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忍び寄る脅威7

 娘も治療してほしい、そう言われた時、俺の頭をいくつかの感情がよぎった。なぜ病気を発症しているのに、他の患者のように隔離していないのかという怒り。なぜ自分の娘を最初に治療するように言わなかったのだろうかという戸惑い。

 だが、俺が発した言葉はそのどれでもなかった。


「早く連れてきてくれ。直ぐに治療(キュア)をかけよう」


 今の俺に求められている役割は医者役だ。治療を第一に考えなければならない。他の事は、全てが片付いてから考えればいいのだから。


「こっちの庭で待っていてもらえないか。準備が出来次第声をかけさせてもらう」


 指示された庭で待つこと数分、ピアソン男爵の声が聞こえた。


「アーク殿、こちらに来てもらえないだろうか」


 声が聞こえた方向を見てみると、庭に面した一室からピアソン男爵の姿が見えた。ピアソン男爵に近付き、室内を覗き込む。


「こ、これはっ!?」


 そこに寝ていたピアソン男爵の娘を見て、俺は思わず息を飲んだ。連れてこられた女性は今日治療をしてきた誰よりも痩せ細っていたのだ。

 眼窩も窪み、頬もこけている。娘だと言われていなければ、性別すらわからない程だ。特徴的な銀髪をしているようだが、元は綺麗であったであろうその髪も心なしか色褪せてしまっているようだ。


「頼む、アーク殿。娘を治してやってほしい」


 ピアソン男爵の懇願するような声に我に返った俺は直ぐに治療を始めた。


「ではいくぞ。治療(キュア)、ついでに治癒(ヒール)


 ピアソン男爵の娘に他の患者と同じように治療(キュア)をかけ、気休めにしかならないかもしれないが、ついでに治癒(ヒール)もかけた。体もボロボロだろうから、これで少しでも助けになってくれればいいのだが。


 その後ピアソン男爵の屋敷の庭の一角のスペースを使わせてもらい、休む事にした。この場所を借りた理由は、手頃な広さがあった事もひとつあるが、一番の理由はピアソン男爵の娘(テレサというらしい)の近くにいようと思ったからだ。

 今日見て来た中で、一番危険そうなのは彼女だ。何かあるとすれば彼女だろうが、この場所で休んでいれば、何かあったとしても直ぐに対応できるだろう。

 移動や魔法の行使で思った以上に疲れていたのか、その日は横になって直ぐ、眠りについた。




「おはようございますアーク様。よく眠れましたでしょうか?」

「……おはよう。ありがとう大丈夫だ」


 翌朝、目を覚ますと、直ぐそばに兵士がいて挨拶をしてきた。眠りについた時、周辺には誰もいなかったはずなので、恐らく俺が眠っている間にトラブル等がないように見張りを立ててくれていたのだろう。

 ……俺を見張っていた訳ではないと信じたい。


「目覚めたばかりのところ申し訳ありませんが、アーク様が目を覚まされたらピアソン男爵様がこちらに来られるとの事でしたので報告に行って参ります。しばらくお待ちください」


 そんな事を考えていたら、先程の兵士がこんな事を言って屋敷に向かって行ってしまった。

 俺の体じゃあ屋敷の中には入れないとはいえ、領主を呼び出す冒険者なんて他の人に聞かれたら怒られそうだな。


 兵士が屋敷に行って直ぐ、ピアソン男爵がやって来た。俺の勘違いでなければ、昨日とは違って非常に明るい顔をしているので、テレサの病状も好転しているのだろう。


「おお、アーク()よく眠られましたかな」

「…………ああ、ゆっくり休ませてもらった」


 一瞬どもってしまった俺は悪くないと思う。

 なんでまた敬称が変わっているのだろうか。それだけ感謝してくれているという事ならば悪い気はしないのだが、なんだか落ち着かない。

 そんな衝撃を受けている俺に構わず、ピアソン男爵は言葉を続ける。


「昨夜遅くにテレサが食事をとれましてな。食欲も戻ってきているそうで、どうやら順調に治ってきているようです。アーク様も心配してくださっていたようですから、起きられたら報告させていただこうと思ったのです」

「それは良かった。だが治りかけが一番危ないともいうからな。無理をさせないようにして、何かあったら直ぐに呼ぶといい」


 俺が寝ている間に事態は好転していたようだ。一番危険そうだったテレサが回復しているという事は、他の患者にも期待が持てる。


「ありがとうございます。それと治療をしてもらった領民の家族などから、是非ともお礼をさせてもらいたいとの声が届いております。お手数かとは思いますが、どこかで時間をとって会ってはもらえないでしょうか」

「そういう事ならば是非会わせてもらいたいが、今は治療を進めるのが最優先だ。再発する人も出てくるだろうからまだ気は抜けない。お礼は全ての人が治った時にもらおう」

「わかりました。今日はどうしますか?」

「昨日と同じように患者の元に行って再発していないか、新たな患者が出ていないかを確認しよう。実際に治せるという事が伝われば、発症していても隠していた人も名乗り出てくるだろう」


 ピアソン男爵との話も終わった後、各所を回ると数人の再発患者と新規の患者が出ていた。全員に治療(キュア)をかけたが、思ったよりも患者が減っていてホッとした。

 この調子でいけば全ての患者を治すことが出来そうだ。









誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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