香坂イベント2「お叱り」
ぜ、全身が熱い……というのも、なぜか私、女子生徒Xはウイルスに負けて今保健室で寝込んでいる。
どれくらいひどいかというと、朝登校したまでの記憶はあるが、それ以来の記憶があやふやで、気が付いたら保健室にいて、白川アリス先生に心配されたくらい。ってけっこうひどいなこれ。
ま、花崎歌が転校してきてから、割と不摂生な生活してたから、体が弱っていたのかな。
くそぉ、保健室は香坂馨の住処だからできるだけ近寄りたくなかった!
ってことで皆さんおやすみなさい。と言いたいところだけど、私は文句を言いたい。
保健室にあるベッドは3つ。
私は一番右側のベッドを使用、そして隣のベッドは今誰もいない。
問題なのはそのもうひとつ隣の一番左側にあるベッドだ。
香坂馨がいる。
いる、だけならいい。
「……ダメ、馨。誰かが来ちゃうよ」
「大丈夫だよ、アリスちゃんもしばらく戻ってこないし」
大丈夫じゃないよ、ワタシイルヨ。
「も、やだぁ」
保健室に響く甘ったるくて胸焼けしてしまいそうな女子の声。
この声の主、女子高生Oとしよう。
なんと、香坂馨と女子高生Oが健全な高校の保健室で18禁的な展開になろうとしている。
ゲームでこの描写を細かくしようとしたらCEROが飛び上がる。CEROとは簡単に言っちゃえばこのゲームの対象年齢を示すもの。AからD、そしてZがあり、後ろにいくにつれ対象年齢が上がっていく。
もしこの世界がゲームの世界で、花崎歌を主人公としてプレイするとなると、CEROはB(12歳以上対象)だろうか?というのも、花崎歌は高校二年生にしては幼い、純粋、鈍感であり、そこからこうアレな展開にもってくのはけっこう無理があるというか……。
Bならまあ、キス?くらいなら平気、それ以上はまあふんわり、本当にふんわり描写ならいけたはず。あくまでも基準だから違う場合もあるとは思うけども。
「で、でもほら、他のベッドもカーテン閉められてるし、誰かが使ってるんじゃ」
「寝てるよ、それにもし起きてても関係ないし」
ははは。
起きてるよ?
私が頑張ってゲームの対象年齢の話をしている間にも彼らの情事は進もうとしている、いやいや、進むなよ。
私はまだ未成年なので、18禁的なゲームはしたことないし。そりゃ私だって高校生だし、興味がないわけではないけど、嫌悪感の方が大きい。
だから私の表現力じゃこれから起きることを細々と説明することは不可能。
規制です、規制。
そう、ふんわり、ふんわりとね?
私は何も聞いてない、聞いてない……。
そう、聞いてない。
「君の……が、…………」
「それ…………、………………!!」
「…………だね」
「……!?…………!」
あーキコエナイ。
そうそう、私今熱あるから、きっと幻聴。実は保健室には私しかいなくて、熱に浮かされてやばい幻聴がするだけ。
……と、どれくらいの時間誤魔化していたことか。
実際にはほんの数分だが、もう私の体感ではそれの数倍くらいの時間があった、地獄だった。こんなお手軽に地獄を味わえるなんて、嬉しくない。
はぁ、ずっとこの時が続いてほしいって思う時はあっという間なのに、どうして早く過ぎてしまえって思うことは長く感じるのだろう、不思議。
似たようなことで、楽しい思い出よりも辛い思い出の方が色濃く残るのも、嫌だ。これは人によって違うのかもしれない。
少し話が逸れた、で、たった今、この私にとって地獄としか言いようのない空間を打開してくれる救世主が現れた。
「な、なななな……な、何してるんですか!?」
ふたつ隣のカーテンが、シャッと開く音がして、すぐに動揺を隠す気がない発言が飛んできた。
なんかね、こういうことになるのはもう大体予想してた。
具体的には香坂馨と女子高生Oの存在に気が付いた時から、まあ、ぶっちゃけちゃうと最初から。
想像通り、カーテンを開けたのは主人公の花崎歌です。
彼女の表情を盗み見したいところだけど、体が重くて、思うように動かないんだなこれが。運が良いんだか悪いんだか分からなくなる。
今日は特別狙ってたわけではないから、たまたま。
私は最近プロのモブキャラになってきたからか、イベント時にたまたまそこにいる率?が高いってことだよね。
「ん?やあ歌ちゃん、今日も可愛いね」
香坂馨は特に驚いた様子もなく、道端でたまたま知り合いに会いましたとでも言わんばかりの呑気な挨拶をする。
そして平然と口説く。特に今日も、って言ってるところがポイント高い。
「え、あ、こんにち、は……じゃなくて!」
「……ちょっと馨ぅ、誰よこの女。てか勝手にカーテン開けるとか、あり得なくない?マジでさぁ」
さっきとは打って変わって超ドスの効いた怖い声が保健室に響く。
あーあれかな?
修羅場?
