01 憑依
背中に、真冬のコンクリートの床が冷たい。
〝女〟がゆっくり目を開くと、視線の先には病室の白い天井があった。
目の端に見えている窓にはカーテンも無く、採光の為だけにある細長い嵌め殺しの窓がひとつ。
反対側の壁には人が出入りする為の扉はある。
あるが、外から施錠されていて勝手に出入りする事は出来ない。
異様な空間。
家具も何も無い部屋。
天井と壁と床だけ。
病室なのに、患者が横たわる為のベッドも無い。
そこは特殊病棟の隔離病室だった。
部屋の床には排泄用の衛生陶器がひとつ、床に直接備え付けられている。
衛生陶器はあっても、そこで用を足した後に拭き取る紙さえ置いていない。
理由は、
〝ヘタをすると、紙を丸呑みして喉に詰まらせ、死んでしまうから〟
部屋に何もないのは、そこに入れられる人間が自傷しない為。
その、何も無い部屋の真ん中で、〝女〟がだらっと仰向けに転がっている。
痩せ細った体はごつごつと骨ばっていて、皮一枚を被せただけの骨盤から伸びる背骨のパーツひとつひとつが直接床に当たって痛い。
〝落ち着いて体を横たえている〟とは到底言えない。
〝女〟は軋む体で一度、深呼吸をする。
膨らんだ肺の動きに合わせてアバラも広がり、ギシリと痛む。
痛みに、微かに舌打ちが毀れた。
ゆっくり上半身を起こす。
伸び放題に伸びただけの荒れた長い髪が、ざらっと肩から胸元へ落ちる。
拘束はされていないが、〝女〟は素肌に薄い病衣を一枚羽織っているだけだった。
病衣の袖から、細くて薄青白い痩せた腕が伸びていた。
視界にある、裾から投げ出している足も同じような物だった。
〝眼〟が見るものを一通り確認した。
息を吸って体の状態を確かめると、相当な傷み具合でギシギシと軋む。
長くこの病室で過ごしたらしい体は、生気もなく痩せ細り、もう一押しで生命維持の為の無自覚反応も消えてしまう所だった。
二、三度深く深呼吸をして、ある程度、体の状態を〝回復〟させる。
骨ばった体が、全体的にじわりと丸みを帯び、バサバサとしてくすんでいた長い髪が艶やかな黒髪へと変わる。
先程まで頭蓋骨に皮を被せたような様子だった顔も、別人のように健康的な状態に変わり、〝女〟が意外にも容姿に恵まれていた事が判るまでに回復した。
一通り肉体の回復を終えて、一仕事終えた〝女〟のふっくらした唇から、ふぅっと溜め息が漏れる。
そして、〝女〟の体に宿ったモノが〝女〟の口で呟く。
「ま、仮の器なんぞ、こんなもんで十分だな。」
〝精霊〟は立ち上がった。