10.気が付くべきだった選択肢
「ね、歌ちゃんは俺とその見知らぬ男子高生、どっちを信じる?」
古城弟はにこやかな表情を変えることなく、主人公に問う。
「……なんて、そんなこと聞かれるって時点で歌ちゃんからそんなに信用されてないってことなんだよね?それが分かっちゃってちょっとショックだな」
「えっ……あ、私も勇人くんが怖い人たちと関わっているなんて、思ってないよ。でも一応こういうことがあったって伝えておこうかと思って」
あーやっぱり盗聴器よりも実際に見た方がいいよね、分かりやすい。
表情の変化も見えるし。
えーと、今の状況どう説明していいのやら……って感じだけど。
前回から引き続きモブキャラがお送りしています。
まず、時は遡り数十分前。
なんだかモブ不良と会った時から、主人公花崎歌の様子が変!
さすがに不審に思った古城兄がどうしたのかと聞く!
そして彼女は古城弟がいる不良とつるんで悪いことをしてると聞いた、と。
今まで起きたことをまとめてみればこんなに短くなるものなんだ。
で、それに対する古城兄の反応がなんかちょっと、意外というか。
「なるほどな……気になるなら、本人に聞いてみるか」
それだけ。
本当にそれだけ。
そこからはもう私が実況してる間も無くトントン拍子で話が進んでいった。
古城兄が古城弟はまだ学校に残っているだろうから、連絡して話があるので一緒に帰ろうと誘い。
そして後の雑用はとりあえずさっき途中退出した生徒会役員に任せて今日の仕事は切り上げ。
二人は待ち合わせ場所である下駄箱で古城弟と合流して開口一番、お前不良とつるんでるのか?と聞く。
ここら辺の過程を省いたのは、この間花崎歌と古城兄は一言二言くらいしか話さなかったから。
花崎歌がオロオロしてて、古城兄はそれを無視してどんどん話を進めていた、ちょっと不自然なくらいに。
普通、もっとこう……自分の弟が訳の分からない不良とつるんでるかもなんて聞いたら反応するもんじゃないの?
それか古城兄なら、そんな馬鹿なこと有り得ない、忘れろ。とか?
まあとにかく、そんなこんなで、私はそれはもう全速力で校門に向かい、彼らをじっくりと観察できるぎりぎりの距離を確保。怪しまれないように至ってどこにでもいるちょっとぼっち気味なモブキャラを装う。
そう、私はたまたま彼らと変える方向が同じだけ、という思い込みが大切。
「そうなんだ、俺のこと心配してくれて嬉しいな」
続けてとりあえず歩き始めない?という古城弟に花崎歌が頷き、二人は歩き始めた。
その後ろを古城兄が何考えてんだかよく分からない無表情でついていく。
……いや、あのさ。
花崎歌は目の前の古城弟のことで必死なのかもしれないけど、私は古城兄の反応の方が気になる。
本人に聞いてみるって、やっぱりおかしい。だってそんなのほとんどの人がそんなわけないじゃん、みたいな反応すると思うんだよ。
古城兄がどこぞの幼馴染みみたいに脳筋な馬鹿ならああ、こいつはやっぱアホだ、って思えるんだけども。
なんたって超ハイスペックな男子、らしいので馬鹿じゃないだろう、何か意図があるはず……。
「その俺とつるんでるって不良、名前なんだっけ」
「東堂時雨、って言ってたよ」
「うーん……聞き覚えない。俺、なんかその東堂時雨さん?とかその歌ちゃんが昨日会ったっていう不良に恨まれるようなことしたのかな」
ああ、古城兄弟とか見知らぬうちに敵とかたくさん作ってそうだよね。
この話も不良の元カノかなんかがたまたま会った古城弟を好きになっちゃってフラれた!腹いせにコイツを貶めてやろう、とかいう、単純なものなら平和な日常の中にちょっと起きたトラブルで済むし。
ただ東堂時雨とかいう新キャラ出て来てるからなぁ。
「心当たりはないのか」
ここに来て初めて古城兄が口を開く。
特にこの言葉に違和感はない、と思う。
「うーん、心当たり……っていうほどのことでもないけど。その他校の生徒と何回か話したことはあるよ、と言ってももう半年以上前だけど」
「どんな話をしたんだ?」
「練習試合の相手だったんだよ、えっと、たぶん二月。その時に勝って、どんな練習をしてるのかとか聞かれたような」
「……練習試合?」
古城弟は思い出しながら話しているのか、心なしか歩くスピードが落ちた気がする。
あと、花崎歌が引っかかったところ、私もそれは気になった。
練習試合、ってなんか運動部のイメージで生徒会に所属している古城弟には無縁な感じがするし。
「あー、一年生のときはサッカー部に入ってたんだ。もうやめちゃったけどね」
……んん?
