内気
この話に、羸骸という単語が出てきます。意味は、疲れきった体。参考にしてください。
作者のこだわりの都合上、こちらの表現を使わせて頂きたいと思います。
朝になっていた。ふと遮光カーテンを開けて、初めて知った。
いつもはこれほど熱中しない。まあ当然かと、ぼくは自嘲気味に呟いた。
信じてぼくを待ってくれているんだ。なにがなんでも裏切るようなことがあってはいけない。
テーブルの上の植木鉢に水をやりながら、アマリリスをじっと見つめる。葉や花にとどまった水滴が、朝日に照らされてキラキラと輝く。やはりお前はこの姿が美しい。
類は友を呼ぶということわざは、どうやら本当だったのだと、アマリリスを見ていて思う。花屋に立ち寄った時、君もぼくもアマリリスに手を伸ばした。三年ばかり前だっただろう。
「「あっ。」」
息がぴったりあったみたいに、二人で同じ格好で同時に声をあげた。そして同時に、手を空中に留めたまま、視線をアマリリスから互いの顔に移した。
しばらくその格好のまま、無言で互いに互いを見つめた。
天の思し召しだろうか。ぼくはそう思ったし、おそらく君もそうだっただろう。ぼくの友人にアマリリスが好きな者などおらず、君もまたそうだったから。
瑠璃色のワンピースを着た美しい君を、ぼくは今でも鮮明に思い出せる。
思えば、あれから三年が経つのか。まだ三年なのか、という思いと、もう三年も経ったのか、という思いが複雑に絡み合う。二つは一見相反しているが、本質的には似たもの同士だ。
もう一度、アマリリスに目をやった。
いつもそうだ。ぼくたちは、相反する似たもの同士。
つい先日、君と会わない約束をしたのも、遠いような近いような、そんな気がして不思議だった。
ずっと会わない。そんな無茶な約束を、君は承諾してくれた。あなたの小説が読めるお楽しみをとっといておけるからと、いつもと変わらない笑顔で元気づけてくれた。
決して破ってはいけない。絶対に守らなくてはならない。君のためにも、ぼくのためにも。
照らし続けてくれた君を、裏切ってはいけない。小説が書き上がったら、今度はぼくが君を照らそう。
いい加減、ケリをつけてもいいはずだ。
羸骸はもう休息を必要としていたが、ぼくはまだこき使うつもりだった。鉛筆を走らせ、浮かんでくる言い回しを次々に書いていく。
のんびりなどしていられない。君を待たせ続ける訳にはいかない。
にわかに体が傾いた。そしてそのまま床に転がった。情けない。もう限界か。自嘲しながら、ぼくは眠りに落ちてしまった。
今のところ、毎日更新できています。
ところで、毎回つけているサブタイトルはアマリリスの花言葉です。
それに合わせ、誠に勝手ながら、7話で終了する予定だったのを、6話におさめることにしました。