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我輩は騎獣である  作者: KEITA
第七章
88/127



 耳元で風が鳴る。


 唸りをあげるそれは速さと同等で、圧し寄せる大気による抵抗の度合いも激しい。生身の生き物にとっては余りに強い空気抵抗が襲い掛かる。界において過ぎる圧力は、多くのものにとって地獄でしかない。只の獣ならば、最初の気圧によって押し潰されるか生じた摩擦熱によって焼き尽くされるかどちらかであろう。

 しかしながら、我輩は。

 地をひとけりしたのち、前足を屈め後足を伸ばして次の着地へ向かうその合間も轟音と人界最高気圧に包まれながら、器が潰されることは無かった。理由は単純である、この圧力はすべて、我輩にとって取るに足らないものであるから。天の獣は外殻破損に弱いと云われるが、それはすべて外からの予期せぬ介入によるものである。「みずから発生させた」事象全般において、我輩がその禍に呑まれることは無い。そう、すべては我が霊力と筋力による余波でしかない。巻き起こる圧力も生まれる熱も、何もかも全部が制御されているから。

 ここにも、人界で過ごした時間は無駄でなかったとの確信が生まれる。界における霊力限度、気圧の大まかな流れさえ把握できれば、特に実力者でない我輩のような獣でも力を十二分に発揮できるのだ、と。

 ただ、この確信を得るまで四十年余りの歳月が必要だっただけの話である。


◆ ◇ ◆


 麒麟にとってはただ、駆けるために地を蹴ったのみ。

 しかしそのひとけりの機会を間違えば、人界は混乱する。ましてただの歩行でなく、「駆けよう」との意思なれば。

 思い出す、人界に来たとき初めて「駆けた」そのときのことを。霊気の比較的薄い自然区域のさなか、試しということで天と同じ心地で地を蹴って進んでみたのだ。結果、大惨事となった。地面が深く広く抉れ周囲の草木が簡単に薙ぎ倒され、浅い森林だったその一角に小さな平原が生まれてしまったのだ。しかも体重の軽い小さな獣や鳥らは巻き起こった風と土砂により吹き飛ばされ、大なり小なり怪我を負った。今思い起こしても項垂れるしかない大失態である。

 勿論、我輩は角を下げて彼らに詫び、一頭一匹一羽に至るまで残さず治癒をしてまわった。抉れた土地は可能な限り元のかたちに均し、裸となった場所にはみずから霊力を注ぎ、元の緑豊かな土壌に戻すまで世話をした。幸い獣らは命を失わず木々の再生も早く、皆が皆、(畏れもあろうが)天の獣が失態を赦してくれた。しかし当然ながら、繰り返してよいことではない。以後、我輩は深く反省し誓ったのだ。人界に慣れるまで本気で駆けるのは極力やめよう、と。

 土地範囲が狭く生命密度の高い人界には、天より遥かに細やかな秩序が在る。力持つ天の獣が無闇やたらと動くとそれだけで細緻に組まれた環境を乱し、そのつもりは無くとも後足でいのちを蹴りつける行為に繋がってしまうのだ。

 人界の生き物を傷つけることなく人界で力を発揮するには、どうすれば良いのか。答えはまたも単純なものだ、己の筋力並び霊力を完璧に制御出来るようになればいい。言うは易し行うは難しとしても、だ。

 我輩が人界にて過ごした四十余年、闇雲に時間を潰していたわけではない。人型での護身鍛錬の他に、本性での走行鍛錬も重ねていた。おのが全力を行使出来る場所を見極め、可能性を出来得る限り探り、確かなものだけを掴む感覚を要所で養っていたのだ。

 小さな失敗は無論、幾度もした。しかしそれを次回以降は更に小さくするよう、細かな修正を重ねていった。失敗を恐れていては何も始まらず、前にも進めない。が、やはり人界の秩序に被害が及ばないのが望ましい。しかしそれが叶わないならば、被害は最小限に留めるを旨としなければなるまい。成功の可能性を見つけたら針の先のような機会それを逃さず突く。普段と違う行動によって生じる隙を極力排除し、失敗の可能性を削いでいくのである。要領を掴み、己の力をすべて把握し制御出来るとの確信を得れば、あとは本格的に実行あるのみ。

