誕生そして旅立ち9
ローラとリナと魔力談義で盛り上がっていると、話し声が聞こえたのかウィルとコナンが駆け寄ってきた。
「ズルいぞ2人共!アークさん、俺達にも何か教えてくれよ」
「無茶を言うな。お前達が知りたいのは体の使い方だろう?ドラゴンの俺じゃあ人間の体の使い方は教えようが無い。この2人が知りたいのは魔力の使い方だから俺でも話が出来るんだ」
「「えー」」
せっかく話が盛り上がってきた所で横入りしてきたため、要望を即座に拒否する。実際教えられそうな事も無いしな。とは言えまるっきり無視するというのは気が咎めるので、話題を提供する。
「剣士でも魔力を使うことはないのか?」
「身体強化という技能があります。魔力を使って身体能力を向上させる技術なのですが……」
「この2人は魔力操作が下手くそだから使えないよ」
「「……」」
貶されて悔しいが、事実だから反論できない、そんな心の声が聞こえてきそうな顔をする2人。どうやら剣士でも魔力は大切なものだったらしい。というか話を聞いただけでも強くなるためには必須の技能じゃないのか?
「どうして魔力操作が下手だと身体強化が使えないんだ?」
「身体強化は魔力を体に循環し発動するのです。ですが魔力は操作を誤ると暴走を始めます。体の中で魔力が暴走すると命に関わるので、魔力操作が下手だと使用する事が禁じられているのです」
「魔力が暴走するとどうなる?」
「言葉で説明するよりも、実際に見た方がわかりやすいです。ですけど身体強化を暴走させる訳にもいきませんから、攻撃魔法を暴走させてみましょう。リナ、お願い出来ますか?」
「まっかせて。いくよー、火炎球」
リナが実演してくれるようだ。攻撃魔法である火炎球を発動する。リナの構えた手のひらに、20cm位の火の玉が出現した。
「これが安定した状態の火炎球。本来はこれを敵に向けて飛ばすんだけど、これをわざと暴走させると……」
リナが説明してくれつつ、わざと暴走させる。見ていると……最初は特に変化がわからなかったが、やがて激しく不規則に明滅し始めた。見ているだけで不安感が込み上げてくる。そして明滅の感覚が短くなっていき……
「あ、ここまでかな」
そんな言葉と共に、リナはその火の玉を投げ捨てる。火炎球は地面に落ちる前に空中でボンッという音と共に爆発した。
「あのように、魔力が暴走すると爆発する事があります。魔力を放出するタイプの魔法でしたら、暴発に巻き込まれての怪我程度で済みますが、身体強化ですと最悪腕などが吹き飛びます」
何それ恐い。
まあウィルとコナンが強くなるには、魔力操作を覚えて身体強化を使えるようになるのが手っ取り早くて確実だな。
そういえば俺は魔法は使えるから身体強化も使えるのだろうか?
ローラに聞いてみると、魔力の量を調節した治癒が使えるのだから、身体強化も使えるのではないか、との事。身体強化は魔法ではないので、呪文は不要で、体に魔力を循環させる事で使用するのだそうだ。
魔力に関しては治癒を使うときの感覚を利用して、体を循環するように……これでどうだ。
「おおっ、これはいいな。全身に力がみなぎる」
体に掛かっていたリミッターが外れたような感じで、限界を超えた力が出せそうな気がする。反面、あまり長い間使用していると体に反動が返ってきそうだ。短期決戦向けかもしれない。使える事も確認出来たので、影響が出る前に身体強化を解除する。
「ん?」
何故か周囲が静かだ。周りを見渡すと、ローラ達皆がひきつった顔をしている。何かあったのか?
「おいおい、すごい気配を感じたが何事だ!?」
俺達の話が盛り上がるのに任せて、1人で先導していたマーカスが慌てた様子で駆け戻ってきた。
どうやら俺の身体強化は、周囲に強い威圧感を振り撒いてしまうらしい。戦闘中か、もう少し制御が上手くなるまでは、人前での発動は避けた方がいいかな。
「すまない、身体強化というの教えてもらったので試しに使ってみたんだ」
「そうか。あんまり驚かさないでくれ、最上級の魔物でも現れたのかと思ったぞ。いやまあ、あんたはドラゴンなんだからあながち間違いでもないが」
寿命が縮むかと思った、とマーカスは笑った。
その後は大きなトラブルもなく順調に移動し、距離を稼ぐことが出来た。このペースなら昼過ぎにはフィーゲルに着きそうだということになり、飽きた木の実で昼食にするくらいならと、昼食を取らずに歩き続けることになった。
長い移動時間も、ようやく始まりそうな新生活を考えていればあっと言う間に過ぎていき、お昼を少し過ぎた頃、地平線の先に辺境の街フィーゲルが姿を現した。
「よし、フィーゲルが見えたな。アーク、あんたはここで暫く待っていてくれ」
「えっ!?」
ようやくフィーゲルにたどり着いたと思ったその時、マーカスがそんな事を言い出した。期待が大きかったが故に、その衝撃もまた大きかった。
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