何その情報、初めて聞いた。
九月からずっと、花崎歌とその周囲の人間たちのことについて声を大きくして言えない手段で調べてたりしたけど、知らない。
彼らの生年月日身長体重を始め、過去の在籍クラスとか成績とか、テストのクラス順位とか調べられる限りを尽くしたのに。
そんないつでも知ることができそうな簡単なこと見逃してたなんて。
「またそれについては今度ね、で、それ以外には思いつかないな。塾でもその高校の人とは話してないし。知らない間に何かしちゃったのかも」
「なるほどな」
これは大きなミスだな。
私くらい万能なモブキャラでも情報の拾い忘れがあるってことだ。
せめて去年、古城弟と同じクラスだったらわかったのかもしれないけど、違うクラスだったし。
古城弟ファンクラブの中でもサッカーのさの字すら話題に上がったことない。だからといって彼女らが古城弟の過去所属していた部活を知らないはずがない。
もしかして、あんまり触れてはいけない部分とか?
今も古城弟なんかはぐらかした感じになってた。
「だそうだ。勇人にはまったくもって心当たりがないらしい。それでも火の無い所に煙は立たぬ、と言うしな。無意識のうちに何かしたか、そのようなことを言われる恨みをかったのだろう」
「それはちょっと、怖い。俺ももっと気をつけたほうがいいかな」
「気をつけたほうがいいのは歌だ。また不良に絡まれるかもしれない」
「ああ、確かに。歌ちゃんはしばらくの間誰かと一緒に学校を行き来した方がいいよ。と言っても俺か隼人しかいないか」
「そうだな、登下校時どっちかとはいた方がいい、少し窮屈かもしれないが、歌はそれでも大丈夫か?」
「え、あ、うん。大丈夫」
なんだか花崎歌はこの話の展開についていけてない感ある。
今回はかなり蚊帳の外気味。
でも、私もなんか、なんかひっかかるんだよな。特にこんな分かりきったことを聞く古城兄に。
わざと古城弟に不良とつるんでる云々の話をふってみて、反応を見てるってのもあるんだと思うんだけど。
こう、一欠片も動揺していないというか、反応が薄過ぎるというか。これが美しき兄弟間の信頼、とか言うなら何も言えない。
「じゃ、帰るときは俺か隼人に声をかけてね」
「うん、ありがとう。お願いします」
この会話を最後に、古城弟が東堂時雨とつるんでる、という話題はもう出てこなかった。
それはもう、また不自然なくらいに。
これは花崎歌もさすがに気付いているでしょ、結局何も分からなかったし、解決なんてまったくしてないって。
なのに二人ともさっさと切り替えてまったく違う話をしている。
いつもならここら辺、もっと深く知りたいところなんだけど……ちょっと、いやかなりやり辛い。
まずあの不良モブも東堂時雨も他校生だし、それに私、あの不良モブに顔見られてるんだよなぁ、それを分かった上で動くのはモブキャラとして愚かな行為だとおもうんだよ、モブキャラとして。
「あ、そうだ、ねえ二人とも」
そして三人で今日の弁当美味しかったねははは、みたいな当たり障りのない会話をしていたときだった。
「私何日か前にいつもお守りとして持ち歩いてたストラップ失くしちゃって、探してるんだけどどこかで見なかったかな」
いきなりこの話題を持ってきたのは。
前触れもないからびっくりする、花崎歌の思考回路がわからない分、けっこうこっちは話題が変わる度に振り回されたりするのが分からないのか、分かるわけないか。
すぐさま私の数ある記憶のなかから当てはまりそうな事柄を思い出す。
