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我輩は騎獣である  作者: KEITA
第八章
96/127

※残酷・非常に不快な描写あり



 それは虚実と、真実と。



 中天近くに差し掛かっていた陽光は、万物に平等に降り注ぐ。

 焼き払われた草地と、黒く焦げた金属床。伏した金髪、古びた衣。それらは今、血溜まりに浸されじわじわと赤く染まってゆく最中であった。

 一体何が起きたのか。突如おとずれた惨状に惑い、混乱しきった人間の声が場に力なく響く。

「お、おい、あんた、しっかりしろ、」

「――」

「おいッ、たのむから……!」

 弱々しい呼びかけ、それに応じることなく金髪から覗く尖耳は徐々に色を失っていく。

 惨々たる光景。長袖に包まれた腕は投げ出され、片方のそれは胴より離れた場所に転がっている。肩から切り離されたそれは断面こそ見えない角度であったが根元から赤にまみれ、仰向けられた手の平も血の気が無い。しかし。

 ひく、と切り離されていない方の腕が動いた。

「ッ」

 それを認めた騎者どのは、瞬きと共に瞳の潤みを払う。蒼白だった若者の表情が、瞬時に医療者のそれへと移り変わった。状況把握はまだ完全ではないが、生きてきた年数と経験の数ならば常人とは段違いの歴戦者である。さすがというか、瞬時に最低限の我を取り戻したのだ。

 彼はこちらを見上げ、ぐいぐいと自分の首元を引く。放せ、と口が動いた。片腕を落とされ倒れ伏している妖精に駆け寄ろうとし、襟首を捕らえたままの我輩に妨害されたからだ。

「おいリョクッお前が治す気無ぇなら俺がやるッ、だから放せ!」

 怒気をはらんだ口調と素振りがこちらを振り払おうとする。無言で拒否を伝えるとぎっと睨みつけてくる。頬に滴ったままの返り血が痛々しい。非常事態にも関わらず(彼からすれば)在らぬ方角を見つめ説明も援護もしない騎獣。騎者として苛立ちが募るのも当然の反応だ。

 だが、我輩としてもこの場は譲れない。衣を咥えたまま、動けない。なぜなら。


「……すばしこい俗物めが」


 やっと、人間の耳でも聴認出来るほどの位置にて。新たな脅威の音が場に届いたからだ。



「!」

 もがくのを止め、騎者どのは声のした方角へと顔を向ける。家屋の在った場所――見通しが悪い浅めの窪地――よりやや離れた山地、その脇道。現れた姿を認め、その正体を視認すると共に緑眼が見張られ瞬時に警戒を帯びる。徐々に、只人の感覚で状況の把握がついてきた様子であった。


 まず視界に入ったのは惨劇を作り出した二本の刃――白銀に輝く短剣。


 それはかのものの手元でぬらりと光る。遠目にも存在感放つその武器。その圧力。言うまでも無く、武器霊具である。ここまで届いたことからして相当な飛距離を持つ投擲物。惨事の証だけではなく、刃じたいが妖しくおぞましい気配を放っていることが遠目からも知れた。恐らくは、過去にそれだけの命を奪ってきたのだろう。

 その不快な目測と共に、角の一部がいっそう熱を帯びた。ばち、ばちりっと周囲に閃光が走るほど放電するそれは、差し迫ったものを我輩に伝えてくる。獣が身で感じ取れるだけの危機を、我が一族が最も忌むべき感情――殺意を。

 それを纏わせた生き物がゆらり、と二本の脚で地を踏みしめ姿を現す。陽炎に揺らめく衣、全容となった長身、特徴的に尖った耳。またエルフかよ、と騎者どのの口が声無く呟く。

 一方の我輩は。陽の光に等しく照らされ、色彩を露わにしたその容に息を呑んでいた。刃よりやや濃い銀の頭髪、切れ長の瞳。そこに収まるかの色は。

 ああ、それはまさしく。

(……なんということだ……!)

 刹那に悟った事実。喉に迫るもので身の内が苦しい。ばちばちばちっと激しく放電する角が熱い。妖精と武器霊具という最凶の組み合わせ、それ以上に差し迫るものが我輩の心身を締め上げた。

 苦嘆と警戒をいよいよ前傾とする我輩の前にて、濁った視線が、声が。


「きじゅう……騎獣が、いる」


 尾と蹄毛が逆立つ。ざわざわと鬣も靡いた。向けられる視線に怖気が走り、掛けられる言葉に拒絶を覚える。かのものが発するすべてが、おぞましい。


「くくく……畜生が、まだ生きているではないか」


 それは、覚えがありすぎるほどにあったから。


「生きているとならば……まだ利用価値がある」


 本日にして、幾度目であろうか。記憶に残る赤の惨劇、それを再三なぞるかのような情景が迫る。濡れ濡れと光る薄い金属、猟奇と退廃に塗り潰され理解が及ばぬ表情。


「なあ……そこの、騎獣よ。せっかく拾った命が惜しくば、」


『ついてこい』


「私に、逆らうな」


 ……この妖精が蒼い瞳を持つなど、なんという運命の悪戯であろうか。




「―――ッ!」

 衣を噛み締めていた口は、動揺の余り緩んでいた。その一瞬を逃さず、すり抜けられる感覚。視界を遮る黒の短髪、二本足のしなやかな身体。我輩の前に躍り出る、人間の若者の後ろ姿。

