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第一話

 「火っていうのは、ものなんだろうか?」



 と、問いかけられている俺の名前はクラフトン。

 大陸北方の「学院」に通う学生で、いわゆる義務教育というやつを受けさせられている。

 ここは空き教室。授業後に少しのんびりしているところだ。


 で、俺がいま話している灰色のローブを着た顔色の悪い男がウェスハウザ。

 俺はいつもウェスと呼んでいる。

 いつもなんだかよくわからないことを考えていて、よくわからない質問をしてくる。



 「ものの定義にもよるけど、ものじゃないだろ。

  火はものの状態だろ? ものが燃える、って言うし」


 「そうか、そうかもしれない」



 ふむふむ、とまた黙り込む。

 何かを考え込んでいるような静寂。


 目の焦点が微妙にあってない。


 と、ぱっと顔を上げる。

 あいかわらずこいつこえーな。



 「ということは、水とか空や油や木がもので、そういうものの状態が火なんだろうか?」 


 「そういっただろ!

  でもまあ、水とか油は液体。木は固体。授業でならっただろ。

  空はまあ…広がってるかんじのやつだけど、液体でも固体でもないから、ものではないだろ」


 「そうすると、ものは液体か固体なのか?」


 「あと気体な」



 こいつは本当に授業を受けているんだろうか。

 理化学のエドワード先生がブチ切れそうだけど。



 「そうすると、火は固体でも液体でも気体でもなくて、それらの状態だから、ものではないだろうか?」


 「そういってるって! そうだと思うよ」



 「じゃあ空はどうなんだろう?」


 「空…空は……こっちが見ていると部分の大気をそう呼んでるだけだろ?

  こっちが勝手に名前をつけてるだけだ」



 「名前をつけてるといえば、木だって草だって火だってそうではないのか?」


 「いや、今はものかどうかの話だろ?

  うーん。「そのたびに見えている空気の拡がり」のことを空って言うんじゃない?

  だから、ごめん。空ってものかもしれない」


 「そうか、そうすると、空が燃えるということもありうるんだな」


 

うーん?



 「空が燃える……?」



考えたことがなかった。



 「それはなんとなく違う気がする。

  なんでだろ?」


 「うーむ……」



ウェスも頭を抱えている。

思いついた。


 「ものはほら、燃えるとなくなっちゃうだろ?

  でも空はなくならない気がするからかな」


 「じゃあ空は空気の集まりでは定義できないのかもしれないな

  ではなぜ無理なのだろう?」


 「うーん…。

  この前の理化学の授業でならった言い方だと、気体の集まりだと思うんだけどなあ」


 「気体とか固体って、ああ、わかった。小さなものがたくさん結びついて複雑な違うものが生まれるって考え方だろう?」


おまえ、知ってたなら説明させるなよ……。


 「そうすると、空は本当には無いということになるのかな。

  そういう小さなものが結びついた色々な在り方が、私たちに偶々ひとかたまりとして見出されるから、空と一つの名前で言われる、というだけで」


 「そうじゃないのか?

  俺がペンだと思ってたものが鉛筆だったりすることがあるし、いい奴だと思ってたやつが悪い奴だったこともあるし、空だと思ってたものがペンキが塗られた天井だってことだってないとはいえないだろ。

  理解なんて主観的なもんだよ」



そう考えると、まあそうだよな。

当たり前の話だけど。

しかし、ウェスはどこかひっかかっていたようだ。



 「主観的、ね」



と、夕刻の鐘が鳴り響いた。



 「おっと、もうこんな時間か。この話の続きはまた今度な。俺もう帰らなきゃ」



 「ああ、帰り道には気をつけてな」




こうして、俺とウェスの雑談話は、いつものように結論の出ないまま、ひと段落したのだった。


オチのない感じで恐縮です。

なにかグラフトンやウェスに対してもご意見があったら感想欄に書いて頂けたら反映するかもしれません。

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