宿にむけての道すがら
正式にギルドに加入した俺は生まれ変わったような新鮮な気分を味わった。何だろうこの気持ち、異世界なのにもうなにも怖くない。
ゲームだったらこの辺でOPムービーが流れてもいい頃合いだ。まぁ文字ではそんな演出は不可能なのだが。おっとメタいな。
それから俺たちはギルドがこの街の拠点とする宿に向けて移動を開始した。
みんな砂漠を抜けてようやく街に辿り着いたというのに、食事の一つ、水の一杯も飲んでいないのだ。登録所での時間ギリギリの緊張からも解き放たれてリザレッタやマロニーも疲れを感じ始めていた様子だ。
「開催記念祭で紅の代表格達が寝ていては格好がつかないからな、宿でしっかり回復して全開で記念祭に乗り込まねばな。」
リザレッタの鶴の一声で俺たちは登録所を出ててサララの通りに出た。
そうそう、通りに出るとクロやマロニー達の馬の面倒を見てくれていたライザという大学生くらいの青年の仲間を紹介された。
正直「紅の気まぐれ」にも男性がいることがわかってすこし安心した。
男俺一人、他はオール女性というのは結構きついのだ。
別に俺に男色の趣味はない。しかし、知り合いが女性ばかりというのは一見うらやましく見えるだろうが、実際のところは妙な気疲れがする。この感覚は俺だけじゃないよな。ちなみに俺、男子校出身な。
ライザはギルドの副運営部長、つまりはミーアの直属の部下にして補佐を務めている重役だった。
ただ、役職の大きさの割には彼の見た目の印象はは何となく頼りなさそうというか、ぱっとしない感じであった。
特に強調する材料がないというか、いい意味でも悪い意味でも普通というかそんな飲酒王。まぁリザレッタやミーアが異常にカリスマやギャップがあるせいで感覚が麻痺しているのかもしれない。
そんな失礼な事を俺は考えていたのだが
「よろしくお願いします。マユキさん。」
と実に丁寧な挨拶をされたこともあって、なんだがぱっとしないなんて思ってごめんなさいと心の中で謝っておいた。
そうだ。こういう常識的な参謀キャラは地味キャラでもはいつかどこかで「こんなこともあろうかと」といってキーアイテムをくれたり、「一晩でやりましたよ。」といって突貫工事的な作業を平然とやってのけるというのがお約束だ。 軽視すると痛い目にあうぞ。痺れるくらいのな。
なお、ギルドのトップは(マスターという役職名らしい)今回の遠征に参加していない。
「紅の気まぐれ」の本部はサラリアスというここよりも大きい都市にあってそこの本館に詰めているらしい。
リザレッタは、このギルドのエースとのことだ。そしてエースは実際の遠征だとか現場の取り仕切りをやる役職だとか。
運営部長のミーアが事務方のトップ、エースのリザレッタが現場のトップというところか。
宿への移動中にギルドの規約やらこの街で開催されるサララ競馬のこと、この世界の競走馬やレースのことに色々とみんなに教わった。
説明は基本的にミーアが小難しい規約原文により、そのあとすかさずマロニーがわかりやすくかみ砕いて教えてくれた。
こんな感じ。
1 競馬騎手ギルド「紅の気まぐれ」は、志高き騎手の同志による組成をもってなし、その目的は競馬における勝利の追求及び同志の相互互恵を図るものである。
(このギルドはやる気のある騎手が勝利を目指しつつ、仲良くがんばっていこうという目的で作ります。)
2 当ギルド所属騎手は証を宿した者とする。証の取得は本人の真正なる意思をもった署名によって、証の剥奪はギルドの長の承認を必要とする。なお長は離脱に関して真正の意思を示された場合これを拒否してはならない。
(このギルドに所属している人はみんな証をもっています。さっきマユキ君にもできたやつね。本人にやりたい気持ちがあればOK。やめるときは偉い人に言ってね。本気でイヤなら無理矢理ひきとめたりしません。)
3 当ギルド所属騎手においては、当ギルドが獲得した騎乗枠について分配を受ける権利を有する。
希望重複がある場合について一には理性的な話し合いによる調整をもって、二にはギルドの長(これから権限を委任された者を含む。)の判定をもって決する。
なお二の判定に不満があるがある場合は実力を示す機会を与えるよう最大の配慮を行いこれによって決することも可とする。
(ギルドはみんなにレースに騎乗するチャンスをくれます。基本的には、話し合い、揉めたらギルドが決定するよ。それにどうしても不満があるなら対決して決めよう。)
4 騎手がギルドから配分された騎乗枠を用いてレースに勝利し、これにより報酬等を得た場合については、その報酬に年始めのギルド総会において決定した割合を乗じた金額をギルドに納入する。
(報酬の取り分はギルド総会で決めるよ。ちなみに今年は賞金の30%がギルド納入額です。)
5 ギルド限定戦に当ギルド所有馬で出走した場合は前項目と同様に総会で決する。
(ギルド限定戦は賞金の70%がギルド納入額です。)
ギルドは騎乗枠の他に、所属騎手、またはギルドの地位・経済向上に資する事業を行う最大の努力をおこなう。
(騎乗する機会がなくても荷物運搬とか、色々クエストを用意して生活に困らないようにします。)
ギルドについてはこんなところだろうか。
一方でサララ開催競馬についてもだいぶ分かってきた。
開催期間は一ヶ月で20日間レースが開催される。
基本的には一日のレースは午前中に5競走と午後5競走
午前中がギルド所有馬の限定戦、午後が一般馬主所有馬限定戦だという。
この世界ではギルドと所有馬とその他の一般馬主の競走馬というカデゴリがあり、レースも基本は区分されている。
強引に例えればプロ野球のセリーグとパリーグ、国会の衆議院と参議院みたいなもんか。
そして10日目と20日目は例外で特別なレースが施行される。 (ここまで、この世界の一般的な施行形態のようである。)
10日目は午前中にギルド限定サララカップ、午後には一般限定サララカップ
20日目はグランドフィナーレを飾るレースでレースはたった一つ公式レース格付けTクラスのフリー競走サララズトロフィー
このレースが一番の目標だとミーアは言った。
何でも優勝賞金が他のレースより高く、加えて副賞が魅力的なものらしい。
んで馬についてだけど異世界ならではというか、俺の世界と決定的に異なる点がある。
なんとこの世界には競走馬のレース後の疲労を回復させるアイテムや魔法があるということだ。
俺の世界の競馬では競走馬は多くて30戦くらいレースで走って引退する。
現役の期間は2歳後半から6歳くらいまでとしておよそ3年間でだから一年あたり10レースも走れば多い方だろうか。
夏や冬の休養期間を織り込んで一ヶ月に1回くらいレースに出るのが普通だ。
これより短い間隔でレースに出ようと思えば出ることはできる。レースを走った翌週にレースに参戦する「連闘」はあまり多く見かけないが決してないわけではない。
だが故障(馬の怪我のこと。)やその後の疲労による体調悪化を考えれば、一定以上の間隔をとることは必須である。
それがこの世界ではアイテム等による疲労回復が可能なことにより、一週間で数回出走することも十分可能というのだ。
ただ、精神的な疲労はまた別なので、さすがに毎日レースに出るというのは不可能のようだし、開催地のローカルルールでは、アウトなところもあるらしい。
なるほど、これはなかなか一筋縄にいかなそうだ。
「あっ!ここだよ。ここ。」
俺が次の質問をしようと口を開きかけると、それより先にミーアが宿に到着したこと告げたのだった。




