サラマンダー…速くなーい。
逃げ出した俺をたくさんの追っ手が追いかけてきたが、やつらのほとんどは、重装備で俺は難なくふりきることができた。この身体は持久力も強化されたようで、息もなかなか切れない。
だが、出口がわからない事が致命的だった。気づくと同じようなところをぐるぐるしているようで、進んでいる気がまるでしない。突然召喚されたわけでこの建物が何階建てかすら分からないのだ。
そうしているうちに、追っ手でかなり足の速いやつが現れた。装備も軽装だった。差が詰められている。さすがにじわじわ疲労も感じて来た頃合いだ。
このままでは、捕まってしまうかもしれない。
くそ、どうすればいい。
思考を回転させながら俺は逃げに逃げる。
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その頃、建物の外に馬が一頭、俯く青年に引かれていた。
まだ、生まれて一年半程度の若い牡馬で、漆黒の馬体である。
門のところで衛兵が青年を呼び止めた。
「おい、お前、王宮に何のようだ。」
「へい、実は税金の督促が来ておりやして、ただ、あっしには金がないのでこの馬をお納め頂こうと思いましてね。この子は、将来いい競走馬になりますよ。」
「おいおい、金の納入なら役所にいけ、ここは王宮だ。だいたい、現物納付はダメだ。先ずは市に馬をつれていき、現金に変えてから納めるのだ。」
「それが、こいつ一度売りに出したのですが買い手がつきませんでしてのです。芝200mを試しに走らせたら14秒かかりましてね。これでは話にならんと。だから競走用ではなく、軍馬としてご活用願えればとおもったんです。父がサラマンダー系の血筋ですから、パワーがあるはずです。」
「サラマンダー系なら、確かに使い道はあるかもしれないが、毛色が赤みがない黒色だ。たてがみも同様だし、とてもサラマンダー系の特徴があるとは思えない。駄目だ、駄目だ!使いもんにならん。肉屋にでも連れていくのだな。」
「馬の肉など、二束三文にしかならないではないですか、なんとかお願いしますよ。」
青年は懇願し、衛兵に詰め寄った。
「えい、しつこいぞ、この場で税滞納の罪で、牢屋にぶちこまれたいのか。」
衛兵は青年を突飛ばし、槍を構えて威嚇した。
すると。、その動作に怯えた馬は驚き暴れだした。馬という生き物は臆病で繊細なものである。ただでさえ見知らぬ土地でストレスがたまっていたのに加えてこのような、暴力的な場面に直面したとあっては、驚いて、暴走しても当然のことだろう。
まして、パワーと根性、その裏返しとして、気性の荒さで知られるサラマンダー系の馬なら尚更である。
馬は門番を突飛ばし、王宮内に侵入した。完全な暴走状態であり、てがつけられなかった。そして、扉の空いていた建物に突っ込んでしまった。その建物の入り口の看板には、こう書かれていた。
王立魔法研究所召喚術研究棟