香坂イベント1「意外な一面」
皆さんこんにちは、女子高生1です。
今私は!なんとたまたま、本当にたまたま保健室で寝ていたら花崎歌と香坂馨のイベントに遭遇しました!
いやぁ、花崎歌を観察したい私としてはグッジョブな展開ですよ、さすがモブ神様、この有能すぎて困っちゃうくらいの私を捨ててはいなかった。
ベッド中からの中継でございますが、唯一残念なのがカーテンで仕切られているので顔が見えないことでしょう、うーんこれは残念。
「あの、香坂先輩って本当にいつも保健室にいるんですか……?」
「なになに、ひょっとして俺に興味があるの?それだとちょっと嬉しいんだけど」
「えっ、いや……その、って!ち、近いです……」
「うーん、少し顔近づけただけで顔真っ赤になるなんて初々しくて可愛い」
語尾に音符マークついてそう、わざとらしく香坂馨は自分の話題を避けてるなぁ、というか誰にでもこうなんだな、それに対する花崎歌の反応もなんだかもうお決まりすぎて飽きてきたけど。
これがいつか男慣れしてあんなことやこんなことされても動じなくなる日が来るのか……いや、こないな、想像できないししたくないし。
「瞳も澄んでて綺麗だし、肌の色も白いし、本当に天使みたい」
「天使じゃないです!言い過ぎですよ……、……あ」
花崎歌の声は若干震えていて、照れてるんだか香坂馨が怖いんだかよく分からないけど、急に黙り込んだ。
「うん?どうしたの?そんなに顔ジロジロ見られると恥ずかしいなぁ」
「香坂先輩もとても綺麗な瞳をしていますね、深緑色で優しい色です」
「え……」
一瞬素に戻る香坂馨。そりゃあ驚くよね、私も驚いてる。相手の調子を無意識に崩していくのは、さすが主人公と言ったところだろうか。
今度は香坂馨が言葉に詰まったようでしばらく……といっても数秒程度だけど、無言になる。
いやーあのー、私としてはさっさと話を進めてほしいんですけど?いつまで私はこのベッドの布団の中で息を殺して寝た振りをしてなきゃいけないんですかね?我慢するけどさ!
「……そう?ありがとう、嬉しいよ」
「?あ、そうだ、アリス先生はいないんですか、見当たらないのですが」
「んーアリスちゃん、今はいないかな。どうかしたの?具合悪いとか、怪我したとか?」
ああいけない、花崎歌は何か理由があって保健室に来たのか。私の安眠を妨が……あー理由が気になるなぁ、うんうん、気になる気になる。
空気なるのも意外と大変だ、世のモブキャラはすごい、普段は引っ込んでるのに、必要な時になったら唐突に出てきて少しだけ話に関わってまた去っていく、まじリスペクトっす、私はまだまだモブキャラ見習い……精進します。
無心、無心になれ私。
「えっと、この間足捻挫しちゃったみたいで、まだ痛むんです」
……なるほど?
これはあれ、数日前に古城弟と登校中に神村武蔵とぶつかって転んだ時捻ったやつだと推測。まだ痛むってことはけっこうひどいのかな。
「捻挫か、ちょっと靴下脱いで足見せて」
「えっ!?」
えっ!?
