辺境の街フィーゲル1
「落ち着け。何も置いて行こうって訳じゃない。だけどな、あんたはドラゴンなんだ。俺はあんたに命を救われたし、悪いやつじゃないと思っているが、街に住んでいる人間はそうは思わない。」
俺の驚きがマーカスに伝わったのか、慌てて説明をしてくれる。
「人によっちゃあ、ドラゴンが攻めてきたって非常事態になりかねない。だから取り敢えず俺達だけで街に戻って、あんたの事をギルドマスターに報告する。ギルドマスターはフィーゲルの街の領主である辺境伯にも顔が利くから、最も早くお偉いさんに話が通るんだ」
説明を受けて納得する。そんな理由が有るなら、最初から説明してくれていれば、焦るようなこともなかったのにな。
「ようやく落ち着いてくれたか。さっきも言った通り、俺達はこれからフィーゲルに戻ってあんたの事を説明してくる。2時間はかかるだろうから、それまでここで……少し動いてもらって道の脇で待っていてくれ」
そう言ってマーカス達は街に向かっていった。2時間か、1人で待つのは暇だな。
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辺境の街フィーゲル 冒険者ギルド
ギルドマスター フリーダ視点
私の名前はフリーダ。辺境の街フィーゲルで冒険者ギルドのギルドマスターをしている。
おっ、気付いたか、目敏いな。この耳を見てもらったらわかる通り、私はエルフだ。エルフは基本的に自分達の住んでいる森から出てくる事はない。多くのエルフが森で生まれ、森で死ぬ。
しかしエルフの中にも異端と呼ばれる者がいる。私もその1人だが、そういう者は森を飛び出し人の中で生活している。その多くは冒険者として生活している。身が軽く、弓の腕は常人を遥かに超えているからだ。
多くの例に漏れず、私も冒険者となり長い間活動していたところ、いつの間にか冒険者ギルドのギルドマスターになっていた。
いけない、予想外の事を言われ少し意識が飛んでしまっていたようだ。自分語りは別の機会にするとしよう。
事の起こりは、新人パーティーの引率として『恵みの大森林』に行っていたギルドの職員のマーカスが冒険者ギルドに帰ってきた事だ。
いつもなら特に問題も起きないため、簡単な報告書が回ってくるだけなのだが、今回は冒険者ギルドに戻ってきて直ぐにギルドマスターである私の部屋にやってきた。そして今回の引率で発生した問題の一部始終を報告したのだ。
報告の内容は大きく分けて2つ、1つ目のゴブリンの大量発生は大したことは無い。死者も出ていないし、大量発生の原因を調べる必要は有るが、それも駆除も含めて冒険者に依頼すればいい。我々は冒険者を束ねる冒険者ギルドなのだから簡単な事だ。
だが、2つ目のドラゴンについてはそうもいかない。ドラゴンは力の象徴であり、最強の生物だ。体の大きさを聞く限り、まだまだ成長途中の様だが、街1つ滅ぼすことなど簡単に出来るだろう。対応を間違える訳にはいかない。
「そのドラゴンは危険な状態にあった私達を救い、治癒で傷を癒してくれました。言葉も操るため意思の疎通も可能です。彼は人と共に暮らすことを求めており、今はフィーゲルの外に来ております」
ドラゴンは回復魔法を使えるものだっただろうか?あと言葉を操るには随分と年若い龍のような気もする。
「本来ならばフィーゲルへの案内などするべきではなかったのでしょうが、案内を断っても勝手に付いて来そうでしたので、性格等を知ると共に、我々を好意的に思ってもらうために案内してきました。
個人的には十分に人の友として、共に生活していけると思っております。また、共に暮らしていればドラゴンの力が必要になった時に、その力を貸してもらうことも出来るのではないでしょうか」
「意思の疎通が出来、魔法も使えるドラゴンというのは興味深いが、ギルドの一存で決定できるような問題ではない。」
随分とマーカスはそのドラゴンを買っているようだ。命を救われたのだから当然かもしれないな。
「私は今から辺境伯様と話をしてきます。マーカス、あなたはあなたが必要だと思う物を持ってそのドラゴンの元に向かって下さい。こちらも出来るだけ早く向かいますが、あまり長く待たせて機嫌を損ねられても困ります。相手をしておいてください」
ここから先は時間との勝負になるだろう。急いで辺境伯様の屋敷に向かう。幸い在宅中だったようなので、緊急事態という事で直ぐに会ってもらった。
「辺境伯様、急ぎご相談させてもらいたい事が有りまして」
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マーカスは2時間は、なんて言い方をしていたが、ここから街まで往復で1時間程かかりそうな事を考えると、話し合いに使える時間は1時間有るか無いかだろう。お偉いさんの話し合いがそんなに直ぐ終わるとは思えないので、明日までかかるかもしれないなと思いつつ待っていると、1時間くらい経った頃、こちらに向かってくる人影に気が付いた。
近づいてくるとマーカスだとわかった。背中に大きな荷物を背負っている。
「聞いていたよりも随分と早いお帰りだな」
「対応が決まるまで待たせ続けて機嫌を損ねられても困るということでな、接待役ということさ」
そう言って笑うが、機嫌をとる側が機嫌をとられる側に言ってしまってもいいのだろうか?真摯に対応をしてくれているのだと思おう。
マーカスが持ってきてくれたのは、フィーゲルの街の屋台で売られている食べ物だった。マーカス自身も急いでこちらに来てくれたため、昼食をとっていなかったらしく、一緒に昼食となった。巣を出てから久々のまともな料理は、少し冷めていたものの素晴らしく美味しかった。
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