヴァンスです。よ、よろしくお願い、します」
びくびくと怯えながら、自分より背の低い女の子へ挨拶をする。
そんな彼女へ、ユーリィはいつものように笑顔で対応した。
「はい、よろしくお願いします。私の名前は、ユーリィといいます」
ユーリィが人見知りをしないのは知っていたが、ミリアがちゃんと挨拶をしたことは意外だった。コミュニケーションが苦手で、普通に会話するのも難しいほどなのに。
たぶん、自分より年下だと思っているのだろう。
まぁ、無理もない。
「ミリアの魔法は爆発系なんだ。強力な魔法だが、それだけ扱いが難しくてな。感情が高ぶったり、情緒不安定になると、さっきみたいに暴発してしまう」
「あう~、ごめんなさい」
しゅん、と肩を落としながら、ピンク色のツインテールを揺らす。
「謝ることじゃない。魔法を扱いきれていない人間は、この学園に結構いるんだ。ミリアの場合は、それが目立ちやすいだけさ」
「は、はい、……あ、あの、ありがとうございます!」
ミリアが顔を上げて、シローのことを見上げる。
ぼぅ、と頬を赤らめていて、今にも泣きだしそうなほど瞳が濡れている。まるで、恋する乙女のようであった。
その様子を、ユーリィはじっと見ていた。
「あ、あの! シロー先輩に聞きたいことがあるのですが!」
ミリアが意を決したように、必死に声を絞り出した。
今や、彼女の耳まで赤くなっている。
「ん? なんだ?」
「あの、その、ですね!」
シローとユーリィのことを交互に見ながら、彼女は大声で尋ねるのだった。
「し、シロー先輩と、ユーリィちゃんは、そ、その、……こ、恋人なのですか!?」
一瞬、その質問の意味がわからなかった。
というか、なぜそんなことが気になるのか理解できずにいた。
「は? ミリア、何をいって―」
「違いますよ」
シローの声を遮って、ユーリィが言葉を被せてくる。
どうしてか、いつもより声に力があるような気がした。
「そう、なのですか?」
「はい。私は最近入学したばかりなので、学園のことがよくわかっていません。なので、シローさんは学園長さんに言われて、私の面倒を見ているだけです。……ですよね、シローさん?」
にこり、とユーリィが笑う。
しかし、なぜか。その目はまったく笑っていなかった。
「そ、そうなのですね、……あう~」
ユーリィの言葉に、ほっと安心したように小さく息をはく。
そんなミリアを見て、今度はユーリィが質問する。
「ミリアさんは、どうなんですか? もしかして、シローさんのことが好きなんですか?」
「す、好きっ?!」
ぼふっ、とミリアの顔が真っ赤に染まる。
それが自分でもわかっているのか、赤くなった顔を必死になって隠す。そして、もじもじしながら小さな声で答えた。
「あた、あたしは、そんな大層なことは、……し、シロー先輩は、その、憧れみたいなもので―」
「憧れ?」
ユーリィが首を傾げる。
「は、はい。入学してすぐのとき、悪い人たちに捕まっちゃって。暗い場所へと連れていかれそうなところを、シロー先輩に助けてもらったのです。……はぁ~、あの時の先輩は、カッコよかったなぁ~」
ぽっ、と頬を赤くさせる。
その感情が何なのか、ユーリィにはすぐに理解できた。
「悪い人に捕まって、ですか」
にこにこと笑っていたユーリィが、こちらへ振り向いた。
そして、それまでの笑顔が何だったのかと問いたくなるほど、急に表情を変えたのだ。ジドッとした疑いの眼差しを向けて、不機嫌そうに唇を尖らせる。
「ふぅ~ん。シローさんは女の子だったら、誰でもいいんですね」
「お、おい! なんだ、その誤解を生みそうな発言は!?」
「いいんですよ、別に私は。……どうせ発育が悪いし、食べごろになるまで時間がかかりますもんね」
ぺたぺたと自分の体を触りながら、羨ましそうにミリアの豊かな胸を見る。何を食べたら大きくなるのだろう、と考えているようであった。
「……シローさんの、えっち」
「お前、ここが女子寮の敷地だと知ってて言ってるだろう!?」
「ふん、冗談ですよ。気にしないでください」
そう言いながらも、どこか不満そうな表情を浮かべている。
その感情が何なのか、シローにはさっぱり理解できなかった。




