誕生そして旅立ち5
本日5話目です。
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冒険者ギルド職員 マーカス視点
「助けはいるかい?」
絶体絶命の窮地に陥り、もはやここまでかと思っていたところに救援の声をかけられた。この状況を見て助けを申し出てくれるなら、自分の腕にかなりの自信を持っているのだろう。俺は自分の幸運に感謝し、声をかけてくれた相手を見て自分の不運を呪った。
一目見てわかった。声をかけてくれたのが決して人間ではなく、ドラゴンなのだと。
冒険者にとって、ドラゴンは会いたくない存在だ。出会って敵対してしまえば、ほぼ間違いなく命はない。伝説級の冒険者の中にはドラゴンを狩る事の出来る者もいるらしいが、そんな者はごく限られた一握りだ。
ドラゴンは種類にもよるが、体の成長が終わると成龍と呼ばれ、全高が約7mほどの大きさになるそうだ。今目の前にいるドラゴンは、約5mほどの大きさなので、産まれて数年といったところだろうか。
本当にドラゴンが助けてくれるのならば、この状況は一気に好転するだろう。ドラゴンという存在は力の象徴、最強の魔獣にも例えられる。年若いドラゴンであろうとも、ゴブリンなどがいくら束になっても傷一つ付けることは出来ないのだから。
だが問題は助けてもらった後だ。何を対価に求められるのか。言語を操るドラゴンは、長く生きている事が多いと聞く。自分の生活圏からも滅多に外に出てこない存在が、わざわざ人間に手を貸す理由が思い当たらない。
「迷う理由もわからなくはないけど、そんな余裕が有るのか?心配しなくても無茶な事は言わないよ」
助けを求めるべきか迷っていると、ドラゴンの方から問いかけてきた。そうだ、そんな余裕はない。助けてもらったら何を対価に求められるか恐ろしいが死ぬと決まった訳ではない。むしろわざわざ助けたのだから、命に関わるような事態にはならない可能性もある。だが、助けてもらわなければ俺達は確実にゴブリンどもに殺されるだろう。
「助けてくれ!」
後の事は生き残ってから考える。半ば自棄になったような考えだったが、俺に取れる選択肢は他になかった。
俺の助けを聞いたドラゴンはすぐに動いた。体格は成龍に比べるとまだ少し小さいのだろうが、その存在感は圧倒的であり、その力もまた圧倒的だった。
尻尾や爪を一振りするだけで、何体ものゴブリンが宙に舞い絶命する。あっという間に半数近くがいなくなった。その様子に他のゴブリンも力の差を理解したのか怖じ気づいたようだ。攻撃の手が緩み、様子を伺い、最後には逃げ出していった。
気が付けば周囲を囲っていたゴブリン達は、全てが殺されるか、逃げ出すかしてしまっていて、先程までの危険は去ったと言える。新入り達など、張り詰めていたものが抜けてしまったのか、地面に座り込んでしまっている。
だがまだ気を抜くことは出来ない。本当に助けてくれたが、なぜ助けてくれたのか、その目的を聞かなければならないからだ。
目的によってはせっかく助かった命を、すぐに散らす事になりかねない。せめて穏便に事が進んでくれるといいのだが。
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終わってみれば緑の生き物は非常に弱かった。元々あまり脅威には思っていなかったのだが、思っていたよりも脆く、すぐに逃げ出した。
襲われていた人達に恩をきせることが目的だったので、長引かなくて良かった。後は彼らと友好的な関係を結び、人の住んでいる街まで案内してもらおうと思う。彼らに命の恩人だと説明してもらえれば、他の人にも受け入れてもらいやすくなるだろう。
彼らの方を見ると、10代に見える4人は精も根も尽き果てたように座り込んでしまっていたが、年長の男は警戒しているのかこちらの様子を伺っている。
「救援感謝する。俺の名前はマーカス。冒険者ギルドの職員をやっている。あんたのお陰で死なずにすんだ。何か目的が有るようだが、俺が協力出来る範囲ならば協力したいと思っているので、目的を教えてもらえないだろうか」
俺が見ているのに気付いたのだろう。俺が何か言う前に話しかけてきた。
先に感謝の気持ちを示してくれたところに好感が持てる。が、何故だろうか、やけに怖がられている雰囲気を感じる。シグニア聖龍国では崇められていたため気にしたことはなかったが、ひょっとしてドラゴンという存在はこの大陸では恐怖の対象なのだろうか?
元の大陸の常識と西大陸の常識のすり合わせが必要かもしれない。この先生活していく上で、知らなければならないことも多そうだ。
ともあれまずは自己紹介だ。
「無事で何より。俺の名前はアーク。ここから東の大陸からやって来た。俺の目的は人と共に暮らすことだ。よかったら人が住んでいる場所まで案内をしてもらいたい」
「人と共に暮らす?どういう事だ」
俺の説明にマーカスは驚いた様だった。
「そのままの意味だ。俺はドラゴンだが、人と共に生活していきたい。そのために必要な事があれば、俺も協力しよう」
ここでマーカスに協力してもらえれば、俺の目的に大きく近づく。俺の望む生活のために是非とも協力してもらわなければ。
「目的は理解した。断ってもついてこられそうだから案内をするのは構わないが、実際に街で暮らせるようになるかはわからないぞ。助けてもらった事はちゃんと説明しようとは思うが」
警戒心は解いていないようだが、消極的ながら協力してもらえるようだ。落ち着いたら出発しよう。ついでにこの大陸の事についても色々と教えてもらおう。
誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。