 天界の通識は、人界のそれと添わない。逆を言うなら、人界の通識に添わないものは、天のそれに添うものである。この世界ではありえない物理状況も、一個の生命体にそぐわない能力さえも、別の世界に棲まう者ならば易々と受け入れられる。もとより天界霊獣の霊気容量は人界では最高峰に匹敵するので、力を行使出来る範囲は至極広いのだ。

 そして。

 我が身が制御し得るものならば、我が身を傷つけることも無い。我輩が護るものを共に護りこそすれ、破壊する無駄な力など働かない。そう、この背に乗る騎者も、騎獣の生み出した風に潰されることはないのである。

 例え、我輩が人界の秩序を考えず滅茶苦茶に地を駆け巡ったとて。人界の自然現象並び人間界隈は混乱するであろうが、その中で騎者どのだけは何事も無いように佇むであろう。そこには単に器の相性や霊力の有無などでは説明がつかないものがある。そしてこれこそ、全世界において我が一族しか持ち得ない特性だ。

 我が脚は、魂と共に進む。魂とは勿論、強き脚の一族として誇りに思えるだけの健全な心身。そして何より、背に跨る二本足の相棒が無傷で在ることも重要な指針である。その存在を護り通すことは、それすなわち我が魂を護り通すのと同様だから。

 優れた騎獣は、優れた騎者と共に在るのだから。


◆ ◇ ◆


 全身を包む光の膜が、風を割く。割かれた風はすぐさま脚に纏わりつき、前進する骨肉を強化する力に加わった。駆けるうえで無駄な風などあり得ない。更に我輩は自然に存在する風を繰っているので、風が及ぶ範囲、つまりすり抜けられるものは簡単にすり抜けられる。霊力界隈で障害物に当たることは、殆ど無い。

 しかし人間界隈は細やかな人工物が建ち並ぶゆえに、どうしても避けられないものも存在する。今も、通り過ぎていく景色のさなか、前方に障害物の気配を感じ取った。

《ハヤテ》

《りょ~かい》

 思念で一声発すると、風の使役はすぐに応えた。うすらと感じていた大気の圧が一部分だけ薄くなり、前方に集中する。

《すっぽ~んとな》

 強風が視界の彼方、先回りする。前方に迫っていた障害物――人為的に設置されていた畑の柵板――は強風にあおられ、深く埋まっていた根元から地面から抜けた。

 木柵が暴風によって飛ばされて出来た空間、そこを通り抜けた直後。我輩はまた一声発する。

《戻せ》

《りょ~かい》

 風の返応と共に、宙に舞い上がっていた柵板がまたも向きを変える。

《ずっぽ~んとな》

 重力に従って畑に舞い戻ってのち、別方向からの風の圧力によって埋めなおされた。それこそ、何事も無かったかのように。ちなみに畑の土は柔らかいので多少抉れてはしまったが、耕作物に影響は及ぼしていないはずだ。そして、高密度ながら狭範囲に力を集中させたので人間の家屋や小さな自然区域に強風は中っていない。

《意思持つ生命体に害は加えていないだろうな》

《もっちろ~ん》

《よし》

 そのことを確認しつつ、我輩は騎者どのと共に先を征く。



 人間界隈を縫うように駆ける騎者と騎獣は、宵闇も相まって只人には正体をつかむこと叶わない。家屋や標識、柵や壁などを飛び越えすり抜け、風は進む。音さえも我輩らに追いつかない。霊力持たぬ人間らから見た我輩は、さながら深緑の色彩をなびかせた風の塊であろう。常人の視覚では追いつけぬほど速度を上げ駆けているさなか、視覚的な情報はあまり入ってこない。夜目に慣れていないというわけではないが、人界の雑多な気配に慣れ「させて」いる視覚は至極弱いのだ。しかし我輩の脚運びが惑うことは無い。麻痺せざるを得ない部分があるのなら、別の部分で補えば良いだけのこと。人界においては人界のものを巧く扱い、活用するのだ。

