凄く可愛い栗毛のポニーテール マロニア
栗毛の強い馬って、映えますよね。グラスワンダーとか好きでした。
「ねえ、お姉ちゃん。さっき何か聞こえなかったかな?」
馬上で栗色の美しいポニーテールを揺らしながら、少女は姉に声をかけた。
「うん?いや、私には、なにも聞こえなかったが、空耳じゃないのか?」
姉と呼ばれた燃えるような赤髪セミロングの目付きが鋭い少女は、妹に対して振り返りもせずにこう答えた。
「うーん。助けを呼ぶような声だったと思うの。ねえ、ちょっと確かめてきてもいいかな?」
「駄目だ。時間ギリギリだし。第一ほんとに聞こえたのかどうかも怪しいのだろう?下手をすると盗賊の罠という可能性もある。許可できん。」
「でも、本当に助けを求める人だったらどうするの?!お姉ちゃん!やっぱり確めてくるの。」
「おい、待て、戻れ、マロニア!…マロニー!!」
馬群から、栗毛の馬が一頭左に大きく旋回した後、来た道を逆走していった。
僅かに聞こえた助けを求める声に答えるために。背には栗毛のポニテールの少女を乗せて。
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夢を見ていた。はじめて競馬を見た日の夢だ。
たしか叔父さんの結婚式があってその帰り家に集まった、親戚のおっさん達が二次会までの暇潰しにTVを見ていて、そのときに競馬をやっていたのだ。
当時、小学5年生だった俺にチャンネル権を主張出来るはずもなく、仕方なくぼんやりと眺めていた。
そこで、子供ながらに自分で何となく予想をした。もちろん競馬新聞などないので適当に選んだ。
レースが始まると、その馬はスタートで出遅れた。
親戚のおっさんは、笑って「たいした予想家だな坊主。」とかいって、ニヤニヤしていた。
しかし、レースが勝負所の残り600m地点で、外から距離ロスをかえりみず、俺の本命馬は、ポジションを上げていった。
直線コースに入り、残りは400mで前との差6馬身。インコースでは、先に抜け出した馬を一番人気の馬が捕らえるべくスパート体制に入っていた。
TVから流れる映像に実況が、加わり興奮を伝えていた。
「逃げ込みを図るノースファンタジー、しかし、これをマークするかのように一番人気アドマイヤス右鞭が入って加速体制、差は二馬身、二頭が後続を引き離していく!」
俺の本命馬だけが後続集団を飲み込み三番手に上がろうとしていたのを実況は、見落としたのだろうか。カメラも抜け出した二頭をクローズアップする視点に切り替わった。
「さぁ、二頭のマッチレースか‼差は一馬身、ノースファンタジーねばる、この馬はそう簡単バテないぞ。ちょっとアドマイヤス、外にヨレたか?!苦しいのか?しかし、ようやく馬体を並べ、叩き合いに持ち込んだ。さぁどっちだ。」
前の二頭は、死力を尽くしてゴールを目指している。並びあった競走馬は、闘争本能を全開にしてどちらが優れた存在なのかを、白黒つけるため自分の力のを振り絞っている。
俺はその二頭の競り合いに心奪われ、自分の本命馬のことを本のひととき忘却していた。だが、TVの画面端に映った一頭の栗毛の馬が、画面の中心に向かって伸びているのを、見つけた途端に、俺は思わず声をあげていた。
「きたよ!ほらあの馬だ!」
親戚のおっさんたちも、息を飲んで様子を見ている。
「ノースファンタジー!アドマイヤス‼残りは100m、なんと、外から一気に出遅れたネクサスドリームが飛んできている。二頭を捕らえる勢いだ!さぁここに来て三つ巴、ゴール前三頭の争い。残りは50m!ノースファンタジー!アドマイヤス!ネクサスドリーム!」
ネクサスドリームは、矢のように伸び、インコースで競り合い二頭を嘲笑うかのように、並ぶ間もなく交わし先頭に出た。そして、その地点こそがレースの結晶とも言える決勝地点、すなわちゴール板だった。
「交わした!ネクサスドリーム大金星です。鞍上喜びの、ガッツポースです。見事、素晴らしい切れ味。勝ち時計1分59秒7、上がり3Fは…………」
「やった。勝った!勝ったよ!」
俺はおっさん達に勝ち誇った。満面のドヤ顔だった。
「いや、参ったぞ坊主」
「出遅れて、あの競馬は、なかなか見れんな。」
「よし、乾杯だ。」
「ちょっと、俺はまだ未成年だって!」
「そうか、そうか、それじゃ頭から飲ませてやんよ。」
ドバドバとビールが頭からかけられる。ちょなにするヤメレ!
「「目を覚まして!」」
「はっは!上手いかボーズ、おかわりいるか?」
答えてもないのに、二本目のビールが、頭からかけられる。いくら未成年だからってこんなアルコールの匂いをつけたら…って、あれ?匂いがしないぞ?
「「しっかりしなさい。」」
(なんだろう誰かに揺すられている気がする。)
俺はふと、TVに目を向ける。そこには勝利馬の後ろ姿が映し出されていた。栗毛の美しい馬は、その尻尾もまたとても美しかった。
俺は見とれてしまっていた。まるで催眠術に掛かったかのように、ユラユラ揺れる栗毛の尻尾を見ていた。
ゆらゆら、ゆらゆら、ゆららるら、ゆりゆりら、ゆららんら。
「「どうしよう。お姉ちゃん。目を覚まさないよ。この人。」」
「「退いてなマロニー、こういうとき男の目を覚まさすんには、こうすんのがいいと、相場は決まってんのさ。せーの。」」
次の瞬間、俺は目を覚ました。俺にかけらていたのはビールではなく、有難いことに水だったのだが、覚醒と同時に身体を駆け巡る激痛に耐えることに必死で、その事に気がつくためには、少し時間が必要だった。
今回のレースシーンは特にモデルなしで書いたつもりですが、結果からして、2001年の大阪杯のテイストになりました。勝ち馬にドリームがついているのは偶然です。
オペラオーの連勝ストップは、当時ショックだったなぁ。