誕生そして旅立ち4
本日4話目です。次は21時に投稿します。
日が差し込んできて目を覚ます。昨日到着して眠りについたのは午前中だったが、太陽の位置を見ると日が上って間もない時間だ。疲れていたため丸1日近く眠っていたようだ。さすがに2日以上は寝ていないと思う。
体を伸ばしつつ洞窟から出る。しっかり休めたからか、体の調子も万全だ。
色々想定外の出来事もあったが、無事に西大陸にたどり着いたので、今後の事を考えなければならない。取りあえずは人の住んでいる場所を探そうか。そんなことを考えていると、
「ーール!奥ーーーぞ!ーーーくな!」
人の声と恐らく戦いの音が聞こえてきた。
運がいい。いや襲われている人には悪いのだが。
人と暮らしていこうとする事を考えた場合、ファーストコンタクトが非常に大事になって来ると思う。俺は人と共に生活していきたいのだが、見た目が龍のため、多くの人は恐怖心を覚えるだろう。遭遇の仕方によっては討伐対象になってしまうかもしれない。
幸い俺は人語を喋られるので、根気強く交渉を続けていけば理解してもらえると思っているのだが、危険な時に救ってくれた恩人という立場を手に入れれば、無下には扱われないんじゃないだろうか。
最も、襲われている方が悪人だった場合は何の役にもたたない目論見の上、人の不幸を期待するような考えなのだが。
ともかく、助けに入ることの出来る状況であることを願いながら、声のする方向にこっそりと足を進めた。
茂みをかき分け森の奥へと進む。先程の声の主は移動をしながら戦っているようで、なかなか追い付くことができない。
「きゃあ!」
ようやく追い付いた時、彼らは何かに囲まれ追い込まれていた。茂みから姿を見られないようにそっと除きこむ。
囲まれているのは5人の男女で、3人が男、2人が女だ。男の内1人が40代から50代くらいの年齢で、他の4人は10代に見える。女が1人肩から血を流しているので、先程の悲鳴は彼女のものだろう。彼らは背中合わせに固まっており、怪我をしていない女が怪我をした女に回復魔法をかけているのが見てとれる。
そんな彼らを囲んでいるのは見るからに人間ではない存在だった。
背丈は成人男性の胸の辺りで、尖った耳と緑色の肌を持ち、手には棍棒を持っている者が多い。二足歩行をしていることもあり、一見すると人間の子供のようにも見える。
狩る側と狩られる側、囲まれている5人の人間たちが狩られる側に見える。彼らの方が圧倒的な劣勢のようだ。
これならば目論見通り救って恩を売ることが出来るだろう。そこまで考えると、彼らを助けるために俺は一歩踏み出した。
★◆■▲▼●
冒険者ギルド職員 マーカス視点
俺の名前はマーカス。辺境の街フィーゲルを拠点として活動をする4星冒険者として、全盛期にはちょっとは名前の知られた存在だった。4星というのは冒険者ギルドから与えられたランクの事だ。1星から始まって、1番上が7星となる。今は年齢のせいもあって無理がきかなくなってきたため、冒険者は引退して冒険者ギルドの職員となり、教官として駆け出しどもの教育にあたっている。
今回の遠征もそんな教育の一環だった。最近ギルドに加入した4人組の駆け出しパーティーの引率として、フィーゲルから2日の距離にある『恵みの大森林』までの同行。行程に特に危険な箇所もなく、道中で夜営の経験、森に着いたら採取と魔物の間引きとして討伐を行う予定だった。
『恵みの大森林』の名に違わず、この森は多くの恵みを与えてくれる。豊富な薬草に果実、キノコなども多く採れ、辺境の街に自然の恵みを与えてくれるなくてはならない存在だ。しかし、その恵みを受けるのは人間だけではない。魔物にとっても生きやすいこの森は、以前は時々魔物の大量発生が起きていた。
定期的に魔物を間引いていれば大量発生が起きないことがわかってからは、ギルドからの依頼で小まめに間引きが行われ、新人の研修でもこの森が選ばれ間引きをしている。
最近は大量発生も起こらず、すっかり安全になった『恵みの大森林』での新人研修。初めての遠征でどのような物が必要なのかを知り、街の外での生活の厳しさや依頼の達成方法を知ることで、研修が終われば半人前くらいには扱われる。今回もそんな研修の1つとして終わるはずだった。
これまでにも何組もの新人パーティーが経験してきたし、俺自身も引率を行ってきた。これまで危険に陥るような事はほとんど無かったのだが、今回は森の様子が違った。
入った直後から全く生き物の姿が見えず、仕方なくいつもは立ち入らない奥地まで向かった所で大量のゴブリンに囲まれたのだ。
ゴブリンの大量発生。ゴブリンは単体であれば、成人男性なら簡単に倒せる程度の脅威でしかないが、群れになるとその脅威度は跳ね上がる。数によっては一流の冒険者でさえ撤退を余儀なくされる。
不意を打たれることはなかったため、すぐに応戦できたが状況は非常に悪い。
「ウィル!奥にいるぞ!気を抜くな!」
ゴブリンに誘い出され、突出しかけている新入りを引き戻す。どうにかまだ戦えているが、あまりに数が多い。誰もが少しずつ消耗してきており、遠からず戦線は崩壊するだろう。
こんな所で死ぬのか、そんな思いが胸をよぎりだす頃、予期せぬ言葉をかけられた。
「助けはいるかい?」
誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。