神村イベント「偶然?」
突然ですが、私は今バイトをしているところです。
私はモブキャラだし?場合によって色んな職種に変わるんだけども。
そして、今日の私はファミレスの店員Aだったりする。長いので店員Aとする。
実はちゃんと社会に貢献しているのだ、断じて同性のストーカーをするだけのモブキャラではない。
普段ならあんまり自身のプライベートな話とかしないから、不思議に思うかもしれない、が。
今回はこのゲテモノな料理が出てくるという漫画や小説にありがちな設定のファミレスがイベントの舞台なのだから話は別。
それが起きたと気付いたのは、私がバイト先に行き、制服に着替えフロアに立ち、お客に呼ばれ席に行った時である。とても説明口調になったが気にしない気にしない。
「え、えっと……。アイスココアで」
「……コーヒー、ホット」
ファミレスにあるまじきとても殺伐とした雰囲気で、二人は四人席に座っていた。
片方は消え入りそうな声でココアを頼み、もう片方は愛想なく威圧的に注文をする。
……え?何この状況。
ってか誰?この男。
「早く持ってこいよ」
は?
「かしこまりました」
一瞬だけ男の方を見ると、今まで出てきたキャラでもダントツで柄の悪そうな顔をしていた。ただしイケメンではない。よってモブキャラ。
服装は学ランをかなり着崩して着ている、花崎歌が通っている高校のものとは違う。他校の生徒か。
そして女の方は見間違えることもなく、どう見ても年中花畑の花崎歌だった。別に悪意はない。
「あ、あの……私……」
完全にオロオロしてる。
なんで花崎歌がこんな柄の悪い男と、不良Aとかでもつきそうなモブキャラと一緒にファミレスに?
さすがの私も状況があまり飲み込めない、そして今はバイト中なのでこの二人に構ってもいられない。
「あ?」
「……って、…………ですか?」
店内は放課後の高校生で賑わっているのもあってか、さすがに花崎歌の声はよく聞き取れない。不良Aのほうは無駄に大きい声だから聞こえるけど。
高校生、と言ってもこのファミレスに来るのは花崎歌が通う高校の生徒ではなく、全然別の男子校の生徒だ。
この男子校の通学路にちょうどこのファミレスがある。
そしてこのファミレスは花崎歌が通う高校や古城家からは電車や車でないと行くのが辛い距離なはずなんだけど。
だから余計に気になってしまう。
なんでそんな場所に、って。
「…………さい」
「へぇ、そんな口の利き方していいワケ?」
「……」
いかにも悪役が言いそうな台詞を片っ端から並べている不良A。そんな彼に怯えているのか、花崎歌の声はますます小さくなっていく。
ああもう、ちょっと聞かせてよ!
っていうかなに、全く状況が掴めない。推測するにも情報が少なすぎる。
割と高校から遠いファミレスで?花崎歌と不良Aが?二人でお食事?
あの怯えきった感じだと元々知り合い、という線は薄い。だとすると不良Aに声をかけられた、か。
確かに簡単に金とかとれそうな気がするけど、ただのカツアゲならわざわざファミレスにいく必要もない。
だけど、あの不良Aの威圧的な態度と台詞から、花崎歌を脅迫か、似たようなことをしている……とか?
そしてあの不良Aはファミレス近くの男子校の生徒だ。所謂ワルというのが多い高校で、特進クラスと普通クラスの差が激しいらしい。
とここまで考えて、私はある事実に気付き、自然に仕事をしていた手が止まった。同時に思考回路も停止する。
……まずい。
心なしか早めにフロアを歩き、レジのお金を数えていた店長の元へ行って声をかける。目的はひとつ。
「あの」
「ん?なに、どうしたの……」
店長が私に気付き、見た瞬間、ガラスが割れるような音が店内に響いた。
ざわざわとした店内が一瞬静まり返る。
やばい。やばいって。
思考停止したからの展開早すぎない?私ついていけないんだけど。
音のした方向を恐る恐る見てみると、呆然とした花崎歌とニヤニヤする不良Aが見えた。
テーブルにはガラスの破片と茶色の液体が広がっている。
ちょ、あれ掃除するの私なんですが。
「ちょっと、何ぼーっと見てるの、さっさと行ってきてよ」
え、私が行くの?