《進路に危険は無いか》

《ほいほい、無いっすよ~もすこし高く跳べばニンゲンも少ないよ~》

 人界のもの――我が使役が、我が目となり鼻となる。研ぎ澄まされた霊視によって、おおよその危機は跳び越えられる。

 より危険度を減らすため、我輩は風の霊気を後足に込め、軽く跳躍した。人間の家屋程度なら楽々と越せる高度だ。視界が、一気に開ける。

 蹄の先から脚の付け根において、体毛が纏う風によってびゅうびゅうと表面を逆立たせた。横腹、首、鬣に至るまで、一体となった霊気。強固柔軟な光の壁は我輩の全身を包み、体表を艶光りさせている。そしてその光の防護膜は、背に跨る二本足の生命体も纏っている。我輩がどんな動きをしようと、背に乗る者が体勢を崩すことはない。それが騎者と騎獣たる絆のひとつである。ただ、人界の騎馬がそうであるように、乗り方ひとつ重心ひとつで身のこなしの妙は大きく変わってくる。我が騎者どのは言うまでも無く、そのすべが逸品である。ゆえに、我輩は好き勝手に動けるのだ。

 背後に伸びた角は、手綱の形にたなびく。と、その一部が少し張った。握る二本の腕に今、何かが篭ったのだ。我が騎者が、騎獣が身を繰ろうとしている予兆である。横腹を挟む腿と膝とにぐっと力が入り、進路はそのまま右方向に傾けられる獣頭。

―――避けろ

 言葉無き指令が全身に伝わり、我が本能は瞬時に従う。身を傾げたその瞬間、体側すれすれを息吹持つ生命体が過ぎ去っていった。おそらくは、低空飛行していた翼持つ生き物の一種。強大な風を操るのと遠き前方を見定めるのに忙しく、少々のものは見逃していた。そのせいで気付くのが遅れたのだ。

(危うかった)

 我輩らに何事も及ばずとも、害を被るのは向こうである。翼持つ彼らは風乗りに長けるが、人界の生物は多種多様な生態を持つせいか予期せぬ動きをすることもある。かのものはあまりに小さく軽かったので気圧の隙間に入り込み、強大な風の進路側面に躍り出てしまったのだろう。我輩が避けなかったら光の防護膜に弾かれ、気流を乱された小鳥は呆気なく墜落していた可能性が高い。

 深く内省する暇も無く、今度は左上方面に手綱を絞られる。

―――跳べ

 指令された通りに身を軽く上向けると、下側面ぎりぎりで何かが風にあおられる気配。軽く確認するとそれは家屋の上部いっぱいに広げられた人間の工芸品であった。微風に吹かれるをよしとするが、強風には弱い織物が屋根に干されていたのだ。我輩がそのまま通過するだけでは暴風となって繊細な布を吹き飛ばしてしまう。遥か上空を通過したことにより適度な涼風がその表面をさらったようだった。

 その後も、我が手綱を引く力は縦横無尽に獣頭を繰る。左の次は右、上の後は下。高所で緻密な作業をおこなっている人間の足元を掬わないように駆け抜け、夜風に当たりながら語らっている人間や動物らの頭上を跳び越え、その営みを壊さないよう大胆ながら細心の注意ですり抜けて。

 護るべき繊細な障害物を通過してのち、手綱が元の位置に戻る。握る二本の腕から伝わってきた感情は、先ほどの我輩と同じ満足気な肯定だった。

―――よし

 すべては瞬時の出来事だ。しかし我輩は、驚嘆と高揚に心身が沸き立つのを抑えられなかった。

(騎者どのは強大な使役を得てもやはり、騎者どのだ)

 大局を見据える際、見落としがちなものも、この背に跨る相棒は余さず拾ってくれる。そして我輩の脚並みを乱すことなく、最小限の動きで危険を回避してくれる。わずかな力で伝わる確かな意思、絶妙な手綱取りによる指令。共にあらば霊力が上がる、脚力も強化されるという物理的な有利性など、この喜びの前では塵に等しい。