そんなのひとつしかないが。
あれだよね、確か珍しくモブ女子が私に向かって花崎歌の悪口を言ってた日。それで花崎歌の大切なものを隠したとか言ってた。それが印象的だったから覚えてる。
その話か。
二人はいきなり話を振られてキョトンとした顔をする。
「えーと、ストラップって……あのビーズでできた鳥の?」
「うん。そうだよ」
「俺は見てないなぁ、隼人は?」
「ビーズでできた鳥?いや、そのようなものは見だ覚えはない」
「そっか、どこ行っちゃったんだろう」
花崎歌は困ったように、どこか寂しそうにため息をつく。
それを見て、ここ数日、あんまり彼女の笑った顔を見てないなぁと気付いた。
が、別にそんなことどうでもいい。
っていうかそのお守りにしてるストラップ?隠したのあれだよね、あのモブキャラだよね。また再登場すんのかな……もう顔すらよく覚えてないけど。
なんでまたそんなストラップをお守り代わりにしてるんだが。
ああ、分からないことだらけだった。
今回知ったのは、まず古城弟がサッカー部にいたこと、あとは花崎歌にはどうやらお守り代わりにビーズでできた鳥のストラップをつけているらしい、ってこと。メモしとかないと。
……あれ、あのモブ女子ってなんで花崎歌が大切にしてるのがそのストラップだって分かったんだろう。
私ものすごく注意深く花崎歌を見てるけど全然気が付かなかったのに、なんか悔しい。
「大切なものなのか?」
「うん……」
花崎歌も大変だね、この短期間に大切にしてるもの隠されたり、訳わからない不良に絡まれたり。
こうして見ると、主人公もそれなりには苦労してるんだな。
「……あれ」
「探してるなら、俺も手伝うよ」
「あ、えと、ううん、気持ちは嬉しいけど大丈夫……小さいものだし」
一瞬、ほんの一瞬、花崎歌の表情が固まった。
私のこの鍛え抜かれた観察力で見逃さなかった、間違いない。
でも、なんでかは分からない。
花崎歌の中で何かあったのか?
「あ、そういえばね……」
かと思えば花崎歌はまた何でもないように話を区切り、違う話を始めた。
なんでも最近駅の近くに美味しいアイス屋さんができたんだとか、ちょっと話題の寒暖差ありすぎてついていけないですね。普通についていけてる古城兄弟はすごいわ。
この後はもう特にめぼしい話題は出てこなかった。
そして自分の家に帰ってきて、今日のことを思い返して見て気付いたことがある。
このイベントって古城兄のものなのか、古城弟のものなのか?について。ここはけっこう好感度的に重要なポイントだよ。
そしてどこに選択肢があったのか?
いつもなら気付くけど、妙に今日のは分かりづらかった。
ま、とにかくこれから文化祭も控えてるわけですし、まだまだイベント盛りだくさんなはず。
できれば今回みたいに雲行き怪しいのじゃなくて、はっちゃけてて明るい感じのをひとつ、頼みたい。
最初の方で古城兄にフラれた女子生徒Aの不穏な発言とか、大切なもの隠したとかいうモブ女子とか、モブキャラたちの悪口とか、東堂時雨とか、明らかに不自然な古城兄弟とかこの際なかったことに……って、花崎歌の不安要素、ありすぎ!
でも私には関係ない、関係ない。
今までもこれからも関係ない。
自ら関わらなければきっと、大丈夫、私はモブキャラの神様に愛されている、と思い込もう。
じゃないと……。
……じゃないと?
一体なんだと言うのだろう。その先にあるものなんて何もないはずなのに。




