強い虚栄心
もう太陽が西に沈みかけている。
薄暗い山の中を、ぼくは一人で車を走らせている。
いや、正確には、一人ではないけれども。
今日の朝まで、ぼくは君を信じていた。
照れくさそうに笑う君を、ぼくは正視することができなかった。
いっそのこと、出会わなければよかったのか?
悔しくて悔しくて仕方なかった。やはり、ぼくは君にとって何の価値もない人間だったのか。
体が衝動的に動いてしまった。
力が入り過ぎてしまった。
わかっている。こんなのはただの言い訳だ。
ぼくが悪い。でも、全てじゃない。君だってそうじゃないか。
苦しい思いをしたのは、ぼくも同じだ。
二年という時間は、君には長過ぎた。
わかっていた。…はずだった。
なのにどうして君はそう冷たいんだ。どうして何も教えてくれない?
嫌になったのなら、言って欲しかった。
最高に輝いていた、君の笑顔。アマリリスの花束を手渡した時のその笑顔を、ぼくは今日まで忘れなかった。
喜んだのは、アマリリスの花束をくれたからという理由だけではない。君はそう教えてくれた。
「なにより、あなたが私の好きな花を覚えてくれていたことが、嬉しくって!」
ライターなのに、君に返す上手いセリフも思いつかずに、ただはにかんでうなずいたぼくを、君はおかしそうに笑った。
あぁ、叶うなら、あの頃に戻りたい。アマリリスの咲いていた、あの頃に。そうなれば、過ちなど犯しはしない。
けれどもう遅い。わかりきったことだ。だから、ここまで来た。
みだりに掘り返すべきではない。ほかにやるべきことがあるのだから。
この話は7話で終了予定です。
毎日欠かさず書けば、一週間で終了します。
一週間で終了するかは、作者次第です。