女子高生Oの言うところの後半は同意する、勝手に開けるの良くない。
良い子のみんなは保健室の閉まっているカーテンを開けないようにしましょう、とんでもない修羅場が待っているかもしれないので。
「や、あの、声がしたから、保健室の扉も開いてましたし……何かあったのかと思って」
保健室でこんなとんでもないことしてるのに、扉は開けっぱなしとかあり得なくない?マジでさぁ。
ちなみに私はこのふたりが来る前からいました、その時にはまだ白川アリス先生もいたし。
「んー閉めるの忘れちゃったのかな」
「忘れちゃったって……、と、とにかく、ふたりとも、その、ふ、ふふふ服着てください!目のやり場に困ります」
「あ、もしかして赤くなってる?歌ちゃんは純粋で可愛いね。上半身裸なだけでそんな顔になるなんて」
「なっ」
開いた口が塞がらない状況とはこのようなものなのかね。
花崎歌を絶句させるとはなかなかすごい、誰もができることじゃない。
「ふーん……随分とウブなのね、その子。馨がそんな子相手にするなんて珍し、処女は嫌だって言ってなかった?」
「しょ……!?」
「ダメだよ、歌ちゃんにそんな過激なこと言ったら」
う、うわぁ……え、えげつない。
高校生ならまあ普通だと思うよ、ああ本当にこういう話はやり辛いんだってやめてくださいよ。
「何よ。馨はその芋っぽい子を庇うワケ?」
「なんていうかほら、女の可愛いと男の可愛いは違うって言うじゃない?」
質問の答えになってない。
けど、何となく香坂馨が言ってることの意味もわかる。
花崎歌は顔のレベルはそこそこ、でも女の子らしくて、見てると危うくて放っておけなくて、守りたくなる系の女の子。しかも純粋無垢そう。なんか纏ってる雰囲気が可愛い。
……はっ!これは、典型的な乙女ゲームの主人公!!こうなるのはきっと、あれだ、色んな属性の男たちを落とさなきゃいけないからだ、その男たちの好みの平均値が大体こんなゆるふわ女子ということなのだろう。
「は?なによそれ。はー……なーんか、萎えたわ、アタシ帰る」
「そう?なら、また今度遊ぼうね」
「……そうね」
この男全然悪びれる様子がない。
反省のはの字も見えない。
ベッドが軋む音がして、女子高生Oが立ち上がったのを察した。
彼女の乱暴な足音がいかに機嫌が悪いことを物語っている。
数秒後ものすごい音をたてて保健室の扉が閉められた。
扉にヒビ入ったんじゃないかってくらい、たぶん2階とかにも、下手すれば3階にも聞こえてるレベル。
「……」
「行っちゃったね、……で、歌ちゃんはどうして保健室にきたのかな?」
「……な」
「な?」
「何やってるんですかっ!」
花崎歌が出しているとは思わないくらいの大きな声量が耳に飛び込んできた瞬間、パシンッというこれはもう気持ちいいくらいの平手打ちする音が聞こえてきた。
この女叩きおった!
平手打ちした部分は頬だよなぁ、こういう時の定番だし。
創作物ではよくビンタするシーンあるけど、実際にビンタする機会なんて、そんなないよね。少なくとも私はそんな機会なかったし、そりゃしたくなる時はあったけど、我慢するでしょ、普通。
こういう時にビンタするような過激さを持ち合わせていないと、主人公にはなれないってことなのか、なるほど。
今のもたぶんきっと、選択肢なんだろうね、叩くとか、泣くとか、そんなところだろう。
「ここ学校ですよ!場所を弁えてください!」
ごもっとも。
だがしかし、その発言はちょっと意外にも思う。
場所を弁えれば別にいいのか、どちらかというと主人公なら、そんな破廉恥なことはやめろとか言いそうだけどなぁ。
香坂馨は花崎歌の発言に何を思ったのか、しばらく黙り込んだ。驚いていたのかもしれない。
ああ、顔が見られないのが本当に惜しいな!頭がもう少し正常に働いてればきっと盗み見ることなんてお茶の子さいさいなのに!
「……ぷっ、くくく」
保健室に静けさが訪れたかと思った数秒後、いきなり香坂馨が吹き出して笑い始めた。
「な!?ちょっと、何がおかしいんですか」
怖っ。
こいつ笑ってるぞ!殴られてるのに!
M?こんなチャラくさいくせにMなの?
「いやだって、歌ちゃんすごい顔で怒ってるから……」
「!?ひ、人の顔見て笑わないでください!」
「ごめ、くっ、わざとじゃ、ないんだけど。はぁ……それにしても、やっぱり純粋な子もたまにはいいかもね、新鮮で可愛い」
「笑うのやめてください、あとふざけないでください。怒ってるんですよ!」
「あーごめんごめん、いやさ?叩かれることはまあ、あるんだけど。こんないかにも善良そうな年下の子に場所を弁えろって叩かれたのは初めてだったから。歌ちゃんは面白い子だね」
「そんなこと言われても嬉しくないです!」
この選択は正解、なのか?
判断しづらい……。
そして叩かれたことあるのか、モテる男はちがうってやつ?
っていうか。
もうそろそろ私の意識が限界……。ツッコミも段々となおざりになってきた。
今までかなり頑張って普通にしてたけど、今の花崎歌の声もあってか頭がガンガンするし、相変わらず突っ込みどころ満載だし、体は熱いしで。
ごめんなさいもう無理です。
まあ大体イベントはもう終盤ってところでしょう。
なので、今度こそおやすみなさい。
私の意識はそこでプツリと途絶えた、途絶えた後彼女らがどうなったのかはわからないけど。
薄れゆく意識の中思いました。
お前ら保健室では静かにしろよ、と。
あともうひとつ、改めて思ったけど、どうして私保健室にいるんだっけ?と。




