ほぼイキかけてからのゴッド降臨
「となり、座ってもいいかな。」俺は食堂にいるマロニーに話しかけた。前回の選択肢1を選んだ結果だ。
ありきたりと思うだろうか。いや冷静に考えて、リザレッタやミーアは色々忙しそうだし、ライザと男の友情を深めるのも悪くはないが、それは別に今度でもいいだろうと判断した結果である。
不正はなかった。
「あっ、マユキ君!大丈夫空いてるよ。どうぞ~どうぞ。」 宿屋の酒場兼食堂のカウンターに俺はマロニーに隣合って座った。
まだ彼女の前に料理は運ばれておらず、彼女の目の前には水の入ったコップが汗をかいているだけだった。
もうすぐ食事にありつけるのがよっぽどうれしいのだろうか?「ごはん♪ごはん♪」とやや調子の外れた妙な鼻歌を歌いながら上機嫌で待っている。
「マロニーは何を注文したんだ。」
「うんとね。サララ亭マスターおすすめ!砂漠定食ってやつ。」
「…とても斬新なネーミングだな。なにがでてくるんだ?。」
「私も全然わかんないから、さっき聞いてみたんだけど、マスターさんったら、出てきてからのお楽しみ。とかいってちっとも教えてくれないんだよ。」
マロニーがややむくれながら、じっーとマスターの方を見た。
「がっははは、大丈夫、味は常連さんからのお墨付きだ。損はさせねえよ。お嬢ちゃん。」
マスターは見た目はドワーフというような感じで背が低く顔が大きい。(あくまで人間だ。この世界で亜人はまだ見ていない。)
だが酒場のマスターらしい。実に陽気そうな、おじさんと初老の中間といったような人物だった。
そのとき厨房から料理を乗せたトレイを給仕の女性が持って出てきた。
「おっと、ちょうど、できたようだな。はいよ。我がサララ亭名物マスター砂漠定食だ。とくとご賞味あれ。」
出来たての料理にのみ許された湯気。食欲を刺激する香り、そして鉄板の上で未だ鳴り続ける肉の焼ける音。食を待つ者が悩殺される要素がこれでもかてんこ盛りになり、マロニーの前に差しだされた。
しかも、盛りつけにもこだわりを感じる。まず砂漠を模したカレーピラフ。所々にグリンピースが散りばめられているが、これはサボテンを表現しているのだろうか。
そして肉が砂丘のように盛り上がっている。マスターに聞くと砂漠ウサギという動物の肉だそうだ。付け合わせには王道のポテトに食用サボテンのバターソテー。これは確かに看板メニューにするだけはある。 横をみるとマロニーの右目は星に、左目はハートになっていた。
「わぁ、おいしそう。いただきまふ。」
よほど我慢できなかったのか。マロニーさん。おいそうといった時点でスプーンを装備し、いただきますをいい終わる前には、ピラフを口に放り込んだ。
攻撃ならぬ口撃である。 そして次の瞬間に彼女の口内はクリティカルヒットをたたき込まれた。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~おいひぃ。なにこれ、こんなの初めてだよ~~~~~~~~~~~」
いま彼女は、三大欲求である食欲を満たすようで極上の快楽を文字通り味わっていた。
ちょっとビクンビクンって痙攣している。
大丈夫かこれ(R指定的な意味で)いや問題ない。
だって彼女は食事をしているだけだ。問題ない。あえてもう一度いおう問題はない。いいね。
といいつつも放ってはおけない。彼女があげた突然の声に周りの客は酒を飲む手を休め何事かと注目した。
賑やかだった空間になんともいえない静寂が訪れる。 「えっと。マロニーさん。だ、大丈夫?」
俺はどこかに連れていかれてしまった彼女を現実に引き戻すために(思わずさんづけで)おそるおそる声をかけた。
「はっ。私たら、つい、やだどうしよう恥ずかしい。」 見る見る間にマロニーの顔が羞恥により、熟した林檎のように紅く染まってく。
「がっははは、いやそれだけ喜んでもらえるとうれしいよ。いや~実に気分がいい。よし、お客の皆さん。次の一杯は店からのおごりだ。口を開けてぽかんとしてないで注文してくれ。」
マスターがそういうと一拍おいた後に
「よ、マスター太っ腹!」
「さすが気前がいいね~」
「いぇい~禿げ親父最高!」と周りの客が声をあげた。
マスタ-は最後の客にだけ「わしはまだ禿げておらん!」と声高に主張した。
だが、このやりとりによってマロニーに集まっていた視点はなんとか無事に解除されたようだった。
年頃の女の子の痴態は特に問題とならなかったようだ。
(いや、食事をしていただけなのだけど。)
(しかしやるな。マスター。客商売をしている人は空気を読むのが上手いもんだ。)
おれは心の中で感嘆していると、マロニーも自分が助け船を出してもらったのが分かっているようでマスターにお礼をいっていた。
「すみませんでした。ありがとうございます。」
「がっははは、いいってことよ。お嬢ちゃんの食べっぷりに免じてな。けども、さっきみたいな声を出すのは彼氏と一緒の夜だけにしときなよ。」
マロニーは言われた意味がわからないのか、スプーンをくわえながら、頭に??を浮かべていた。
おい!マスターてめー空気を読めよ!この野郎!
