強かった虚栄心
呆然と、立ち尽くすしかなかった。何もかもが消えてしまった。
苦しみしかない中で、涙はぼくを裏切った。いつまで経っても頬が濡れる気配がない。
互いに、互いを愛している。そう思っていたのはぼくだけだった。けれど今は、どちらも互いを愛してはいない。悲しいことだが、きっとそうなのだろう。
近いようで遠い。君は今、そんな矛盾したところにいる。待っていて、ぼくもすぐに行くから…。
わかっている、君の幸せを願っている、もう待っていなくてもいい。…なんてことだ。全部ペテン師が吐くような言葉じゃないか!ぼくはただの偽善者に過ぎない。しかも、自分で気づけないなんて、一番たちが悪い。
真実を、言っていると、思っていた…。
倫理とか、道徳とか、もう何も考えなかった。ただ思いつくままに、冷たくなった君を車のトランクに押し込んだ。
空き巣にでも入られたみたいに散らかった部屋を片付けようと思ったのだが、自分で命を吹き込んだ原稿を見て、何もする気がなくなった。
『う』これは最終章の始めの文字。その他にも、無造作に散らばっている。『く』『結』『と』『ぼ』『よ』『婚』『し』…。並んでいる、そのままに口に出した。とても、順番通りに読むことなど出来そうもない。
別々の文字に意味などない。一つに、繋がらないと…。自嘲気味に呟いて、ぼくは車を走らせた。
木々がすぐ横を通りすぎる。いくつも、いくつも…。数えられない。数え切れない。ぼくは初めて涙が出て来た。木々が見えない。もう、何も…。
出て来なくてもいい思い出ばかり、頭を横切っては通りすぎて行く。今まで忘れていたことまでも、ありありと…。
忘れていたことよりも、むしろ今思い出したことに驚かされた。もう、何の意味も持たない思い出たち…。
何も、ぼくの横を通りすぎる物がなくなった。そこで、初めて車を止めた。薄暗い、何もないこの山は、ぼくを言い表すのにぴったりだ。
買って来た縄をしっかりと木の枝に縛りつける。ぶら下がっている輪を見つめ、腹を決める。
冷たい君の体を、ぼくからよく見える位置に横たえた。そして、腹の上で手を組ませた。最後まで、君を見つめていたかった。そして目の前の縄に手をかける。
たるんでいた縄がピンと伸びた時、ぼくの世界はゆっくりと消えた。
この話で投稿を終了します。きっと未熟な表現がたくさんあったと思います。読みづらくてすみません。
ハッピーエンドという物がどうも苦手で、こうした暗い結末にしてしまいましたが、作者自身はこの二人には幸せになって欲しかったです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。