「ああ大丈夫、変なことはしないよ。ただ様子を見るだけだから」
駄目だ香坂馨が言うとセクハラにしか聞こえない……女好きなチャラいキャラがそうさせているのか、勿体ない、イケメンなのに。
「様子って……?」
「捻挫がどれくらいなのかって、もちろんアリスちゃんほどじゃないし一般人だけど、そこら辺の人よりは詳しいから」
「そうなんですか」
少々の間。
花崎歌はどうしようか迷っているのか、ってことは選択肢発生?人生って選択肢ばっかりだけど、やっぱりゲームとかだと重要なところのみを選択肢としてだしてるんだと思うんだよね。好感度が上がる下がるのみと、ハッピーエンドのフラグ、バッドエンドのフラグとか……選択肢にも役割は様々。
花崎歌はどれを選ぶのだろう。
香坂馨を信用して靴下を……、
脱ぐ
脱がない
「わ、わ、わかりました」
少し吃った後、香坂馨に頼ることにしたらしい。さすが主人公だね、名前しか知らないようなしかもチャラいやつの前で靴下を脱いで捻挫を見せる。警戒心が強いと評判の私には絶対できない所業だわーまじすごいわーリスペクトだわー。
いつか痛い目に遭いそう。
「あの、そんな脱ぐとこジロジロ見ないでください」
「あーごめんごめん。可愛いなぁと思って」
「そんな……お世辞なんて嬉しくないですよ」
口を開けば可愛いだの天使だのうるさい奴。こういう人の言葉は何一つとして信用出来ないししたいとも思わない。
無条件で何かを信じられる人って尊敬とともに愚かだと感じる、そんな微妙な感情。
「お世辞じゃないんだけどなー、ってあーけっこう思いっきり捻ったねこれ」
「あ、朝よりさらに腫れちゃってるような?」
「ちゃんと処置した?」
「捻った当日に家で一応冷やしましたけど、それ以外は特に大丈夫かなって」
「大丈夫じゃないよ、ちょっと待ってて」
香坂馨の声色はとても優しいけど、少しの呆れと焦りが感じられる。花崎歌の捻挫は割と痛々しいのであろう。
また沈黙したかと思うと、ガタリと棚を物色しているような音がした。
いやいやいや、今回沈黙多すぎて姿も見えないから実況に困るし、それに保健室の中勝手に荒らしちゃダメでしょ。衛生的にもいいの?香坂馨が触ったものに私なら絶対に触れたくないんだけど。潔癖ってわけじゃないけどチャラいのが移りそう。
わーもう私絶対に怪我できない、仮病使っても保健室ではサボれないじゃん……花崎歌を観察する以外の時は。
「あったあった」
「なにがですか?」
「湿布ね、天使ちゃんに貼ろうかと思って」
「あの、だから!天使じゃないです!私は花崎歌って名前があるんです!あーでもありがとうございます、湿布……あああ!!用意してくれたのに怒っちゃってすみません」
このくだり何回目だよ。もう飽きたよ。っていうかこのイベント自体に飽きてきたよ私は。
ちょっと怒ったと思えば、次の瞬間律儀にお礼なんて言っちゃってるし更に謝ってるし百面相してるんだろうな。
「あーわかったわかった、怒らないでいいし謝らくてもいいから、ね?じゃあ歌ちゃん、湿布貼るよ」
ほら見ろ、絶対に今香坂馨は笑いを堪えている。それが私には分かります。それにすっごい自然に名前+ちゃん呼びしたしこの男やるな。
「冷たっ」
「この上から靴下履くのは少し違和感あるしあんまり良くないだろうから、今日はそのまま裸足で過ごしてね」
「あ、はい……ありがとうございました。ちょっと意外でした、でも今日ここに来て香坂先輩に会えてよかったです」
「んー?心外だなぁ、俺にもいいところくらいあるんだよ?でもそう言ってもらえると嬉しいかな、ありがとう」
それを自分で言わなきゃすごくいいんだけどな、自分で言うのがマイナス。本当一般生徒たちはこのチャラいののどこが好きなのだろうか、それが解せない。
たぶん笑顔で会話をしているであろう二人は、その後ほんの少しだけ話す必要もないような雑談をして、花崎歌の方はそのまま帰っていった。
……となれば、私ももうここに用事はないし香坂馨に見つかりたくないので、音をたてないように窓を開けてこの保健室から出て行こう、で別の場所でサボってよう。ここ一階でよかったよかった。
窓から外に出ると、もう九月もだんだんと終盤になってきているからか、風が冷たくなってきているような気がした。
あと二ヶ月もすれば私の大嫌いな冬が来てしまう……そう考えるとちょっと憂鬱な気分だなぁ、まあなんで私が冬を嫌いかなんてこと本当にどうでもいいんだけどさ。
さーてと、今日はもう何もないだろうしまた明日から花崎歌の観察という名の隠れストーカーをがんばっていきましょう!