「マ、マロニー料理が冷めるぞ。早く食べた方がいいよ。」
「ん。うん。そうだね。」
そういってマロニーは食事を再開した。実に豪快な食べっぷりで皿の上の領土を侵略していく。
うまくマスターのセクハラ発言を誤魔化し、スルーできたことに安堵して俺は胸をなで下ろした。
満面の笑みを浮かべながら、皿の上の領土の2/3を侵略したマロニーはひとごごちついたのか、一度グラスの水を飲み一呼吸ついてから、俺に話しかけてきた。
「そういえば、マユキ君は何も食べないの。」
「いや、俺ほら、一文無しでさ。」
「ああそうか。言ってくれたら貸してあげたのに、そうだ!あとでミアに言えば当面の資金はギルドから生活資金の貸付を受けられるはずだよ。」
「おお、そうなのか。そりゃありがたい。」
これでとりあえずしばらくの間は飢え死にせずにすみそうだ。
ついでに砂漠用の装備というか服なんかも必要だとおもっていたところだ。
「でも、ごめんね。知らずに私ばっかり横で食べちゃって。そうだ、よければ少しどうぞ。」
「えっ。いいの?」 実は俺はさっきからずっと我慢していた。料理自体の香りや見た目、そしてマロニ-の食べっぷり。そして自分は文無しで食べられないという状況。
これでは飯テロどころの話ではない。もはや戦術兵器でも使われたかのごとく精神的大損耗を強いられていた。
「はい。どうぞ」 そういってマロニーは皿を俺の方に押しやった。俺の目の前に楽園が広がる。
「じゃ、じゃあ。いただきます。」 そういって俺はスプーンを口に運んだ。
直後、空腹で疲弊しきった俺の胃のなかに福音がもたらされた。冗談抜きでこれはうまい。もちろん空腹であることが調味料として機能している部分はあるだろうが、それを差し引いてもこれほどまでとは。
これはマロニーがとんでもない声を上げたのも納得だ。いや逆に言えば言葉もでないほどと形容できるかもしれない。
「これは、とんでもなくうまいな。マスターこんなうまいもん初めてたべたよ。」
「がっははは、お嬢ちゃんに続き兄さんもなかなか口がうまいな。いい宣伝になるよ。」
そういってマスターはうれしそうに笑った。 いやちょっと待てよ。食欲にまかせて、勢いよく口にスプーンを放り込んだけど、これって間接キスなんじゃ。
そう考えた瞬間、次の一口を食べようとした手がピタリと止まった。落ち着け俺、間接キスくらいなんだっていうんだ。たいしたことじゃないさ。
そんな俺の様子を見てマロニーが怪訝そうな顔でこちらをみた。
「あれ、どうしたのマユキ君」
「べ、別に何でもない。何でもないよ。ははは…いやー本当にうまい料理だよな。この砂漠定食。」
「だよね。私も料理するけどどうやったらこんな味を出せるのか不思議だよ。マスターなにか工夫があるの?」
「がっははは、そいつはさすがに企業秘密さ、店を継ぐもの以外には教えるつもりはないな。」
マロニーとマスターがそんなやりとりをしている隙をみて俺はスプーンを口に運び、改めてじっくりと味わった。別に変な意味じゃないんだからね。
俺はお礼を言ってマロニーの方に皿を戻した。マロニーは「もういいの?」と問いかけてきたが、あくまでマロニーの注文したものだ。これ以上もらうのはさすがに気が引けた。
間接キスを意識したわけじゃないぞ。 俺もひとごごちついて、皿がマロニーに完全攻略される様子をなんとなくみていると、突然俺の隣に爺さんが座ってきた。
「よくお食べになりますね。お見事です。さすが紅の気まぐれのマロニーさんですね。」
俺は爺さんがマロニーの名前を出したことに少々驚いた。
「爺さんマロニーのことを知っているのか。」
「ええ、こう見えて私は競馬に関することは大体のことはしっておりますよ。何でもはしりませんが。」
爺さんはしれっと答えた。それにしてもどういうことだろう。パクリっぽい台詞はともかく、なんか俺この爺さんをどこかでみた覚えがある。
しかも一度ではない。街ですれ違ったとかそういうのでは絶対ない。親戚とかにこんな爺さんがいたかな?イヤちょっと違うな。
なんだろう俺だけが一方的に知っているというか、そんな感じだ。
「おっ、あんたもしかして競馬の神様じゃないか。」
マスターが爺さんに酒を出しながら尋ねた。神様?
「私の事をそう呼ぶ人もいるらしいけど、神様というほどなんでもは知りませんよ。競馬について7割程度は知ってるだけでしょう。」
あれ、この人もしかして、あの伝説のお方ではないか。いやまさかそんなはずはない。
「へぇ~お爺さん。すごい人なんだね。競馬の神様って呼ばれてるんだ。」
料理を平らげたマロニーが爺さんに話しかけた。
「がっははは、そうだお嬢ちゃん。競馬の神様って言えば、数年前に突然現れた神懸かった競馬予想家でな。なんでも、一日のレースをすべて馬連複勝式で的中させるパーフェクトを何度か達成しているらしい。いやいやとんでもない話だよ。」
ここまで来るともはや、確定的だろう。黒だろ。俺は意を決して爺さん-競馬の神様に尋ねた。
「爺さん…メジロライアンは好きか?」
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