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冒険者生活2

　翌日から俺はマイラから紹介された依頼を受けていった。そしてその中で感じたのは、冒険者ギルドに持ち込まれる依頼は、やはり人間が行うことを前提としている、という事だった。

　冒険者ギルドに持ち込まれる依頼は多岐に渡る。討伐や、採取が一般的だが、きちんと報酬が決められていれば、倉庫の片付けや猫探しまで依頼されている時もある。

　残念ながら、俺に倉庫の片付けや猫探しは出来やしないので、そういった依頼は初めから候補に入れていないが、討伐依頼や採取依頼でも想定していなかった問題がいくつか発生した。

　どんな問題が発生したのかを少し話したいと思う。

　まず最初の依頼は、ゴブリン討伐依頼だった。

　ゴブリンという魔物はこの世界で最もよく知られている魔物だ。草原から荒野まで広い範囲に生息しており、冒険者に最も多く狩られる魔物でもある。魔物の中でも弱い部類にあり、その強さは一般成人にも劣るほどだ。だが繁殖力が強いため、僅かな時間で爆発的に数が増える事があり、群れになると数に任せた戦い方をするので、その強さが跳ね上がる。

　因みにこの世界では人間は、魔物を倒せば倒すほど強くなる。理由ははっきりとはしていないそうだが、魔物の持っている魔力を吸収して強くなると考えられているらしい。

　そのため冒険者は、総じて一般人よりも身体能力が高くなる。倒した魔物が強ければ強いほど、倒した人間も強くなるため、駆け出し冒険者の強さはたかが知れているが、ベテランである星の多い冒険者はかなり強いのだとか。

　この話の通りだとすると、元6星のフリーダはかなり強い事になるな。力ずくで食べさせられ(・・・・・・)そうにならないように注意しないと。

　話が逸れてしまった。依頼の話に戻ろう。

　俺が会った事のあるゴブリンは、『恵みの大森林』での戦いだけだったが、群れの状態でも問題にならない弱さだったため、見つけさえすれば簡単に依頼を達成できそうだと思っていた。そう、見つけさえすれば。

　通常ゴブリンは敵を見つけたら、取り敢えず襲いかかってくる。そのため注意するのは、囲まれないようにする事だとマイラは言っていた。

　よくゴブリンが出没するという森に向かう。ゴブリン討伐依頼は報酬があまり良くはないため、他の冒険者はいないようだ。

　森の中はそれなりに人の手が入っているのか、俺でも歩けるくらいのスペースが有った。ゴブリンが見つかるまで歩き回ってみよう。

　困った事になった。1時間ほど森を歩き回ってみたが、ゴブリンどころか動物の姿も見る事は出来なかった。

　ゴブリンがいないのかとも思ったが、そうではなさそうだった。何度か茂みの向こう側からゴブリンのものと思われる声は聞こえていたのだ。真っ直ぐ突っ切る事は出来なかったので、迂回して声の聞こえてきた場所に向かった時には、ゴブリンの姿は影も形も無かった。

　俺(ドラゴン)の気配を感じて姿を隠しているのだろうか?1日森を歩き回ってみたが、獣1匹姿を見ることが出来なかったので、その日は街に引き上げた。

　フィーゲルの街に戻り、今日の顛末をマイラに伝えると、マイラは頭を抱えてしまった。倒せないから依頼が達成出来ないのではなく、姿を現さないから達成出来ないのだからどうしようもない。

「ゴブリンが逃げ出してしまって姿を現さない、ですか。」

「ああ、声は何度か聞こえたのだが、姿は見えなかった」

「逃げる間も無く攻撃するというのはどうなんですか?」

「本気で動いていいならやれると思うが、地形が変わるかもしれないぞ。それに誰かいたら巻き込みかねない」

「ダメですね。気付かれないようにこっそりと忍び寄ったりとか」

「隠密行動が出来るドラゴンなんていると思うか?」

「……いなさそうですね。それにいつの間にか忍び寄っているドラゴンなんて、考えるだけで恐ろしい存在です」

　マイラと共に対応策を考えてみるものの、これといって有効そうな案が出ない。しばらく考え込んでいたマイラだったが、妙案を思い付いたのか両手を叩いた。

「狩場を変えましょう」

「狩場を?」

「そうです。草原でも荒野でも構いませんが身を隠す場所が少ない所にしましょう」

　マイラが提案したのは狩場の変更だった。確かに森よりは狩りやすいかもしれないが、遮蔽物が無いため気配どころか視界に入ったとたん、逃げられるんじゃないだろうか。

「ただ狩場を変えるだけではありません。戦法も変えます」

　イマイチ乗り気でない俺をよそに、マイラの説明は続く。

「アークさんは基本的に空を飛んでいてもらいます。ゴブリンを確認するのも攻撃するのも、上空から行ってください。

　冒険者も上からの攻撃には反応が遅れると聞きます。同じようにゴブリンも、上空から襲いかかれば逃げられないんじゃないでしょうか」

「なるほど、空からか」

　俺は空を飛べるのだから、人と同じように戦う必要は無かったな。空を飛べる生き物にとって、上空から襲いかかる戦法は常法だろう。俺の狩りの経験の少なさが足を引っ張った格好だ。

「明日からはその方法でやってみよう」

　もう少し細かいところまで作戦を話し合って今日は解散となった。上手くいってくれればいいのだが。

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