その頃フィーゲルの街では4
辺境伯様への報告を済ませ、私は冒険者ギルドへと戻ってきていた。辺境伯様がどのように考えるかはわからないが、私は私の直感を信じて行動するだけだ。辺境伯様も私と同じ様な危機感を抱いてくれるといいのだが。
ギルドマスターの部屋へとたどり着いた私は、部屋の奥に保管していた物を取り出した。比較的小振りな片手剣と魔法の発動媒体である杖だ。
私が現役の冒険者だった頃に使っていた武器で、どちらも結構な業物だ。
現役を引退しているとはいえ、流石に元冒険者として手入れは怠っていないが、戦いで使うのは久しぶりだ。体が鈍っていなければいいのだが。
冒険者ギルド近くの空き地へと向かい、今どれくらいの動きが出来るかを確認していく。
武器を構え、ゆっくりと体を動かす。記憶の中の動きと、今の体の動きが同じになるように。
しばらく体を動かしてみたが、やはり現役の時のようには体が動かない。それに、戦いの中でのみ磨かれる戦いの勘とでも言うべきものも衰えているだろう。
実際に戦闘になった時、きちんと戦えるのか不安になった。
2日後、『恵みの大森林』の再調査を命じていた冒険者が帰ってきた。その報告は、現状が想定していたよりも悪い事を示していた。
その内容は、討伐したゴブリン達がアンデッドとなっており、それが少しずつフィーゲルに向かっているというものだった。正確な数は把握できていない。
この報告を聞いて、私は間違いなく何者かが関与している事を確信した。
人も魔物も死体を放置していると、アンデッドになる可能性がある。そのため人でも魔物でも死体は処理するのがマナーだ。
だが、それはあくまでも可能性の話だ。実際に死体が自然にアンデッドとなるには、いくつもの悪い条件が重ならないとならない上に時間もかかる。
決して、死して2日でなったりするものではないのだ。
今回のゴブリン討伐は、数が多く緊急性も高かったため、死体の処理よりも討伐を優先してもらったが、後から死体の処理に人手を出す予定だったのだ。
しかし、現実から目を背けていても、アンデッドが居なくなったりはしない。
辺境伯様へ詳細を連絡した後、私は再度冒険者達を冒険者ギルドに呼び出した。
呼び出され集まった冒険者達は、程度の差こそあれ、いずれも不満そうな顔をしていた。それも仕方がないだろう。彼らは一仕事を終え、その報酬を使って休暇を取っていた者が多いからだ。
彼らの気持ちは元冒険者としてよくわかるが、今の私はギルドマスターだ。やるべき仕事をやらなくてはならない。
「再度の急な呼び出しに応じて集まってくれて感謝する。先日強制依頼を達成してくれたばかりで申し訳ないが、もう一度強制依頼をお願いする」
私の言葉を聞いた冒険者達から不満の声が噴出するが、それを無視して説明を続けた。
「内容を説明しよう。単刀直入に言おう。先日君達に討伐してもらったゴブリンがアンデッドになってこの街に向かってきている。このままではこの街は壊滅的な被害を受けるだろう。
知っているとは思うが、普通はこんな短時間でアンデッドになったりなどしない。裏で何者かが手を引いていると考えている」
私の説明が進むにつれ、冒険者達が静かになっていく。
「アンデッドなだけあって、移動速度は遅いようだが、遠からずフィーゲルに到達するだろう。最終的にはフィーゲルの街で防衛戦となるだろうが、その前に少しでも数を減らしたい。
半数はフィーゲルに残って防衛戦の準備、もう半数は私と共に出撃し、一撃離脱でアンデッドの数を削りに行く。
振り分けはこちらで行うので直ぐに準備に入ってもらいたい。明日の早朝には出発する」
こうしてアンデッドからのフィーゲル防衛戦が始まった。
翌朝フィーゲルの街を出発して『恵みの大森林』へ向かう。進行速度を重視して移動した結果、その日の夕方にはアンデッドを目視出来る距離まで近づく事が出来た。
「何だこれは……」
アンデッドの群れを見て、私は思わず呟いた。
『恵みの大森林』の周囲は平原が広がっていて見通しがいいのだが、視界に入る範囲全てがアンデッドで埋まっている。それだけではなく、まだまだ森から出てきているようだ。
ひょっとしたら討伐したゴブリンが全てアンデッドになっているのかもしれない。
それだけではなく、偵察に出ていた冒険者からも恐るべき報告が入ってきた。討伐時には見当たらなかった上位種のアンデッドまでいるというのだ。
上位種のアンデッドは通常のゴブリンのアンデッドよりも手強いに違いない。せめてもの救いは、アンデッドとなった上位種は群れを率いる行動をしない事だ。
「深追いせずに端から潰していくぞ。フィーゲルの街までアンデッドの数を減らしながら奴等の進行速度に合わせて後退していく。後退する場合には合図をするから、戦場に置いていかれないようにしろよ」
そう言って私は先陣を切るために、アンデッドの群れに向かって飛び出した。
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