辺境の街フィーゲル2
本日2話目です
昼食をとってから1時間程すると、街からまた人が向かって来ているのが見えた。マーカスによると冒険者ギルドのギルドマスターらしい。
マーカスは、来るなら多分ギルドマスターだろうと言っていたので、そこは予想通りなのだが、本当に2時間でやって来るとは思ってなかったので、そこは嬉しい誤算だ。
ギルドマスターについては、待っている時間にマーカスから少し教えてもらった。エルフの女性であり、長い間冒険者として活動していたが、その功績を認められてギルドマスターになったらしい。女性らしく年齢に関する質問はタブーだから注意しろと言われた。
マーカス曰く300歳は間違いなく超えているそうだ。エルフの寿命は1000歳とも言っていたのでまだ若いということでいいんじゃないだろうか。この手の話題で女性を怒らせると恐いからな。
俺の元までやって来たギルドマスターは、軽く頭を下げると話を始めた。さて、ここからが俺が街に向かえるかの正念場ということだな。
「初めまして、アーク殿。私はフィーゲルの冒険者ギルドでギルドマスターをしているフリーダと申します。あなたの目的を聞かせてもらえますか?」
「初めまして、フリーダ。私の事はアークと呼んでくれ。殿はいらん。代わりに私もフリーダと呼ばせてもらう。私の目的だが、人と共に生活をしていきたいと思っている。もちろん生活していく上で必要な協力はさせてもらおう」
「成る程、では街でどのように生活していくつもりですか?この地は辺境なので、ただ飯食らいを養うような余裕はありませんよ。何かしら働いてもらう必要が有ると思います」
色々聞かれているが予想通りだ。もっと否定的な話をされると思っていただけに、むしろ拍子抜けだ。
「職については希望が有るのだが聞いてもらえないだろうか?」
「希望ですか?私はギルドマスターなので街の人達とは様々なパイプが有りますが、職業紹介まではしていませんよ?」
「なに、そういうことじゃない。あなたにこそ聞いてもらわなければならないんだ。なにせ私は冒険者になりたいんだからな」
私の言葉にフリーダとマーカスは目を見開いて驚いていた。
「冒険者になりたいんですか?ちょっと待ってください、ドラゴンの冒険者なんて聞いた事もありませんよ。そもそも魔獣の冒険者自体存在しないはずです」
「前例が無いからといってこの先存在してはならないという事にはならないだろう。そもそも冒険者ギルドも、元々は人間の冒険者のための組織で、後からエルフや獣人等の亜人種が加入するようになったと聞いたぞ」
俺の話を聞いて、フリーダはマーカスを見やる。視線を向けられたマーカスは、慌てたように無言で首を振っている。
一体何を否定しているのだろうか。気持ちはわかるが、マーカスから話を聞いたのは事実だというのに。
「しかしですね……」
「最近新しい種族が見つかったそうだ」
「……一体何の話ですか?」
説得しきれなかったようで、まだ何か言おうとしているフリーダを無視して言葉を続ける。直接お願いしてもダメならば搦め手を使うまでだ。
「その種族の名前は龍人種、見た目はドラゴンだが人間としての意識を持っている。おお、これなら冒険者になるのに何の問題も無いな」
亜人種達が冒険者ギルドに所属できた訳、それは人とコミュニケーションがとれたからだ。そんな前例が有るからこそ、コミュニケーションがとれる存在が冒険者になることを、冒険者ギルドは拒否出来ない……はずだ。
「はぁ、そこまでしてなりたいような職業では無いはずなんですけどね、冒険者というのは」
何やら嘆いているようだがそれは違う。違うというか人間にとってはそうかもしれないが、ドラゴンに出来そうな職が他に思い当たらなかったのだ。衛兵?聞こえませんね。
「わかりました。危険は少ないと判断します。一緒に街へ向かいましょう。ですが決してあなたの側から問題を起こさないようにお願いしますね。それと当然ながらフィーゲルの街は、ドラゴンが生活できるようには造られていません。色々と不自由をしてもらう事を覚悟しておいて下さい。
冒険者ギルドとしては、冒険者として活動できるように便宜を図りますので、少し時間をください」
最後に注意と忠告?をされたが無事に街へと向かえるようだ。冒険者になることも出来るようだし、順調と言っていいだろう。
「それでは街に向かいましょう。入口で領主であるフィーゲル辺境伯に挨拶する事になると思いますので、失礼の無いようにお願いしますね」
「ちょっと待て」
「どうしました?」
そう言ってフリーダはフィーゲルの街に向かって歩きだしたので、それを止める。すでに街が見えているのだから、わざわざ歩いて向かう必要はないだろう。
「背中に乗れ、2人なら乗せて飛んで行ける。その方が速い」
「ドラゴンに乗って空を飛ぶ、ですか。それは興味深いですね。」
興味と実利とで俺に乗って飛んでいく事に肯定的なフリーダは、俺の背中を見、そしてマーカスを見るとこう言い放った。
「マーカス、私はアークに乗って先に行きます。あなたは歩いて帰って来てください」
「どうして!?俺だって空を飛んでみたい」
「残念ですが、アークの背中はあまり広くありません。2人で乗ろうとすれば密着する必要が有るでしょう。私はあなたと密着する趣味はありません」
「そ、そんな」
俺の言葉で空を飛ぶことに期待していたマーカスは、ギルドマスターの言葉で崩れ落ちた。残念だが、俺としてもギルドマスターであるフリーダのご機嫌とりをしておきたいので、マーカスの味方は出来なかった。
1人置いていかれる事になったマーカスが悲しげな顔をしているので、用事が済んだら迎えに来てやろうと思う。
誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。
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