(騎者どの、)

 我輩が反応するより速く、かの腕は動いていた。ひゅ、とまた風を切る音、それを感じる直前、青年は身を屈め黒髪の位置はやや沈んだ。片脚と片腕を前に、開いた脚を踏みしめて。象牙色の手がその柄を握ったと同時に、鼻先で風圧が巻き起こる。

 腰に帯びた長剣の鞘が、緑の瞳が。宙を向いてきらめいた。

きィんッ

 澄んだ、金属音。抜き放たれた刃は飛来した刃を見事に受け返した。撥ね飛ばされたひとすじの白銀は回転を鈍らせて宙に舞い、ややあって地に落ちる――前に軌道を変え、吸い寄せられるようにかの者の手に戻る。

 遅れて響く、鞘走りの音。


しゃらん――っ


 真夏の暑気と沈殿する殺意を斬り祓うかのような涼しげな音色、凛と光る濁りの無い白銀。そして危険から我輩を護るよう伸ばされた腕と確かな眼差し。

 そうだ、と思い起こす。竦みかけていたものが瞬時に奮い立つ。

 あの時と状況が似ているようで、今はまったく違う。我が脚が動かぬとき、意のままにならぬとき。裂かれそうな心身を護ってくれるものがいる。一族の誇りを、思い出させてくれるものが傍にいる。

 そうだ。何を恐れることがあろうか。

(我輩は――我らはもう、理不尽な暴虐に屈することはない)

 仲間の遺志は繋がれた。繋がった証明として、この光景がある。


 騎獣イヴァニシオンが、ここに居る。




「ッ」

 濁った瞳を驚怒に滾らせ、猟奇的な妖精がこちらを睨み付ける。緩やかに此方に向かっていた歩がその場で止まり、長身は草片と土煙を撒き散らしつつ後方に飛び退く。それは予期していなかった手練に対する警戒の様でもあった。低く響く、怨嗟の声。

「小癪なッ」

 音が追いつけないほどの速度で抜刀した、生身の人間。それは武を識るものにとって確かに脅威であろう。

「――」

 我輩の頤より五歩ほど前にて、騎者どのは構えを解いた。否、残心に隙を残さず次なる防備に移行した。ちゃき、と鍔鳴りが手元で響く。

「……武器霊具か」

 妖精の口内で呟かれる声を、獣の聴覚は聞き取っていた。相対する得物が放つ只ならぬ気配、それを感じ取ったのか、蒼眼に濁りとは別種のものが宿っている。まるでかの霊具の清冽な気にてられたのように。

 場の空気が変わったことで、我輩は素早く算段する。まだ、かの妖精とのあいだには距離がある。ただし、騎者どのと我輩のあいだもわずかに空間ができた。長剣による抜刀、防備を兼ねた迎撃をおこなうに仕方の無い距離である。

 だが。

(先制を赦した時点で、騎乗も出来ぬか)

 剣技と騎獣術、それらを得手とする騎者どのが我が背に跨れば如何な投擲物でも回避出来るだろうし、危険性は極端に薄まる。しかし一瞬でも騎者どのが隙を見せたら即、あの禍々しい刃が無防備な背に襲い来るであろう。斬りかかるにしては遠すぎ、飛び道具相手に目を離すにしては危険が大きい微妙な間合いがその場に在った。

 妖精に向けた意識はそのままに、ちらり、と下方を見やる。場の空気は変わったが、変わらないものもある。倒れ伏している男はそのままで、赤に汚れた金髪はぴくりともしない。

(「まだ」――こちらからは動けぬ)

 軽い膠着状態、といったところか。ただそのせいで、互いに互いを窺う時間が生まれてもいる。

「貴様、何者だ」

 手元に戻った短剣をしゅるり、と回しながら問い掛けられる声はかの妖精のもの。状況的な優位性によるものであろう。その瞳からいつの間にか濁りが薄れ、蒼色本来の透明感が覗いてもいる。

「――」

 しかし、騎者どのはその問いに何も返さなかった。不意打ちを仕掛けてきた相手に対しこの場は何も返すべきでなく、返せないからだ。

 黒髪は微動だにしない。ただ象牙色の首筋には滝汗が流れており、噛み締められた奥歯が軋んでいる。柄を握る手も、重量を弾いたことで生じた痺れを必死に抑えているのがわかる。霊気を帯びた特殊武器といえど、それを振るうための要領は並大抵のものではないのだ。今も一瞬でも遅れていたら人間の脆弱な筋力では衝撃を受け流せず、もしくは抜刀する前に肩に刃が食い込んでいただろう。