あの惨劇は店長がでてくる沙汰だと思うだけど。
店長のあんまりな態度にキレそうになりつつ、いかにも慌てたふりをしながら彼女らの元へ行く。
うわー、すごいガラス散らばってる。もう全部ファミレスの皿プラスチック製すればいいのにって、思うくらいには散らかってる。
「信じるか信じないかは、勝手だけどなぁ?あんまり調子のんじゃねーぞ?」
「そんな、……だって、私……」
不穏な空気。
周りの人たちはもうすでにガラスの割れる音に対して、興味が失せたのか各々ちがう話を始めている。
ざわざわした店内なはずなのに、この空間だけは氷のように冷たい。
早く帰りたい。
こんな事態になるなら今日バイトなんて入れなければよかった。
どうにかして逃げたい。
「ふきんをお持ち致しますので……」
「はっ、悪ねぇねーちゃん。今俺さぁ、最高にイイ気分」
しまった、と思ったが遅かった。
不良Aはテーブルの上にある半分くらいに減ったココアの入ったカップを持ち、思いきりテーブルに叩きつける。
ものすごく大きな音をたててコップは割れ、破片やら液体やらが地味に私にかかった。
しかしなぜか花崎歌にはかかってない、これが主人公補正というやつか。
なんだこの不良Aトチ狂っとるぞ!
誰だこんなのをモブキャラにだしたのは!同じモブキャラとして恥ずかしいわ!
……というかこんな状況でもココアを半分くらい飲める花崎歌の精神力の強さにびっくりだよ!
周りの客もさすがに只ならぬ雰囲気を察知したのか静かになるし!
「だ、大丈夫ですか!?」
まさか花崎歌に心配される日が来るとはね、できれば一生きてほしくなかった。私が誰なのかは気付いていない様子だけど。
なんせこんな状況初めてだから、何を言おうか迷っていると、強烈に嫌な視線を感じた。
視線の元を辿ると、不良Aとばっちりと目が合ってしまう。
「あ?なんかお前、どっかで見たことあるような……」
不良Aのその言葉は、花崎歌に向けられたものではないことは分かった。
ああああまずい。
「思い出した。お前は確か」
やめて、やめてやめてやめて。
私はモブキャラでいたい、モブキャラでいなければいけない。
完璧に焦っている私に、神の手なのか悪魔の手なのかよく分からない声が聞こえた。
「花崎?」
静まり返った店内に、響く低い声。
な、え?どういうこと?
今回超展開すぎない?大丈夫なの?
姿を見るまでもなく、声で誰か分かってしまった。
「神村くん……!?」
「ああ?誰だてめぇは」
すでに花崎歌が名指ししているというのに誰だとか聞く不良Aは頭悪いと思います。そういう意味で言ってるんじゃないのはわかってるけどさ。
今私とても現実逃避したい。
なんでこんなとこに神村武蔵がいるの?おかしくない?
どうせなら古城兄弟とか香坂馨とかさぁ、あったでしょ。
「花崎の友達だが」
「おともだちねぇ、だったらいいこと」
「あんたがやったこと見てた。あんまり良くないことだ、謝った方がいい」
「誰が謝るかよ、この花崎って女が調子に」
「制服を見るに、この近くの男子校だな。さすがに学校に連絡とかされたらまずいんじゃないか。確実に学校の生徒が出禁になる」
不良Aの言い訳を遮って続ける。
その行為によって周りの人に迷惑がかかる、という点に絞って。
「……出禁になるのは、嫌だろう?」
締めくくりはそんな言葉。
不良Aじゃなくて、店内にいる不良Aと同じ学校の生徒に向かって。
でもさ、もうこの時点で店から学校に苦情入るよね。明らかに故意でカップを割ってたし。
そしたら出禁とまではいかなくても、それなりの対処はされるのであろう。
こんなガバガバ理論で大丈夫なのか?
