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小雫夜話  作者: はなび
14/26

14雫目・種

一話完結です。


2013年より前に、一度書いたお話のリメイクです。


…多年草ではなく、一年草…。



その日、最後の風に乗って、私は旅立った。



母が、この街の片隅の路地に根を下ろしたのは、強い日差しが降り注ぐ季節を少し過ぎた頃だと教えてくれた。

母が生まれた場所は、ここからずいぶん遠くて、風に運ばれて長い旅をしたと言う。その間に、空の上まで登って雲を眺めたり、虹の橋を渡ったり、沈む夕日を追いかけもしたそうだ。

長い旅は楽しい事もあったが、辛い事もあったらしい。



私たちは、母の旅の話を聞くたび、早く風に乗って空を飛びたいと話していた。



私たちが母の元で十分に育ったある日、母は、今まで私たちを抱きしめていた腕を広げて、旅立つよう促した。

私たちは、それぞれに風の裾を掴み、空へと舞い上がる。私が掴んだ風の裾は、その日の最後に吹いた風だった。



兄弟たちは、思い思いの場所を目指す。

風の裾を掴み損ねて母の側に根を下ろすもの、強い風に乗って空高く舞い上がるもの、優しい風に運ばれて、短い旅をするもの。

私の風は、遠くに旅立つ風だった。



風に乗った私は、母と同じように、色んな景色を眺めた。虹の橋も渡り、夕日も追いかけた。

途中、運悪く、根付く土の無い場所に降り立つ兄弟たちを、何度か目にした。遠く運ばれるほど、水に溺れたり、何かに食べられたりする事が増える。母の言っていた辛い事の意味を、初めて知った。



長い旅を続けていたある日、風が私に言った。

ここで、さよならだよ、と。

私も風にさよならを言うと、風の裾を放し、地面に降り立った。

そこは、何もない大地だった。

長い長い旅を終えた私は、疲れを癒すように、大地にゆっくり根を張り、やがて、雪の降る季節を迎えた。

雪の季節は厳しく、地面に伏して寒さを凌ぐ。ひたすら耐えていると、雪解けの季節がやってきて、そのうちに暖かい日差しが降り注いだ。

私は、そっと花を開く。



いつか私も、この腕に子供たちを抱いて、長い旅の話をするのだろう。そして、育った子供たちを風に預けて、送り出すのだ。

母が、私たちにしてくれたように。



ありがとうございました。


元のお話は、この『種』のように、どっかに行っちゃいました…。



どこ行ったんだか…。

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