 しかし、かのようなことはおくびにも出さない素振りで、我が騎者は敵に相対する。妖精を見据える緑眼は我輩からは見えないが、おそろく何の感情も読み取れない表情をしている。毅然とした後ろ姿は冷静であり、放つ空気は冷徹とも言ってよかった。眼前下方に倒れ伏す赤にまみれた姿、それによる動揺などもう見当たらない。否、敢えて視界に入れないようにしている。この場で不利な材料を増やすべきではない。

 彼は、またも瞬時に切り替えたのだ。今は剣士たる己が覚醒する場面だと。

「応えろ」

「――」

「応えぬか」

「――」

「ッ人間如きが、まぐれ程度で図に乗りおって」

 あくまで無言を通す騎者どのに、今度は向こうがぎり、と歯を噛み締めた。存在を軽んじられたと感じたのだろう。脆弱な人間に質問を撥ね付けられる苛立ち、それを露わにする単純さは、かの賢人とは似つかぬ反応であった。

「本来ならば武器霊具など、その賤しい身に帯びることすら赦されぬものを……ッ」

 怨嗟と共に銀髪が波打つ。しゅるりしゅるりと回される短剣が不穏な気配を纏わせ始めていた。先ほどと同じ、準備動作の少ない手練の素振り。

 蒼色が、また猟奇と退廃に塗り潰されていく。

「……まあ良い。私に逆らうものは皆、」

 殺意がまた、膨れ上がる。

「死ね」


ひゅ、ひゅんっ


 風を切る音が、二本に増えた。




「それは、本当なのか」

 ぽつりと零された問いに、頷かれる頤。それを前にして、白衣に包まれた胴が前傾となり、細身の膝が床に崩れた。俯いた赤毛に、くしゃりと差し込まれる指。

「……なんたる、ことだ」

 それは数週間前と似た仕草。しかし違う箇所は、彼自身が身のうちから溢れるものを抑えようとしていないことだった。震える肩は溢れ出る動揺を、くもぐった声は今にも泣きそうな己を隠そうともしていない。抑え切れない、抑える必要も無いものが彼の中で暴れまわる。

「……なんたる、僥倖」

 その欠片が、音となって洩れた。零れ落ちる、涙と共に。


騎獣イヴァニシオンたる方が、この地に降り立ったとは……!」


 動揺と歓喜に揺れる彼を、静かに見下ろす一対の瞳。その色と同じく涼やかな声が、同意を示す。

「――ああ。確かに、かの二本足は名乗った。自分は騎獣の友たる存在だと。純粋種ではないがその身に伝説の騎者たる血を受け継ぐ妖精の一派であると」

「……オレアード様の、実子」

「ああ、そうだ。彼が、俺を助けてくれた。死の縁にいた身体を快癒させ、諸々の世話をしてくれたばかりか仲間を助ける手助けをすると約束してくれた。――騎獣の友たる血筋として、それが当然のおこないなのだと」

「……」

「何せ遠き歳月を超えてきた人界最強の霊力使いだ。実力は確かであるし、彼ならば俺一頭では出来なかったことも出来る。仲間を助け、かの凶行も止めさせることが必ず出来る。貴殿の悲願も、『賢人』たるかの助けが在らばきっと光明へと向かうだろう」

「……」

「先ほどその一端が始まった。我が騎者の留守を狙い、西北の建物を焼き払うことに成功したらしい。これで、この研究所以外の機材は機関から失われたも同然。従ってあの忌むべき実験もおこなえず、霊力媒体を独自製作する貴殿の発言権並び組織内での地位も向上するだろう」

「……」

「――今まで、貴殿は長く孤独の道を強いられてきた。けれど、その努力は無駄ではなかったのだ。俺の説明ではわからない部分は多くあると思う、すべては見た方が早い。さあ、これからかのものの下へ共に――、」

「待ってくれ」

 俯いていた赤毛が上がり、視線がかのものと出逢う。口上を遮ったその声に揺れは無く、肩も震えていなかった。細身はふらりと立ち上がり、よれた白衣の襟を正す。エルフの文人は背筋を伸ばし、前を向いた。