結果的にどう転んでも同じな気がするけど、店内にいた男子生徒たちは一斉に不良Aを睨み始める。
「またここも出禁になるのかよ」
「つかアイツって、金魚の糞だったやつだよな」
「そうそう。いつも番長のそばにいた」
おおこわ。いいのかそれで。
番長とかいう時代錯誤な言葉はスルーする方向で。
「なっ……てめぇ覚えてろよ!」
なんつーおきまりの捨て台詞。面白くないから。
不良Aは勢いよく立ちあがり、走って店から出て行った。
いや、店長止めろよって思ったけど店長はどうやら呆然として動けなかったようだ、私と同じ。
神村武蔵も捕まえるかと思いきやそのまま見送り、すぐに花崎歌の方を見た。
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう」
今までの出来事で完全に怯えきった表情をしていた花崎歌だが、知っている人に会えて安心したのかニコリと少しだけ笑う。
ああうん、花崎歌にはその顔が似合うんじゃないかな。
「でもなんでここに?」
「偶然、ここに来ててな。腹壊したみたいでトイレにいたら騒がしくて、出てきたらこうなっていた」
「そうだったんだ。ほんとに助かっちゃった」
「どうということはない。だが思ったより騒ぎになったな。花崎も居づらいだろうし、一緒に帰るか」
「神村くん……ありがとう」
心底安心したように、花崎歌は笑った。そう、その笑顔だよ。
なんか今は妙にこの間抜けな笑顔見ると安心するわ、もしかしたら私も花崎歌に毒されているのかもしれない。
「店員さん、レジお願いしてもいいですか?この席の分も一緒に」
「あ、はい」
神村武蔵に話しかけられ、伝票を二枚差し出される。
なんで自分の分も持ってるのか。
そもそもなんで偶然ここにいるのか?
腑に落ちないまま、伝票を受け取りレジへ向かう。
「払ってくるから花崎は先にでていろ」
「あ、お金……」
「後でいいから」
「……わかったよ」
花崎歌は俯きながらレジを通り過ぎ、店から出て行った。
今更目立ってると気付いて恥ずかしくなったか、本当に今更だわ。
「大変ご迷惑をおかけしました。会計は……」
マニュアル通りに対応する。
お金が出されるまで待つだけ、だったのだけど。
「……そういえば、花崎ははなさきじゃなかった」
……は?
いやどうでもいいからさっさと金出せよ。
「そうなんですか、残念ですね」
「あと、指怪我してる。ちゃんと手当しておけ」
「……ご丁寧にありがとうございます」
なんで声をかけてくるのかな。
っていうか指怪我してるとか自分でも気付かなかった。
自分の指を見ると微かに血が滲んでいるのがわかる。
気づいたら急に痛くなってきた、神村武蔵が指摘しなきゃ気づかないままでいられたのに。
心の中で神村武蔵に悪態をついていると、ようやくお金が出てきたので預かり、さっさとお釣りを渡す。
さあ帰れ帰れ。
「本当分かりやすいな、あんた。じゃあまた学校で」
「…………ありがとうございました」
もう二度と来るなよ。
迷惑だ。
神村武蔵は言いたいことだけ言うと、私に背を向け店から出て行く。
そんな背中を眺めながら思う。
……このバイト、やめよう、って。
そもそも、さっき店長に声かけたのはやめるって言うためだったしね。
きっと、不良Aが私を見たことがあるのは気のせい。そう、だって私は名も無きモブキャラ、そうじゃないと嫌なんだ、絶対に。不良と男子校というワードに嫌な予感がするのも全部全部気のせいだ。
この話おしまい!
さて、花崎歌と不良Aは何を話していたのかな?思い返すと、けっこう大切なこと、聞き逃したみたい?
花崎歌がとても動揺するようなこと、何なんだろう。
ま、しばらくはまた様子見してみますか。




