ユニークスキル 神の相馬眼
「それは…また随分と懐かしい名前ですね。大好きな馬でしたよ。レース中に名前を呼ぶほどにはね」
俺はリアルタイムでは観ていなかったが1990年の有馬記念の出来事だったかな。
「じゃあ、あんたやっぱり。あの…」
「いや、あなたの知っている私はもう故人です。間違いなく私は一度死んだのでしょうな。そして何故かはわからないがこの世界に記憶を持ち越して生まれ変わった。若い人向けにいうと異世界に転生したようですな。もっとも前世の意識がはっきりしたのはここ数年のことですがね。ですから、今の私は貴方の知る私ではありません。今はビッグリバーと名乗って各地の競馬を巡っています。けれど、神様、神様と呼ばれてしまってあまり、この名は浸透しないんですがね。」
○川さんの説明はそのように説明した。
なんと、びっくりもいいところだ。まぁ異世界召喚がありなら、異世界転生もあるのだろう。
っていうか、ビッグリバーはないだろう。それ、まんまじゃん。
「あなたは、現代日本から来たのですか。」
「ええ、確かあの世界で、あなたが亡くなったのは1999年の12月でしたね。」
「そうです。有馬記念を見れなかったことが心残りでした。何が勝ったんですか。」
「グラスです。スペシャルとはハナ差の名勝負でした。3着テイエム、次がツルマル、5着はライアン産駒のブライトが来ました。」
俺はそれからしばらく大○さん、いや、ビッグリバーさんと競馬談義を交わした。いや、やはり敬意を表して神様と以下呼称する。
談義といっても1999年以降の競馬について俺が説明したという感じた。
2000年はテイエムオペラオーの古馬|中長距離完全制覇≪グランドスラム≫
翌年のダービーにおける豊の意地と河内の夢を乗せたアグネスフライトとエアシャカールの一騎討ち
さらに翌年の光速の粒子アグネスタキオン、怪物クロフネ、カメラ目線のジャングルポケットの三強
シルバーコレクターだったステイゴールドの香港での羽根が生えたような末脚による引退レース海外G1制覇
などから始まり
シンボリクリスエスの有馬記念圧勝。(しかも連覇)
キングカメハメハ≪府中の大王≫の変則二冠(NHKマイルカップとダービー)
ディープインパクト≪英雄≫の三冠と海外遠征
クリフジ依頼となる牝馬のダービー馬ウオッカ、そのライバルの逃げて後半3F33秒台のダイワスカーレット
その後を継ぐかのように現れた女王ブエナビスタ
ドバイワールドカップを勝ったヴィクトワールピサ
そしてオルフェーヴルの三冠に達成と阪神大賞典の暴走。
俺はは自分が見た名馬や伝説と呼ばれるほどのレースについて神様に教えた。
もっと他の馬の話や、掘り下げた話をしたかったのだが。それをやるといくら時間があっても足りないのが残念だ。
それにどうしたって臨場感に欠ける。やはり競馬実際にレースを見ないことにはその魅力を十分に伝えきるのは困難である。
それでも神様は眼を細め、自分が見ることの叶わなかった21世紀の競馬に思いを馳せているようだった。そして、しばらくするとついには泣き出した。
あわててマロニーが駆け寄り心配そうな声で気遣った。
「おじいちゃん!?どうしたの大丈夫?」
そういって黄色いハンカチーフを差し出すマロニー、こう言うとき男の俺は対応が遅れる。不器用なのだろうか。
「いいや、大丈夫、大丈夫ですよ。実際に見てみたかったなと思ったら年甲斐もなく涙が出てしまいましたね。いやいや、お恥ずかしい。」
そこで神様は俺に向かって頭を下げたきた。
「マユキさん。有り難うございます。貴方のお陰で楽しい時間を過ごせましたし、気になっていたレースの結果も知ることができました。」
「そんな、やめてください。俺はただ競馬の話ををしただけですし…」
「いえいえ、これでもう思い残すことはありません。いつ天に召されても文句はありません。」
神様の体から、急に力が抜けていくように、まるでもう、ゴールしてもいいよねと言わんばかりだ。
「ちょっと!頼むから目の前で神様が仏さんなるのだけは勘弁してくださいよ!」
あかん、まだゴールしたらあかん。
それこそ、神も仏もない話になってしまう。
「そうだよ。お爺ちゃん。長生きしなきゃ!私も騎手だから一人でも多く自分の騎乗をみてもらいたいよ!一杯いいレースをみせてあげるんだから。」
「がっははは、そう簡単にくたばるわけにはいかなくなったな神様よ。」
マスターも豪快に笑いながら神様に声をかける。
「ふっふっ、流石に今日、明日では天国からも除外されてしまうでしょうからな。どうもありがとうございます。そうだ、お礼といってはなんですが、あなた方二人に私のとっておきのおまじないをかけてあげましょう。」
「とっておきのおまじない?」
俺が聞き返すと神様は俺の前に右手の人差し指をつきだし、マロニーの前に左手のつきだした。そしてそれぞれの指でくるくると円を描きながら何やら詠唱を始めた。
「光は走り、音は踊る。雷は渡り、風は泳ぐ。われが願うは伝達。か弱き指に導きにより彼のものに我が血と肉の一部を譲らん。ライアン!」
詠唱が完了し、神様の二本の指先から淡い光が発生し、それは直進して俺の右目と左目に宿った。
しかし、俺とマロニーには特に変化はない、光も一瞬で流れ星のようにあにっという間に消えた。祈る暇さえなかった。
痛みもないし疼いたりもしない。石になったり、急に神様に惚れたりするわけでもない。
「目が、目が~」と、のたうち回るわけでもない。
マロニーも、首をかしげている。
「神様、一体俺たちに何をしたんだ?」
「神の相馬眼の譲渡、言うならばユニークスキルの継承ですかね。」
転生とかユニークスキルとか、この神様、異世界に順応しすぎじゃね?




