誕生そして旅立ち6
協力を約束してもらったところで、マーカス達は街に戻る準備を始めた。もっとも、移動しながら戦っていたため、邪魔になる荷物は全て投げ捨ててしまっていたので、たいして時間は掛からなかった。
俺は荷物など無いのでその様子を見ていたのだが、彼らが結構怪我をしているのに気付いた。戦うのに支障の出る大きな怪我は魔法で治していたようだが、小さな怪我があちこちに残っている。
荷物をまとめて移動できる状態になったので、マーカスに怪我について聞いてみた。
「怪我を治さなくていいのか?さっきあの子が回復魔法を使っていたと思うんだが?」
まだ名前を聞いていないので尻尾でその子を指しながら聞くと、
「そう言えばまだ名前を伝えていなかったな。男2人はそれぞれウィルとコナン、どちらも剣士だ。回復魔法を使っていたのが神官のローラ、最後が魔法使いのリナという。
怪我についてだが、ローラ、回復魔法はまだ使えるか?」
「すいません、魔力切れです」
「という訳だ。回復したいのは山々だが、魔力が無いから魔法が使えん」
説明ついでにそれぞれを紹介してもらった。挨拶をしていると、ローラから魔力切れだと説明を受けた。
「魔力切れか。俺は回復魔法が使えるから良ければ回復しようか?」
「?ドラゴンなのに回復魔法が使えるのか?出来るのなら助けてもらった上で申し訳ないが回復を頼みたい。怪我が無ければ早くここから移動出来るからな」
回復を頼まれたのは良いのだが、マーカスの言葉に俺は心の中で首を傾げる。普通ドラゴンは回復魔法を使えないのだろうか?そう言えば聖龍は聖魔法に適性が有るとか母が言っていたな。聖龍以外は聖魔法が使えないのなら、普通のドラゴンは回復魔法が使えないというのにも頷ける。これも後でちゃんと確認した方がいいな。
「ではいくぞ。治癒!×5」
他人に治癒をかけるのは初めてなので、多少魔力を多目に込めて発動する。俺にとって治癒で消費する魔力は極僅か。10回発動してようやく全魔力量の1%になるかどうかといったところだ。……ドラゴンだから魔力量も多いのだろうか?ローラは魔力切れで治癒が使えないとのことだったが、この消費量だったら俺が戦闘中に使えなくなるというのは考えづらい。魔力は時間経過で回復するので、さっきの治癒で使った魔力も直ぐに回復するしな。
少し思考を巡らせている間に治癒が発動しマーカス達5人の傷を癒していく。
「うん?」
何か変な所でも有ったのだろうか。どうも様子がおかしい。マーカス以外の4人は怪我が治ってホッとした様なのだが、マーカスはしきりに膝を触っている。
「なあアーク、今のは治癒だよな?」
「そうだが?何かおかしな所でも有ったのか?」
「いや、俺が冒険者を引退した原因の膝の古傷が痛まなくなってな。治癒では古い怪我は治らないし、古い怪我を治すような回復魔法なんて知らないから、ドラゴンの秘密の魔法だったりしたのかと思ったんだ。まあ呪文は治癒だったから治癒のはずなんだけどな」
「わからないな。人間に治癒をかけるのは初めてだったから多目に魔力を込めた。それが原因なんじゃないか?」
治癒では本来治らない怪我まで治っていたので、様子がおかしかったらしい。よくわからないなりに原因を考察すると、
「ドラゴンが多目に魔力を込めて発動した治癒か……」
と呟き考え込んでしまった。
「移動しなくていいのか?」
「っ!?すまない、移動しよう。よしお前達、怪我は治ったな。街に戻るぞ」
早くここから移動したいと言っていたのに考え込んでしまったので、声をかけて急かす。幸い直ぐに我に返り、出発の号令をかけてくれた。
移動しながらマーカス達と話をして色々と教えてもらった。彼が冒険者ギルドの職員であること、他の4人が駆け出しの冒険者であること。冒険者について、冒険者ギルドについて。
冒険者について教えてもらった内容で気になる点があった。上手く行けば、この先役にたつかもしれない。今確認すると意味が無くなりそうなので、必要な時に確認させてもらおう。
先程彼らを襲っていたのはゴブリンという魔物らしい。人間の女を襲って孕ませる事もあるので、討伐が推奨されているそうだ。能力的には単体だと魔物の中でも最弱の部類らしいが、繁殖力が高く、数が直ぐに増え大きな群れになることもあるらしい。群れが大きくなるとゴブリンの中からキングなどの上位種が現れ、討伐難易度が高くなるらしい。
今回襲ってきたゴブリンは中規模の群れで、上位種迄は産まれていなさそうだが、数が増えると困るので、街に帰り次第冒険者ギルドに報告し、討伐隊が結成される事になるだろうということだった。
ついでにドラゴンについても聞いてみたのだが、最強の生物と言われ、敵対しようものなら確実に死ぬと言われているらしい。通りで出会った時に警戒されているわけだ。
そのため、街に近づく前に報告に行って領主の判断を仰ぎたいと言われた。
今から向かう街の名前は辺境の町フィーゲルと言い、辺境伯が治めている辺境最大の街なんだそうだ。この地は僻地になるので、ほとんどの場所が開拓されておらず、魔物も多いので堅固な城壁で囲まれているらしい。
「あんたなら壊せてしまいそうだがな」
説明していたマーカスはそう言って笑った。
誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。