古城兄イベント1「和解」
少し長めです。
皆さんこんにちは、女子高生Bです。
双子が登場した後一週間くらいは何事もなく過ごし、相変わらず花崎歌と古城兄は仲がギスギスしていましたが、ようやく今日で終わりなようです。
話は巻き戻って数十分前、私は偶然……いや嘘はよそう、花崎歌を尾行しているうちに面白い場面を見てしまった。
「あの、私!一年の頃からずっと隼人くんのことが好きでした!」
「……ふーん」
女子高生Aが古城兄に愛の告白をしているところ。
それにしても振られると分かっていながらも特攻していくモブキャラたちはなんなのか、主人公たちのダシにしかされないのに。
本当世の中は不平等、誰もが主人公なんて言うけどそんなの絶対嘘だ。
例え主人公になれたとしても、バッドエンドを迎える人の方が多いだろう。
この女子高生Aにとっての物語は、ここでバッドエンドなのかもしれないし、数年後くらいに平々凡々な恋人を見つけてハッピーエンドになるのかもしれない。
ただここで語られる範囲ではバッドエンド、女子高生Aのその後なんて誰も気にすることはない……なんてね。
「本当にずっとずっと好きだったんです」
告白している場面をみてしまった花崎歌は咄嗟に建物の影に隠れた。
そして私もいることがばれたくないので少々息苦しいがちょうどいい感じに花崎歌の隣にあった草むらの中にお邪魔している。
いやー普通に隠れてる時点で女子高生Bではないと思うかもしれないけど、それについてはすぐに解決する。
今回の私にはこのイベントの手伝いをする役目があるから。
「この想いは誰にも負けないです」
「うわっ、ちょっと!」
やりおった女子高生A!古城兄に抱きついた!いいぞもっとやれ!
花崎歌はその様子に目を大きく開いて驚いている……あ、そっか。多くの主人公が持っている属性のひとつ、難聴が発動しているのか。
難聴とは、話の核となる大事な部分をなぜか聞いていない、もしくは華麗にスルーしていく主人公のスキルである。花崎歌はどうやらその類らしい。
要するに私が聞こえてるこの内容も花崎歌には最初の告白の部分しか聞こえてないわけで。
「……隼人さん、あの女の子と付き合うのかな」
いやそれだけは絶対ないから!安心して、確実に近い未来、花崎歌がおとすから!女子高生Aが一方的に抱きついているだけなのに一体どんな思考回路してるんだ。
「これ以上覗き見するの、悪いよね……どうしよう」
おっ、花崎歌の脳内に選択肢が発生したようです。
これまた王道の中の王道なシチュエーションだよね。攻略対象のキャラが他の女の子と仲良くしてたり告白の場面を見ちゃってどう振る舞うか。この場合どっちが好感度上がるのかなぁ、古城兄の性格を考えたら立ち去るを選んだほうがいいのか、真面目だし。
「すごく気になるけど……帰ろう」
やっぱり立ち去る方を選んだのか。
がしかし、そう簡単に退場させてくれないのが相場でして。
花崎歌が二人に背を向けて歩き始めようとした瞬間、少し大きめな石につまずき盛大に転んだ。
ズコーって落としそうな勢いで転んでったよ花崎歌!さすがやることが違う!無駄にドジっ子属性がある、私には絶対にできない。
うわぁ……すごく痛そうです。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ可哀想。
そのあまりにも盛大すぎる転びっぷりにやはりというか古城兄と女子高生Aは気付いてしまった。
何から何までありがちすぎてもうツッコミを放棄したいです。
「……!花崎」
「あっ、あなたは」
「え、あ、え……その、ごめんなさい!見てないです!」
しっかり見てたくせになに言ってるんだが。
花崎歌は頬を赤く染めて腰を90度曲げてお辞儀をしながら謝り走って逃げて行った。
お、これはもうそろそろ私の出番も近いかな。
「おい、待て!」
「あ……隼人くん!!」
顔を真っ青にしながら古城兄は花崎歌を追いかけて校舎裏から消えた、目の前にいて告白してくれた人に目をくれることも一切なく。
可哀想に女子高生A、返事は言わずとも振られたも同然だ。
「花崎歌……邪魔だなぁ」
おおう、マジですか?
二人の背中を見送りながら女子高生Aは呟く。なんだか嫌な予感がするけど、私には一ミリたりとも関係ないし、今のは聞かなかったことにしておこう。
さて、と。そろそろ私も行きますか、二人より先に駅前に行かなければ。
私の持っているモブキャラパワーを使えばそんなの簡単、というのは建前で本当は自力で走って近道を駆使して頑張ります。今の私は女子高生Bなのだから、それ相応の役割をしてみせる!
