おお!勇者よ!死んでしまうとは、どうしよう…
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ようやく白い光りが、薄くなり、自分の視界を取り戻すまでにどれくらいの時間がかかっただろうか。
その間に俺の意識は、夢を見ている時のように、自分のものであることは間違いないのだが、何処か不自由な不思議な感覚を味わっていた。
先ほどまで、大興奮で競馬観戦をしていたはずなのに、一体何が起こったというのだろう。
徹夜明けの睡眠から目覚めた気分で、頭を押さえながら、なんとか現状を把握しようと努める。
すると、初老の男性の声が聞こえてきた。
「おお、勇者よ!よくぞ異世界のゲートをくぐり、わが呼び掛けに答えたもうた。」
男は、RPGでいうところの召喚士というような格好で、先端に、赤い宝石をがついている錫杖と、並みのコスプレイヤーでは、用意できないような絹の複雑な模様をしたローブを着ていた。
そして彼の足元には、いわゆる魔方陣というやつだろうか、星を円形で包んだ模様とら見たこともない文字が、円周にびっちりと書きこまれていた。
もしかするとと、頭をよぎった。最近はご無沙汰だが、俺も昔はこの手のゲームはよくプレイしたし、中二病(自己診断)を患って、自分が異世界を冒険する妄想をしたこともある。予防接種済みである。
既に現実ではあり得ない体験もしたことだし、きっとそういうことなんだろうと、割りきる。ここは早めに現状を認識すべきだ。
俺は目の前にいる召喚士が何かを言おうとしているのをさえぎり尋ねた。
「俺はあんたに召喚されたってことでいいのかな。で、世界を救うため魔王かなんかを倒せってこと?」
「おお、さすが勇者殿、御理解が早くてたすかりますぞ。」
召喚士は笑いながら答えた。まずは、言語が通じることに安堵した俺は、それから数分間幾つかの問答をした後、逃げ出すことを決意した。ん?何故かって、要点だけ説明すると次の通りだ。
召喚を行ったのは、魔王が出現したためである。
この世界は各国間の平和、安定が保たれており、国家としての武力レベルはお粗末なものである。
召喚された人間には肉体が全盛期の状態となり、運動能力に多少の補正がつく。
今まで何度か召喚された者がいる。
戻って来たものはいない。
死んだら、「おお勇者よ死んでしまうとは、ああ…どうしよう。」となる。
つまりは、国家の支援は期待できない。運動能力微増。死に戻りなしのですゲームです。ときた。なにそれ?クソゲーじゃん。
この条件では、クリアは不可能だと判断した。俺はこんな条件で生き残れるとは思わない。ただの人間が異世界に来て世界を救えるわけないだろう。現代日本とか戦争に一番縁遠い国から勇者を求めんなよ。
俺は隙を見つけて逃げ出した。
運動能力は確かに上がっているようで身体はすこぶる軽い。
部屋の出口を塞ごうとする兵士がいたが、タックルでなんとか突破できた。廊下に出て建物から脱出するべく、全力で駆け出した。
ミッション1
取り敢えず建物から脱出せよ。
ってやつだな。
三連休でどこまでかけるかな。