「……私はまだ、あなたに伝えていなかったことがある。あなたが現れたその時まっさきに伝えなければならなかったというに」

 涙で濡れた頬は、心労と不養生によりげそりとこけている。しかしその両眼は、数時間ほど前は無かった希望にきらめいていた。


「生きていてくれて……生きていてくれて本当に嬉しい、蒼きイヴァよ……!」


 伸ばされた手に触れるのは、硬くもカドのとれた二本の角。一族の誇りを優しく擦りつけ、涼やかな鬣と揃いの瞳をした獣は静かな声で返した。

「ありがとう。俺も、生きてまた貴殿に逢えたことがとても嬉しい――我が二本足たる親友よ」



 蒼きイヴァと赤毛のエルフ、彼らの体毛をそっと風が撫でた。真夏の暑さを一瞬で払うような、心地の良い涼風であった。

 風と同じく涼やかな色の鬣を梳いてやりながら、ラリクスは中空を見上げる。流れ落ちる涙そのままに。もうこれは拭う必要が無い。それに。

「どうした」

「……いや、」

 ラリクスは潤む視界で周囲を見渡した。面白げな少年の声をした誰かが、耳元で囁いた気がしたのだ。

 これからもっと面白いことが起きるぜ、と。



 それは、あっという間の出来事。


 風を切った禍々しき白銀は、先ほどと同様こちらに届くことは無かった。といってもかのものの技が外れたというわけでなく、ふたすじの凶刃はその手から正確に放たれた。騎者どのが防備に成功したということでもなく、まして我輩が結界で弾いたというわけでもない。

 結界など、展開する必要も無かった。


「――ぐぁあぁッ」


 苦痛の声をあげたのは、妖精の男。


「ッぐ、がふ、ッぐ、くそ、くそぉおおおッ……!」


 鼻腔と口腔から血泡を吹きながら苦しむ蒼眼の妖精。充血した両眼が対象を睨めつけ、喉奥から怨嗟の声が発せられる。

「づ、面汚づらよごじ、エルフの面汚じめがッ……一族復興の柱に泥を塗っだ純粋種のなりぞごないめッ地獄に堕ぢろぉオおおッ」

 その喉首を片手一本で締め上げながら、かのものは口を開く。


「――へえ? この醜い生き物は一体どういう根拠があって、不相応な言葉を吐くのでしょうね」


 冷酷に言い放つ爽涼な声の主は、先ほどまで倒れ伏していたはずのもう一人の妖精であった。




 それは、かの刃が騎者どのに届く直前。常人の肉眼では捉えきれぬほどの速度の投擲物が、赤に染まった金髪の上を通り過ぎようとした瞬間であった。

 片腕を切り離されて倒れていた男の身体が。血まみれの凄惨なその光景が、陽炎の如くゆらり、と揺らめいたかと思うと、一瞬でかき消えたのだ。黒焦げた床に広がっていた血溜まりも点々と周囲に散らばっていた血痕も――騎者どのの頬に滴っていたはずの返り血さえ――元から何も無かったかのように消え失せた。投擲された刃と共に。

 そして耳鳴りが再度響く。先ほどより段違いに大きく。

 驚愕に見開かれた二対の瞳は、次の瞬間、片方が苦懊に染まる。視界が予期せぬものに塞がり、その正体を把握する前に地面に頭から叩きつけられたからだ。砂利と石に激突した顔は表面こそ傷つかなかったものの圧力により鼻骨が折れ、それらしい惨い音が響き渡る。次いで背中を踏みつけられまたも同様の音。頑健な妖精の骨をあっという間に砕いた力の主は、同じく妖精のものだった。

 同族の頭髪を掴んで地面に叩きつけ、背骨を折ったのちに片腕一本でその身を持ち上げる彼は、今までで最も冷酷な表情をしていた。その腕はもちろん両方ともついていて、整然とした身なりからは先ほどの惨状など一片も見出せない。まったくの無傷のまま、彼は持ち上げた長身を片手で放り投げた。そしてその脚で肉薄し、地に伏す身体をまた蹴り飛ばす。武を嗜む妖精の肉体は自然と受身を取るが、取ったと同時に別方向から殴打を加えられることで損傷を増大させられる。命を奪うつもりは無くひたすら相手の力を殺ぐ、冷酷冷徹な方法だった。――我輩も過去に似たような方法で妖精を痛めつけた経験があるので、この行為がどれだけ惨いのかがよくわかる。

 転がる身体、ばら撒かれる呻きと血。あっという間に逆転した現状を前に、黒髪の青年は呆然としていた。複雑な色をした金髪と冷徹な青紫を遠目で見つめ、肩を細かく震わせながら。



「がふっ、がッ」

 地面に再度叩きつけられ、また蹴り飛ばされる妖精。風使いどのは、こちらに視線を送りもせず無表情に敵を痛めつけている。わずかに霊力で末端を強化しているとはいえ、ほぼ純粋な身体能力で妖精の武人を撥ね飛ばす様は、彼の底知れない実力を証明していた。

 我輩はそっと息をつく。暴力行為をまともに見るに精神が消耗するだけなので視線を意図的に逸らし、騎者どのに歩み寄る。魂の片割れの傍にいれば、どんな状況であっても気分は楽だ。

