誕生そして旅立ち7
筆が進んだため投稿します。そろそろ更新ペースが落ちそうです。
マーカス達はフィーゲルの街に向けて移動を始めたが、荷物が無くなってしまったので、この森で食料を確保していきたいらしい。この森の名前は『恵みの大森林』と言うらしく、その名に違わず季節を問わず様々な果実が豊富に実っているそうだ。
外に出るまでの道なりにも果物が生っていたので、時々回収していく。途中でマーカスが上を向いて立ち止まった。
「どうかしたのか?」
声をかけて視線を追うと、俺の背丈より高い所に木の実が生っていた。ブドウのような果実で小さな実が固まって生っている。緑色なのでまだ熟していないようにも見えた。
「あの木の実は、カロリの実といって美味しくて腹持ちのいい木の実なんだ。出来れば持って行きたいんだが」
そう言ってこちらを見やる。高さを考えると人が登っていくのは難しいだろう。そういうことなら協力しよう。
「落としてやろう。少し離れていてくれ」
マーカス達が離れたのを確認してから、俺は行動に移る。空を飛べば簡単なのだが、頭上は木が生い茂っていて飛び上がれるスペースが無い。ならばどうするかというと、
ドン
尻尾を木に叩きつけて衝撃を与えてみた。衝撃を受けてカロリの実が落ちてくる。
「こんなものでどうだ?」
「もう少し欲しいな。もう1度お願いできるか?」
追加で落とすためにもう1度尻尾を振るう。さっきよりは力を込めて、強く叩きつけた。
ズドン……メキメキッ
ちょっと自分が思っていたよりも大きな音がして、続けて木がへし折れてしまった。
「おっとすまない、やり過ぎてしまった」
「……カロリの木をへし折るか。あの木は固くて簡単には折れないはずなんだが。まあいい、ありがとう助かった。これで街までの食料は大丈夫だろう」
何だか呆れられてしまった様だが、目的通りカロリの実を手に入れることが出来た。食べ物よりも飲み物の方が大事なんじゃないかと思って聞いてみたが、帰り道に沿って川が流れているらしく、飲み物は心配しなくても大丈夫らしい。
人の文明は水源の近くで発展するとも言うので、当然のことか。この森だって水が無ければ枯れてしまうだろうしな。
それからは特に何も無く、森を抜ける事が出来た。本来なら、森に住む様々な魔物が襲いかかってくるらしいのだが、多くの魔物が、増えたゴブリン達の餌にされてしまったんじゃないか、との事だった。
ついでに俺の存在も大きいらしい。マーカスに
「ドラゴンに喧嘩を売るようなバカは普通いない」
と言われた。
森から出て直ぐに街道が有った。道を辿って南に行くとフィーゲルの街に着くらしい。この森の実りを求めて、時々人が出入りするため自然に出来た道なんだそうだ。
「だからあんなにゴブリンが繁殖するなんておかしいんだけどな」
森の中と違い、街道は歩きやすい。この道を2日も歩けばフィーゲルの街に着くらしい。俺が飛んでいけばあっと言う間に着くんだが、街が大騒ぎになるから止めてくれとマーカスに止められた。
失礼な。さすがに自分1人で飛んでいったりするものか。一緒に行けばマーカス達から口添えをしてもらえる。それは俺にとって、1日時間を短縮することよりも余程ありがたいことなのだから。
昼食は歩きながら木の実を食べた。俺も食事は必要無いんだが、カロリの実をもらったので食べてみた。食べる必要が無いだけであって、食べられない訳じゃない。味は桃に似ていると思うが、俺にとっては粒が小さすぎるためイマイチよくわからない。
いつもなら昼食は休憩をしてとるそうだが、『恵みの大森林』でのゴブリンの大量発生を伝える必要が有るため急ぐらしい。
昼食を取りながら黙々と歩き続ける。マーカスはまだ余裕が有りそうだが、他の4人は戦闘の疲れも有るのか辛そうに見える。特に後衛の女の子達は限界なんじゃないだろうか。
「マーカス。急ぐ理由はわかるがこのペースだと体が持たないぞ。今日は早めに休んで明日早く出発した方がいいんじゃないのか?」
「だが……、いやその通りだな。今日は早めに休憩を取ろう。向こうに見える木立で夜営をすることにする。辛いだろうがもう少し頑張れ」
最初は反対しようとしたマーカスだが、4人の姿を確認すると休憩する事を決めた。
30分程で目指していた木立に到着した。夜営のためのテントなども無かったが、雨が降ることもなさそうだったのでマントにくるまって寝るらしい。
火を起こして、昼食と同じく木の実の食事をしたら、冒険者4人は直ぐに眠ってしまった。冒険者が寝たのを確認すると、マーカスがそっと俺に話しかけてきた。
「さっきはすまなかった。俺も周りが見えていなかった。本来なら俺が気にしておかなければならない事だった」
何の事かと思ったら、先程の「早めに休んだらどうか」と言った事に対する礼らしい。
「俺が自分の目的のために、そうした方がいいと思ったからそうしただけだ。そんなに感謝しなくていい。それよりお前は休まないのか?寝ずの番なら俺がやっておくぞ」
「休みたいのは山々何だがな……」
その様子にマーカスが何を考えているのかがわかった。
何だかんだ言っても、俺が本当に信頼できるのか心配なのだろう。だから俺はマーカスに判断材料を与えた。
「殺すつもりならわざわざ助けないし、食べるつもりならいつでも食べられた。俺の目的のためには元気に街にたどり着いてもらわないといけないし、出来る限りの俺に好感を持ってもらいたい」
俺が何を言いたいのかがわかったのだろう。マーカスは俺を見つめて頭を下げた。
「ありがとう、何から何まで助けてもらい感謝する」
「構わないよ。恩に思うならその分俺が街で暮らせるように口添えをしてくれ」
正面から感謝の意を告げられ、恥ずかしくなった俺は首を背けた。マーカスが笑っている気配を感じながら、誤魔化すように焚き火にくべる木の枝を探しに行った。
誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。