???イベント1「一緒に下校」
しくじった、と思ったけど、よくよく考えたら花崎歌と愉快な仲間たちとの出会いを全て見ようなんて、無理な話だった。
神村武蔵の件はまあ仕方ないとして、花崎歌と古城兄弟との出会いは憶測でしか語れないし、なぜ花崎歌が家族とではなく、古城家と住んでいるのかは私には分からない。
私は自分で言うのも何だが、万能な方だしほとんどのことはそつなくこなす。けど全てを知っているわけではない。
故に、前回のような予想外なことは起こりうる。これからも。
……さて、なぜ私がこんな前フリをしておくかと言いますと。
理由は今私の目の前で起こっていることがまさにそうだから。
「歌センパイ!」
ニッコリと、花崎歌に負けていないというかむしろ花崎歌の方が負けている、そんなような笑顔で、主人公の名前を呼ぶ美少年がひとり。
私の中のデータにはいない。
だけど、美少年、と呼ぶくらいだからそんな彼も例に漏れず花崎歌の攻略できるキャラクターなんだろうと思う。
光が透き通るような金色の髪に、ぱっちりとした二重、宝石のような碧眼、フランス人形のような顔の造形。
これは確実に海外の血が混ざっている、間違いない。
……今まで出会ってきた攻略キャラの中でもかなりキラキラ王子様オーラ溢れる男の子。惜しいところは、年齢が低いところか?
ああ、挨拶が遅れました。
わたくし、今日も今日とてモブキャラに励んでいる、女子生徒Zです。
神村武蔵が転校してきてから早数日、その間は特に何も起きなかったので省略。
花崎歌と神村武蔵は無事に会えたのか、廊下ですれ違ったら挨拶するくらいの仲にはなったようだ。
それにしても、まさか二回連続で主人公と攻略キャラとの出会いを見逃すことになるとは。
「わっ、香澄くん?珍しいところで会うね」
どうやらこの美少年は、香澄くん、と言うらしい。
珍しいところ、というのは花崎歌の下校ルートのことか?
それとも、普段は下校時間が合わないから珍しいというのもありえる。
というのも今日は土曜日で、ほとんどの学校は午前で授業が終わりのはずだから。
香澄くんとやらは、花崎歌の通っている高校のそばにある私立中学の制服を着ていたからだ。
うーん、さすがに中学生はノーマークだったわ、私もまだまだモブキャラ力が足りていない証拠だな。
「今日は学校が午前だけだから、歌センパイの学校と終わる時間が同じくらいなんじゃないかなっ。あと部活もないし」
「部活?そういえば香澄くんって何の部活に入っているの?」
「料理部!甘いお菓子、たくさん食べられるからね!」
へぇ。
料理部、文化系男子。そして甘党。花崎歌と出会う男たちは割と運動部より文化部の方が多いな。花崎歌自身、帰宅部だし。
……なぜこんな会話がクリアに、香澄とやらの見た目も詳細に語られるかって?ははは、視力も聴力もきっと人並みはずれて良いからだよ、そうに違いない。
まあ、さすがに花崎歌たちや、他のモブキャラに見つかったら面倒なので建物の影とかにかくれながら見てるけども。
いいじゃないそんなこと、些細な問題よ。
「ふふ、香澄くんらしいね」
「そうかな?歌センパイの高校にも料理部ある?」
「あるよ」
「いいなぁー、僕も高校生になりたい。できることも増えるし。それにあと三年早く生まれてれば歌センパイと同じクラスになれたかもしれないのに」
「アリス先生もいるしね」
……ん?
アリス先生、というのは保健室の先生の白川アリスのことか?
皆さんお忘れかもしれない、あの金髪碧眼で胸がでかい先生のこと。
そういえば、香澄くんとやらの見た目も白川アリス先生に酷似しているような気が。
「初めて会った時はびっくりしちゃった、アリス先生に似てるから」
「だよねー、僕も思うもん。お母さんより叔母さんとの方が似てるって。あとお父さんがフランス人ってのもあるかも」
???
ああ、うん、白川アリス先生とこの美少年がおば甥っ子という関係は分かったけど、なにやらやっぱり外国の血を継いでいることも分かったんだけど。
「香澄くんはいろんな国の血が混ざってるんだね、すごい」
「えー、別に僕はなにもしてないよ。うまれた時からそうだし。お母さんもハーフだから、そう思うのかもしれないけどね」
そういうこと、そりゃ随分と国際的な家系図だ。
名前が香澄で、これが本名だとするのなら、香澄の祖父は日本人で祖母は金髪碧眼の国の人ってことなのか。
はーすごい。で、白川アリス先生は外国の血を濃く受け継いで、香澄の母親はあの言い草だと日本よりなのかな?
うーん、なかなかに複雑。
「そんなことより、せっかく会えたんだから一緒に帰ろうよ!家近いし、ね?」
ご近所さんなのね、なるほど。それなら古城兄弟とも知り合いなのかもしれない。
この二人はいつ会ったのかは定かではないけど、会話の様子だと白川アリス先生と出会った後に会っていそうだから、大体九月の中旬から下旬くらい、なのだろう。
「そうだな……」
ここで選択肢、とても分かりやすい。
帰る
帰らない
「一緒に帰ろっか」
まあ、だよね。
断らないよね、この状況で。断ったらどんだけ全力でフラグ折りにきてるんだって話だし。
「やったぁ!あのね、今日は学校で……」
香澄は花崎歌にキラキラなスクールライフの話をしながら歩き始める。
ラブレターをもらっただの、小テストで良い点がとれただの、体育で先生に褒められた、とか。
あれだ、文武両道ってやつ?その可愛らしい見た目で勉強もスポーツも得意だし料理もできるのか。
中学生にして完璧超人かよ!
と言いたくなる、いや本気で。
神さまはちょっと彼に与えすぎじゃあないか?
「香澄くんは本当にすごいね」
「えへへ、そうかな?褒められると嬉しいな」
そしてあざとい。
この天使のような見た目で文武両道キャラってのはちょっと珍しい、かもしれない。
でも本当に惜しいな、まだ幼いし、身長も花崎歌より数センチほど小さく見える。数年後がとても楽しみ。
……その後、結局最後まで後を尾けて、香澄の家の場所を把握。古城家から歩いて一分ほどのこじんまりとした一軒家だった。
そして何回か見たが、相変わらず古城家はそれはもう立派な豪邸。ここは都会か田舎か問われると、どちらかというと都会な方なのに。
羨ましいなんて感情は、とうの昔に忘れてしまったが、世の中の不平等さを感じる。
ああでも、お金持ちはお金持ち、イケメンはイケメンで、それはそれで別の大変さがあるのかもしれないけどさ。
さてさて、これで登場人物は揃ったかな、これ以上増えるのならもう追いきれなくなりそうだからやめてもらいたい。
出会った順だと、
古城兄弟、長谷良太、藍先生、香坂馨、香澄、神村武蔵の七人か。
もし女友達ルートとかあるなら、池山瑞穂さんもか。
花崎歌は一体誰を選ぶのか?
役者が揃ってきて、私の暇潰しも楽しくなってきたな。
私もモブキャラさに磨きをかけて、これからを挑んでいくとしよう。




