騒動の裏側で1
マノニア帝国軍総司令 ヴェルンハルト将軍視点
「バカな!失敗しただと!……それは間違いないのか?」
「はっ、申し訳ございません。結果につきましては、ほぼ間違いないと考えております」
私は帝国の軍事計画の進捗について、皇帝陛下に報告するために謁見の間に来ていた。軍事計画とは他でもないアルノミシア王国との戦争に関わる事前工作だ。
真正面からぶつかっては被害が大きくなる可能性が高いため、王国の力を削ぐために様々な工作を行っていた。失敗したのはその中でも重要度の高い作戦だった。
失敗という結果に、陛下が驚かれるのも無理はない。かなり成功率の高い計画だと我々は見積もっていたからだ。
「少し待て、結果については、と言ったな。どういう意味だ?」
「それは……報告の内容において、真偽が不明な点がありまして、現在確認中です」
「構わん、現時点での報告を話せ」
「いえ、ですが、あまりに荒唐無稽な内容でして……」
「構わんと言っている。今この場で報告せよ」
報告の内容には、私自身信じられないようなものが含まれていたため、内容は精査した後に報告する事として、取り急ぎ結果のみを報告しようとしていたのだが、そういうわけにもいかなくなってしまった。
「それではご報告いたします。アルノミシア王国東部での作戦ですが、フィーゲルの街を対象とした氾濫の人為的発生と、氾濫の被害を増大させるためにカレオラの街で新型疫病を流行させようとした件はどちらも失敗に終わっており、氾濫は制圧され、疫病は治療されてしまっております」
「そこまでは先程聞いた。なぜ失敗になったのかを報告せよ。
氾濫は仮に見つかってもアンデットとして復活させてフィーゲルの街を襲わせる手筈になっていたし、カレオラの街で流行させた疫病はつい最近見つかったもので、アルノミシア王国は治療法が無いとの事だったではないか」
ここまでは先程報告した内容のため、陛下は続きを報告するように促してきた。
どちらの作戦も狙いは王国の兵力の分断だ。王国東部で混乱が起きれば、兵力を東部に割り振らなくてはならなくなるため、西部で戦争が始まった際の王国の兵力を減らす事が出来るだろうと考えての事だった。
「その通りです。氾濫の方は、モンスターが十分な数になる前にフィーゲルの冒険者に見つかってしまいましたが、討伐された後、アンデットとしてフィーゲルの街を襲わせました。
カレオラの街についても、疫病が蔓延し、街道を封鎖する状況に陥りました」
ここまでの説明では、順調に作戦が進行していることもあり、陛下は無言で続きを促した。
「その後、カレオラの街に聖魔法が使えるドラゴンがやって来て、住民の治療を行い、疫病の流行は終息しております。
また、フィーゲルの街に向かっていたアンデットも聖魔法が使えるドラゴンにより蹴散らされたとの事です」
「……は?なんだそれは」
私の報告に陛下は呆気にとられた様子だったが、それを面白がる事もできない。私自身も部下からこの報告を聞いた時には同じような顔をしていたのだろう。
「このドラゴンが同じ個体であるかは今のところわかっておりませんが、聖魔法を使うドラゴンが同時期に直ぐ近くに現れる可能性を考えますと、同じ個体である可能性が高いと考えています」
とにかく現時点で報告できる内容は全て伝えた。呆気にとられていた陛下もしばらくすると正気に返ったようだった。
「それが事実であるとするならば、アルノミシア王国はドラゴンを味方につけたのか?」
「現状ではわかっておりません」
ドラゴンが人間の下についたという話は聞いた事がない。ドラゴンに支配されていた国ならば大昔に存在していたそうだが。
「仕方があるまい。国境に集めていた兵を引かせよ」
「よろしいのですか」
しばらく考えをまとめていた陛下は、やがて顔をあげると私にそう命令した。
この状況で兵を引かせるという事は戦争を諦めるという事だ。今回の作戦が失敗した事で、敵兵力を減らす事は出来なかったが、戦争を行う事には変わりはないと思っていたのでつい聞き返してしまった。
「このままでは王国の兵力は減らないであろうし、仮にそのドラゴンが実在し、アルノミシア王国に手を貸しているとなれば、王国の兵のみならずドラゴンまで相手をせねばならなくなる。
そのような状況になれば確実に勝てるとは言えなくなるであろう。今はそのドラゴンについての真偽と情報を集めるのだ」
「承知いたしました」
こうしてアルノミシア王国との戦争は中止となり、代わりに私に新たな任務が下された。
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