「騎者どの、大丈夫か」

「あ、……ああ」

 張り詰めていたものを強制的に解かれた剣士は、しばし戸惑ってはいたがなんとか抜き身の刃を下ろした。周囲を注意深く確認しつつ、得物を鞘に戻す。しゃらん、かちりとまた涼しげな音が小さく響くも、それを佩いた若者の表情は晴れない。当然であろう。

「おい、リョク。どうなってんだ。あいつ、斬られたんじゃなかったのか」

「すべて、幻だったのだ」

「まぼろし?」

 怪訝な顔をして見上げる騎者どのの黒髪が、大気の流れにそよぐ。

「騎者どの、先ほどまで殆ど無風であったことに気付いていたか」

「え……あ、そういや、今急に、」

 我輩の鬣も今やっと「吹き始めた」風に靡く。そしてこちらの鼻腔に届く忌まわしき血臭。やっと「漂い始めた」場の匂い。

――そう、先ほどまで、血臭はまったくしていなかった。不自然なほどに風は弱まっていた。妖精が現れた脇道含め、かなりの広範囲にかけて生き物が発する匂いすべてが薄まっていた。それでいて我輩に届くものは清浄な霊気。まるで黒い床を中心として、空気づてに広がる視えない何かの力、それが場を支配しているかのように不思議な空調となっていたのだ。

 それに気付いたとき我輩は現状を薄らと悟り、且つかのものが持つ能力の高さに改めて畏れ慄いた。騎者どのに即説明が出来なかったのは、そういった事情もあった。

(火事は収まったが、結界はまだ解かれていなかったのだ)

 畏れと共に味わったのは、この絶対的な風の支配力が味方のものだという強制的な安堵感。だからこそ我輩は畏れつつ平静でいられ、混乱する騎者どのを止める余裕も辛うじて在った。惨状はすべて、霊力によって作られた幻覚だとわかっていたからこそ。

「幻覚……質量を載せた霊気の贋物フェイクってやつか……!」

「うむ」

 漸く事態を把握した騎者どのの頬が、見る間に赤くなっていく。幻覚を見破れなかった剣士としての恥と、取り乱してしまった己への恥と。唇を軽く噛み締め、人間の若者は鞘の上で拳を握る。

「くそ、鍛錬ん時にじいさんにもやられたことあんのに全然思いつかなかった」

 霊力を一定以上行使出来るものであれば、誰でも幻覚は作れる。ただ、その精巧性は霊気容量に比例する。

「仕方あるまい。かの幻は質量も体温も本物と同等だったゆえ、大抵の者は惑う」

「でも途中からわかってただろ、リョクは。どうやって気付いたんだ」

「匂いだ」

「匂い?」

 我輩が気付いたのはかの刃が襲い掛かったその直後である。派手な流血の割に血臭がしない不自然さに違和感を覚え、目を凝らしたところ贋物だと判明した。が、五感によるわずかな違和感に気付かなければ霊視をしようとも思わず、騎者どの同様完全に惑わされていただろう。

(しかし一体、いつから)

 いつから幻覚を被せていたのだろう。つい先ほどまで至近距離で会話をこなしていたというに、それが移り変わる瞬間は記憶を辿ってみても全くわからない。生身とまったく変わらない質量と存在感の霊気のかたまりを生み出し、自身そっくりの贋物となし得た「賢人」の実力たるや。

(おそろしい)

 絶対的な強者に対する本能的な畏怖がまた、巻き起こる。今も漂う我が心身を鈍らせる血の臭気、それを光の結界でなんとか薄めながら、蹄を踏みしめた。角の先端でわずかにぴしり、と燐光が走ったことも脅威である。それほどまでに、獣の本性で危機を感じるほどに、感じた霊圧は桁外れだったのだ。

 離れた場所でまたも殴打音が届く。拳一つで二本足の長身が簡単に吹っ飛ぶ気配。視線を逸らしつつ、乾いた嗤いが洩れた。

「――は。あの様子でどこが『霊気を消耗して満足に動けない』ものか」

「もしかして、それも嘘だったんか」

「おそらくは」

「……舐めやがってッ」

 騎者どのは眉を顰め、短く舌打った。味方ではあるが、刹那でも策士の罠に嵌ってしまったこと、それを理解出来なかったことに同じく策を弄するものとして相当な悔しさがあるのだろう。我輩とていい気分はしない。騎者どのに相対する腰の低い態度は本物だと思い込んでいたゆえに。

 おそらく、あの唐突な話題提起と長めの口上さえ、彼にとっては策の一つだった。あの猟奇的な妖精が自身の結界内に入り込むまでの、ただの時間稼ぎに過ぎなかったのだ。


『中に入るのは少々待っていただけますか』

『その霊具は、どこで手に入れたものですか?』

『偶然にしろなんにせよ、尊い巡りあわせに感謝ですね』


 にこやかだった青紫色の双眸と高揚めいた声音、真摯な視線は、すべて演技であったのか。敵を騙すには味方から、というが、我輩も騎者どのも彼の掌上にて踊らされていたのだ。

