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辺境の街フィーゲル5

 

 どうしたものかとフリーダの方を見るのだが、彼女も頭の痛そうな顔をしている。それも致し方無いか、冒険者たるものいついかなる時も冷静に~とか言っている際に、恐怖でパニックに陥る冒険者が現れたのだから。


「はあ、今回の件は君に非無いことは明白だ。だから何も気にしなくていい。君達、早くこの娘を連れて帰ってやれ」


 フリーダが呆れた様子で気絶した女のパーティーメンバーに声をかける。固まっていた彼らは我に返ると、気絶した女を引きずるようにして連れて帰った。「わっ、濡れてる」とか言う声が聞こえるんだが大丈夫だろうか。この先のあの娘の立場が心配だ。


「ゴホン、話を続けよう」


 彼女を見送っていたら、フリーダが気まずい雰囲気を振り払うように咳払いをした。


「本来なら冒険者登録はギルドの中で行うのだが、君は中に入れないだろうから、外で行ってもらう。詳しい話と説明は受付を1人案内するから、その娘からしてもらう。

 担当する受付を連れてくるのと、私の仕事の遣り繰りの話をしてくるから少し待っていてくれ。しばらく君に付きっきりになりそうだから、副ギルドマスターに仕事を任せてくる。

 待っている間にくれぐれも問題を起こさないようにな」


 それだけ言うと、フリーダは冒険者ギルドの中に入っていった。失礼な事を言う。少なくともこちらから問題を起こす気は無いぞ。


 フリーダの姿が無くなると、周囲の冒険者から少なくない視線を向けられた。物珍しさや興味もわからなくはないが、ただ見られているだけというのも居心地が悪い。

 ドラゴン相手に話しかけて来る様子も無いので、こちらから動く事はせずに大人しく待っていよう。たった今騒ぎになったばかりなのに、また直ぐ問題を起こしたら何を言われるか。


「あんたが噂の冒険者になったドラゴンかい?」


 ふと気が付くと、周囲の人垣から1人の男が近付いて来ていた。恐らくはその男も冒険者なのだろう。周囲を取り囲む他の冒険者よりも遥かに強そうな気配を感じる。


「ああ、今日からこの街で冒険者として生きていくアークと言う。これからよろしく頼む」

「そうか、俺の名前はデュークという。5星冒険者だ。一応この街じゃあ一番星の多い冒険者って事になる。時々駆け出し冒険者の指導とかもやってるから、冒険者になって困った事が有ったら聞いてくれ」

「わかった。だが俺が街に入る条件として、フリーダと共に居るように言われているから何か有ったらフリーダに聞くと思うぞ」

「なんだ、ギルドマスターが側に居るなら俺は必要なかったな」


 俺の話を聞いてホッとしたようなデュークは話を続けた。


「あんたには悪いが、多星(ハイクラス)の冒険者として、問題を起こしそうな冒険者は注意して見ていてな。いい意味でも悪い意味でも、あんたは問題を起こしそうだったから慌てて顔を見に来たんだ。

 流石の俺もドラゴンを止めるのは無理だと思ってたから、ギルドマスターに任せられるとわかってホッとしたよ。これから色々大変だと思うが頑張れよ」


 それだけ言うとデュークは去っていった。恐らく心配してくれたのだろう、俺に興味も持っているようだが、俺を否定するような感情は感じられなかったから良かった。街一番の冒険者に否定されていたら、この先この街で冒険者としてやっていけなかったかもしれないな。


「ちょっと待って下さい!何故私が!?」


 フィーゲルでの新たな出会いに感謝していると、冒険者ギルドの中から大きな声が聞こえてきた。耳を傾けてみると、言い争っている訳では無く、片方がヒートアップしているようだ。

 何の話かはわからないが、多分俺が関係しているんだろうな。


「放してください!職権濫用ですよ!?」


 諦めにも似た感情を抱いていると、フリーダが1人の女性を抱えて冒険者ギルドから出てきた。先程から聞こえている声は彼女のものらしく、今も必死に暴れている。だがフリーダの力の方が強いようで、彼女の動きを軽々と押さえ込んでいる。


「そ、そうだ。退職、退職します。いやー残念ですけどそういう事なので私は無理ですね」

「往生際が悪いね。退職届は受理しません」

「横暴だ!?」


 随分と騒がしい女性のようだ。あと、そんなに嫌がっているんなら他の人に頼めばいいんじゃないかな?俺としても嫌がっている人に無理矢理対応してもらいたいとは思わないんだが。


「待たせたなアーク。心配しなくても、彼女は相手がドラゴンだから嫌がっている訳ではない」

「そうなのか?とてもそうは見えないんだが」

「彼女が嫌がっているのは別の理由さ。その理由も君が頑張ってくれたら解決する」

「どういう事だ?」

「その辺も含めて説明する。紹介しよう、彼女の名前はマイラ。今日から君の専属となる」

「専属?何だそれは」


 フリーダの言葉の中に、聞き慣れない内容が有った。


「専属というのは、文字通り特定の冒険者を担当する者の事だ。通常のギルドでの仕事も行うが、担当している冒険者に関係の有る仕事を優先的に行うようになる。

 ギルドにとって特別扱いをしてでも仕事をこなしてほしい冒険者に専任で担当者を付ける訳だから、普通は多星(ハイクラス)の冒険者に付ける事になる。

 仕事の内容以外にも変わる箇所が有って、専属となると給料が担当する冒険者の成果によって変動するようになる。達成した依頼の難易度や、持ち込んだ素材の評価等が成果として計算され、それによって給料が決まる。

 多星(ハイクラス)の冒険者の稼ぎは高額な物になるから、そんな冒険者の専属になれば、一般の職員の給料とは文字通り桁が違う給料を手に入れられる。中にはその冒険者と結婚(ゴールイン)する者もいるくらいで、多くの人間が専属になりたがっている。

 だが君は多星(ハイクラス)冒険者ではない。将来的に多星(ハイクラス)冒険者になれるかもしれないがそれも確実ではない。そんな君の専属になるという事は、しばらくは給料が減ってしまうという事になる。彼女が君の専属を嫌がっているのはそういう訳さ」

「そういう訳さ、で済む問題では無いと思うのだが?」


 給料が減ると生活出来なくなるから嫌がっているのであれば、なおの事専属になってもらう訳にはいかないだろう。


「フリーダ、俺の専属になる事で生活出来なくなるのなら、気持ちはありがたいが断らせてもらいたい」

「話は最後まで聞くように。彼女は仕事人間で、これまで趣味のような物も無かったから、貯金もかなり有る。給料が減っても生活出来なくなるような事は無いよ。それこそ君が稼ぐようになれば、今より給料は増える事になる。

 どうせ誰かしら専属にするのだから、彼女を専属にするのが一番いい」


 そういう事なら仕方がないのか?専属を付けるというのも、さっき言っていた便宜を図る、というのの1つだろうし。


「えっと、色々迷惑をかけるかもしれないが、これから頑張っていくのでよろしく頼む」

「はぁ、わかりました。これからよろしくお願いします。早く稼げるようになってくださいね」


 マイラに挨拶すると、彼女もようやく観念したのか俺に挨拶してくれた。

 これがこの先長い付き合いとなる、俺とマイラの出会いだった。


誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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