…………はぁ、疲れた。
全速力で走った。でもここで息を乱していたら不審に思われるかもしれない。古城兄は私なんかに興味ないかもしれないが(私も興味ないけど)一応念のために呼吸を落ち着かせて。
どうやら先回りは成功したようだ、駅前にはまだ花崎歌も古城兄もいなかった。
私の中の予想だと二人は駅前を通った後、近くの公園でこのイベントの真の目的である和解をするのだろう、なぜそんなことを知っているのかはすべてモブキャラだからで済ます。私たち一部のモブキャラは割とチートな存在なのだよ。
しばらく待っていると、花崎歌が息を切らしながらも必死に走って私とすれ違って行った。
必死に走る姿もやっぱりどことなく可愛げがあって花を撒き散らしていく、容姿が特別整っているわけではないがなぜあんなにも魅力的なのか、私にはわからない。
「ふぅ」
大体今から約一分後に古城兄がここに来るだろう、私の今日の役目はそこにある。
「よし、来たか」
目を閉じて深呼吸をして前を見る、そこには少し辛そうな表情をしている古城兄の姿があった。
大丈夫、私は女子高生B、女子高生Bなのだから大丈夫。失敗なんてしない。
今の私は女子高生B。
そう念じて、ゆっくりと歩き始める。
「くそっ、意外と早いな!」
大丈夫……大丈夫。
このモブキャラとしての平和を守るためなら私は自分を捨てれる。
「あの、すみません!この辺で走っている同じ高校の女子、見かけませんでしたか?」
古城兄は私の目の前で止まった、予想通りだ。
「えっ?ああ、もしかして花崎歌さんのことですか!?」
「は?……知り合いですか」
「いえ、噂で一緒に住んでるって聞いたので、花崎さんなら公園の方に向かって行きましたよー、それよりこんなところであったのも縁ですしこれから私と」
「公園だな、悪いが今お前と話してる時間はない、要望なら生徒会室前に設置してある要望シートに記入してくれ」
あらら、振られちゃった。
まあここでOKなんかされたら困るんだけど、そんなことはあり得ないし。私の役目はこれで終わりだ。
あとは私の好奇心であの二人がどうなったのか見に行くだけだ。
……ということで現在に至り、花崎歌と古城兄は公園にいる。
草むらって便利だね、私の体をすべて隠してくれる。しかも公園自体が空気を読んだのか二人以外は誰もいないという徹底ぶりだ。
「隼人さん……」
「やっと見つけた、足速い」
「あの、私、本当に見るつもりなくて、偶然で立ち去らなきゃって」
「いやあれは誤解って少し落ち着け、面倒な奴だな」
しどろもどろになっている花崎歌の肩を軽く叩き落ち着かせているようだった。その仕草はどことなく優しいもので、ああこれがイケメンの力なのか。
「ごめんなさい……私、隼人さんがあの女の子と付き合うって考えたら、少し嫉妬しちゃって、でもちゃんと応援しますから安心して」
「だから!誤解!俺はあの女子と付き合わないし、告白されていきなり抱きつかれただけだ!」
「そ、そんな……でも」
「俺が言うのもなんだが、信じてくれ。自分でもなぜこんなに焦ってるのか分からないけどな」
「……私ずっと一人っ子で、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったです。だからとられるって思ったら寂しくて、私もっともっと隼人さんと仲良くなりたいです、だから信じます」
「はぁ……そりゃどうも」
何というか、うん。よかったねとしか言いようがない。
きっと花崎歌の中で色々な考えが頭の中を行き来しているのだろうけど周りから見ればそんなのわからないし、あっさりしすぎな感が否めない。
きっと花崎歌視点から見たこのイベントはゲームで例えるのなら二、三十分ほどかかるのだろうが、私から見たイベントはもう終わりに近いです。
「俺も、いきなり同居とか言われてどう接すればいいか分からなかった。勇人みたいに順応性は高くないしな」
「ふふふ、じゃあ仲直りしてまた仲良くしてください」
ニコニコ笑って花を飛ばす花崎歌に古城兄は微笑んで頷いた。
「ああ、よろしくな……歌」
花崎歌の頭をポンポンと撫でる。
ああそれは!イケメンにだけ許される頭ポンポンじゃあないですか!!
デレた、デレ始めたぞ!古城兄墜落。花崎歌を好きになるのにそう時間はかからないであろう。
……結局、二人は仲良く話しながらご帰宅していった。私は特にバレることもなくずっと草むらの中で過ごしました。
まだまだ暑さが残る季節、そしてまだまだ虫がたくさんいる季節。
「……」
さっきから虫がね、私の周りをブンブン飛んでるわけですよ。虫は苦手じゃないけど嫌気が差してきた、虫と友達になる趣味もないし私ももうそろそろ帰ろう。
そういえば、あの女子高生A……まだ何か起こしそうな雰囲気だった。
聞いてないってことにしたいのはやまやまだけど、まだ古城兄について一悶着あるかもしれない、注意深く見ていないと。
ま、何かあっても極力私は何もしないけどね。