 ともあれ、今度こそ完全に解かれた風の結界と虚実の下から現れたものは、一瞬にして形勢は逆転させるに充分であった。武器霊具は敵の手元より離れ、危険性は更に薄まっている。我輩個獣として色々と気になることはあるが、とにかく現状として我が騎者から脅威が遠ざかったのは安堵すべき事象であろう。そう結論付けるしかない。

 しかし。理性で納得できても、感情で納得できないものはある。

(薄々わかっていたこととはいえ、やはり妖精が関わる争いごとは心臓に悪い。負の感情に抵抗が無く、同族制裁に容赦が無い分……見るに耐えぬ)

 今もなお上がる、苦懊の声と血飛沫。それによる凄惨な光景は、もはやどちらが敵方であるのかわからないほどだった。

 殴られ続けた妖精の顔は打撲に腫れ、もはや人相が判別つかない。それを見下ろす青紫の両眼は冷徹そのもので、一かけらも情を見せない。

「ぐ……が……っ」

 折れた骨によって損傷した内蔵、それによる吐瀉物を撒き散らしつつ、銀髪の妖精が地を転がる。それを蹴り飛ばし、殴りつけ、踏みつけ、要所の腱と骨とを潰し終え、ぐったりとしたその頭髪を更に掴み上げる手。

 風の声は、ひたすらに無慈悲な音色となっていた。


「先ほど自分のことを面汚しと仰りましたか。では今の状態、どういうことでしょうねカルヴァリオさん? ちゃんと聞いておられますか? 一族復興の旗印とやらはその腐った目で見えていますか。視えていないようですね」


どごっ

 持ち上げた胴体に食い込む膝蹴り。また新たな赤が散った。問いかけに返応する余裕など無く、意識を飛ばしかけているその横顔を張り飛ばす裏拳。重ねられる声は嗜虐の意図に満ちている。


「起きてください。それでも一族復興の先 導 者ですか?」


 言葉をわざと区切り、小馬鹿にしたような声調。それでいて愉悦の色は見当たらない。嘲笑も無しに相手を嗤うというのはどういうことなのか、どれだけ相手を見下げれば成し得るのか。鉱石のような面差しが、これ以上無いほど冷酷に思える。

 これが本物の悪鬼か。


「それにしてもこれほど心身共に単純で愚劣、底の浅い武人が一族復興……復興ですか。――笑えぬ冗談だな!」


がつっ

 歯が何本か折れて飛び散った。顎に入れられる拳はもはや、赤色だ。呟くように投げかけられる言葉から丁重な響きは失われていた。


「罪無き命を無意味に蹴散らしたその脚が進む先はただの修羅道だ。紛い物たる哀れな命を捨て駒とし、生み出したものはなんだ。挙句の果てに災禍にまみれたその両手で、今更救えるものなど皆無。腐ったそのまなこが見通した真実など在ったか? この先、新たに得られるものがあるとでも? 誇りを失ったエルフに生きる意味など無く、道を踏み外した精霊族に存在意義など無い。……お前達に待ち受けるは、ただの破滅だ」


 風の声は、青紫の瞳は、冷徹に見えて炎よりも激しいものに燃えていた。――底冷えのする、憤怒に。

 我輩は先ほどとは別の意味で全身が動かなくなるのを感じた。血臭とは違い、結界では防げないものが我輩に再三襲い掛かる。それも、今まで以上に強烈なものが。

 我が一族にとって何より辛いのは、自身に向けられるそれより他者に向けられるそれだ。絶対的な強者に強いられる苦痛など、己一頭だけなら我慢できる。受けた苦しみを仲間にまわさないためなら、なおさら耐えてみせよう。しかし自分に対してでなく、当の仲間や第三者に対しておこなわれる拷為は非常に辛い。目の前の事象にお前は介入出来ないのだ、無力なのだと突きつけられる絶望が心身を相乗して痛めつけるから。

 今も、そうだ。我が一族のかなしき生存本能は、力無く訴えている。やめろ、もうやめてくれと。まるで先ほどの騎者どののように、自分ではどうしようもないものに惑い、助けを求めている。

