花の色は
南から春一番が吹きました。
冷たい雪も解けました。
心がなんだか、騒めきます。
日差しがもう少しあたたかくなったら、薄紅の着物を纏いましょう。
そっと紅を引き、嫋やかに微笑めば、あなたはきっと、私に見惚れてしまいます。
私を欲しいと仰るかもしれません。
もしそう言われたら、私は何とお答えしましょう。
雨が降り、燕が薫る風を連れてやって来たら、翠の着物に着替えましょう。
薄紅の着物のような華やかさはありませんから、あなたはお気に召さないかもしれません。
その頃にはもう、盛りを迎えた他の可憐な花に、目移りしていらっしゃることでしょう。
そんな事は無いと、あなたは仰るかもしれません。
けれど私には分かります。
うつくしさの盛りを過ぎた私では、たとえ道ですれ違っても、あなたはきっと、ちらとも見てはくださらないでしょう。
そういうものと、分かっています。
分かっているのです。
人の心が移りゆくのは世の常なのだと。
詮無き事をと、お笑いになるでしょうか。
あわれな女のたわ言と、捨て置いてくださって構いません。
でもほんの少しだけ、恨み言のひとつくらい、今は申し上げたい気分なのです。