 もう、いい。充分だ。それ以上はやめてくれ。そう云いたいのに声が出ない。


「お前達を赦さない。赦すべきものではない。いのちの獣を弄んだ罪は重い。イヴァニシオンの直系として、エルフの誇りを示すものとして、根本より制裁を与えてやろう」


 彼は我が一族のために憤っているというに、我らを思って敵に制裁を加えようとしているのに。どうして今、我輩はそれと反する思いを抱いているのだろう。

 耐え切れず頭部ごと身を逸らして瞼を瞑る我輩を、護るように騎者どのが前に出た。それでも尚聴こえる、暴力の音と冷酷な声。


「限界まで血反吐を吐き、のた打ち回れ。再起など出来ぬ永久の底へと堕ちろ。罪無きものに与えてきた苦痛の一片を、その身で識れ……!」


 かの手に集うは霊気の膨大なかたまり。ああ、それで殴ったりなどしたら。


「脳髄を爆ぜさせろ。生きながら死ぬがいい」


 発動する霊力。膨張する――殺意。

 我輩は瞼を瞑ったまま心身を強張らせる。体表が粟立ち、鬣が艶を失くし、角が萎縮する。見たくない。感じたくない。


(『騎獣の友』が、生き物をいたぶる姿など)


「死ね」


 刹那。



しゃらん――っ



 またも、涼しげな鞘走りが場を斬り祓った。




 がちゃがちゃとせわしない音を立て、ラリクスは研究所内の機材を纏める。先ほどまた変わった一報が届いたのだ。

「都が大荒れとなっている。なんでも不可解な現象により、組織の大半が逮捕されたようだ」

「――どういうことだ」

「私にもわからない」

 衝撃吸収材を詰め込んだ袋に実験用具を放り込みつつ、ラリクスは手元の機器を見つめる。組織員の一部に配布してある特製の強化トランシーバー。内部は発信機と手動盗聴器付きで、どこに誰がいてどんな活動をしているのかをおおよそ把握できる。古くからの幹部や一部の乱暴な武人はいい顔をしなかったが、無理矢理押し付けた。

「何人かは音信不通のままだが、判明しているだけで全体の八割が王都の警護部に集まっているようだ。どうやら全員が自首したらしい」

「本当か……?」

 蒼色の双眸が見開かれる。信じがたい様子だ。それはラリクスとて同じだった。しかし。

「盗聴で聴き取った断片的な情報だが、事実だ。少なくとも、これだけは言える。――私達の組織は、事実上崩壊した」

「……」

「幸いなことにまだ私のことを警護部に訴えるものはいない。しかしこの研究所の場所が知られるのも時間の問題だ。私は法に触れることは極力避けてきたつもりだが、同じ組織に属していた以上真に受けるものは少ない。犯罪と少しでも繋がりあらば即刻捕らえられよう。ここはしばし雲隠れするのが吉と見た。すまないが、しばらく共に行動出来ない」

「……そうか」

「あなたはどうする」

「俺か。俺は――」

 涼やかな鬣持つ獣は、ふるりと頤を振って前を向く。

「仲間の無事を確認したい。同族の雌と、妖精の雄。彼らの今現在の居場所と動向を探ろうと思う」

「そうか。幸運を祈る」

「ありがとう。貴殿も、無事で」

 骨ばったエルフの手にそっと角を握らせてのち。


 風と共に、蒼き獣は東方へ立った。


「……さて。急ぐか」

 見送りもそこそこに、ラリクスは荷を背負う。運動不足の文人の身にずしりと食い込む機材と資料の多さだが、どれも捨て置いてゆけない。ラリクスの今日までの汗と涙の結晶であり、未来へ繋がる道の一環だからだ。

「どこへゆくか。ひとまずは東のルギリアへ――、」

 扉を開け、早速歩を踏み出したそのとき。


「た、たすけて、たすけてくれぇええ……!」


 届いた悲鳴が、ラリクスの鼓膜を打った。



「――――どういう、つもりですか」


 風の声は無表情に言った。

「どういうつもりかと、聞いています」

「どうもこうも、見ての通りだ。今すぐやめやがれ」

「は?」

「やめろっつった。もう充分だろ」


 我輩はそろそろと目蓋を開ける。そして視界に入った光景に心の底から安堵した。風使いどのが片手で持ち上げている妖精。打撲と骨折とでぼろぼろになったそれに、尚も加えられようとした絶対的な一撃。それは寸でのところで止められていた。……我が騎者が、止めてくれたのだ。

 風使いどのの喉元に突きつけられているのは、長剣の刃。騎者どのが抜き放った家宝が、彼をぴたりと捉えている。緑の視線も、声も同様に。突きつけられた刃により動作を強制的に止められた彼は、ゆっくりと拳を下ろす。破壊的な霊気をまだ拳に纏わせ、表情はそのままに、静かに語りかけられる爽涼な声。

「――理解し難いですね。貴方もイヴァニシオンたる家のものならばわかるでしょう。このエルフを赦してはいけないことが。むしろ、貴方はそのためにここまでいらしたのでしょう。イヴァを、親愛なる獣を無意味に搾取する忌まわしき存在を滅するために」

 滔々とした口上。青紫の双眸は、未だ冷たい光を帯びたままだ。底に燃え盛る青い炎のような憤怒は、変わっていない。笑顔を完全に遠いものとしたその表情は、ひたすらに冷徹であった。

「……」

「ならばどうして、こちらに刃を向けるのです?その刃はこの薄汚い物体に向けられるべきもの。なんなら、代わりましょうか。その由緒正しき剣でこの物体の首を刎ねてくれるというなら、喜んで身を引きましょう。なんなら同族の凶行を止められなかった自分への制裁として、その一撃を受けましょう。ただし、この男を殺してからです」

 冷静さを装いつつ、溢れる怒気を堪えきれないように紡がれる言葉。対する騎者どのは、先ほどの対峙と同じく沈黙している。

「……」

「――貴方は人間にしては良い腕をお持ちのようです。その武器霊具、まるで在りし日の父のように使いこなせている。エルフのように高揚に呑まれることはないからこそ、危険性も薄い。その腕は是非とも正義に使うべきだ。さあ、これの首を刎ねなさい」

 酷薄な、命令。しかし我が騎者はやはり、何も返さない。緑の双眸に静かに睨めつけられ、青紫の双眸が一瞬、形容し難いものに細められた。

「出来ないのですか、『イヴァニシオン』たる者が。貴方は、かの残虐を主導したこの男を、赦せるのですか? 騎獣の友としての名が泣きますよ。貴方の偉大な祖先、偉大な騎者であったオレアード=アーク=エクティス=イヴァニシオンの血が、」

 騎者どのは。

 我が騎者は、抜き身の刃を突きつけたまま言い放った。


「ごたごたウゼえ」


「――、」

 今度は、風使いどのが沈黙する番だった。何度か何かを言い掛け、また沈黙する。出逢った視線の毅さに。真っ直ぐな、その色に。そして青紫の表面はわずかに、揺れる。まるで遠き擬似感に、今になって心を本当の意味で振るわせられたかのように。それは十数分前と真逆の光景であった。

 どこかで見た、誰かに似すぎているその瞳。

「聞けよ、人外クソイケメン」

 騎者どのは、清冽な剣を掲げて云う。母親譲りの、真っ直ぐに澄み渡った瞳で。

「あんたが言うオレアードうんちゃらは、俺の祖先じゃない。俺の、祖父だ。れっきとした、実のじいさんだ。そして、育ての親でもある」

 宝石が、見開かれる。抜き身となった長剣は、中天の陽光に眩しく光った。白銀の道は、真っ直ぐに二人を繋ぐ。片刃の剣は妖精の男に対し、まさしく突きつけるようにその存在を指し示す。

――よく聞け、この男はお前にとって大事な、大事すぎる存在なのだと。



「俺の名は、アルセイド。アルセイド=リラ=イヴァニシオン。

『瑞獣と征くもの』の教えを受け志を継ぐ、イヴァニシオン家四代目当主だ」



 青紫の双眸は、今度こそ大きく見開かれた。どさり、と力を失ったその手から妖精の身体が崩れ落ちる。それに構わず、金髪のエルフは愕然と人間の若者を見つめた。その黒髪を。象牙色の肌を。見慣れた得物を。緑の瞳を。

――どうして自分は今まで、気づかなかったのだろう。

「あんたはじいさんの実の息子かもしれんがな。俺はじいさんの実の孫なんだよ。そしてじいさんの最後の妻……只の人間が、俺の母親だ」

 血の気の失せた唇がわななく。何かを発している、けれど何も聞き取れない。満ち溢れたものに、襲ってきた動揺に、彼は動けない。

――どうして自分は、その可能性を無かったものとしていたのだろう。

「つうわけで、制裁についての発言権は俺のほうに有る。俺は家名の正統な後継者であり、この家宝を先代から直接譲り受けた。流浪のあんたにごちゃごちゃ注文つけられる謂れはねえし、文句だって言わせねえ。いいな」

 青紫の視線が落ちる。血にまみれた拳が、霊気をうしなったその両手が震える。伏された金髪の下、唇はまたも動いた。しかしやはり、声にならない。

――どうして、


「ただ、お前も騎獣イヴァニシオンの端くれならわかるだろ。俺の騎獣の前で、そういうことするな。必要以上の加虐、命の軽視――名に恥じることを、させるな」


 だらり、と赤にまみれた両手が垂れ下がった。俯いたままの金髪。訪れる無言の間。


 風が。周囲で風が、巻き起こった。

 はためく髪と衣そのままに、騎者どのはゆっくりと剣を引く。風使いどのから完全に殺気が消えたことに気付いたからだ。

 風使いどのは。


 吹き荒れる風の中、そっと空を仰いだ。瞑られる目蓋。開かれる唇。


 そして彼は、音に載せた。永年求めていたただ一つの願いを。生きる導を。封印していた、切なる望みを。

 たった一つの、愛のことばを。








「リラ」








 それこそ風が辿り着いた、すべての答え。


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