 それは、我が騎者が至極有能な者であるという騎獣の喜悦。イヴァという生き物を理解し、相応に行動し、期待を裏切らず期待以上に応えてくれるという確信の元に得た、かたちの無い高揚だった。

 改めて思う。

(我輩は、この背に跨る魂の片割れが在る限り、どこまでも征ける)

 騎者どのは極自然に獣首を操ったに過ぎない。しかし祖父御より叩き込まれたその手綱捌きは、一朝一夕で身につくものではない。それこそ我が一族が展開させる風と光の霊気のように、心身に染み付かせるまで繰り返した経験と鍛錬とが無駄を極限まで削いでいる。そして何より、騎獣を慈しむ心と道理を通す確かな意志とが、最大限に意向を発揮すべく練られている妙技なのだ。

 彼は、生き物を無闇に傷つけず自然秩序も乱さない。その確信は、巨きな信頼の念と同等だ。

(この騎者ならば何も考えず、手綱を預けられる。我が脚を賭して、護り通せる)

 騎獣イヴァニシオンたる偉大な心得――「騎獣術」は、気の遠くなるような古代よりずっと、確かなかたちで継続されている。その最高峰の一角がこの背に在ること、誇りに思わざるを得ない。

(我輩も一介の騎獣として、応えなければ)

 全身の筋肉を伸びやかに、漲らせた力を強くする。目的地まで、半里にも満たない。あとわずかで辿り着くであろう。



 到達はやはり、呆気なく訪れた。

《と~うちゃ~く》

 我が風の使役が間延びした声を上げたのは、騎者どのの友人宅を出立してからものの十数分ほど。界隈の片隅、見晴らしの良い小丘の一角。眼下に人工の灯りが見下ろせる、ひらけた空間だった。

 手綱にまわった腕が待機のかたちをとるのと同時に、今までと違う風塊が周囲に発生する。道半ばは力を込めてはいたが、目的地近辺になるたび速度を落としていたので、急停止たる衝撃は無い。この辺りも鍛錬の成果である。

 曲げていた前足を伸ばし、蹄を地に降ろす。光の防護膜を解くと同時にぶわりと広がる、形無き霊気の渦。

《ハヤテ、気流を維持せよ》

《うぇ~めんどくせ~》

 愚痴めいた思念の後、広がった霊気の渦が大気の流れと共に四方に落ち着いてゆく。

《異変は無いか》

《めんどいな~マジで。イジしてるよ》

《駆けた軌跡も乱していないな》

《モチロンですよ~ゴシュジンサマ。あ~マジめんどかった~》

 我が使役はこういった端々の思念口調を除き、至極優秀な風精である。準備は万端のようだ。

《よし》

 我が角が、ざわりと揺らぐ。まるで風に吹かれる樹木のように。

 背の乗り手を護るよう側面に茂っていた枝は、今度は地平に並ぶ木立のように我輩の頭頂部に集っていく。溢れんばかりの霊気を放ちつつ、燐光しながら騎獣の角は手綱部分を残し前方を向いた。

 霊視で感じ取れるすべてを確認し、鼻腔から酸素をゆっくり吸い込む。駆けているときは感じていなかったものが、沸々と湧き上がってきた。至極落ち着いているつもりであったのに、身の内の脈が大きい。生まれ出でて久方振り、この人界においては実に初となる大規模な霊力行使、我輩は巧く出来るだろうか。

 背に跨る騎者どのに身構えるよう指示しようとして、それはやはり無為無用だったと悟る。手綱を握る握力も背表に感じる筋肉も、まったく動じていなかったから。逆にぽんぽんと首筋を叩かれ、そこで初めて我輩自身が緊張しているだけであることに気付いた。

 魂の片割れが、声無く励ましてくる。

―――大丈夫だ、今までやってきたことを信じろ

 そのことばに、何を迷うことがあろうか。その確信を旨に、我輩は今度こそ角に力を込めた。


◆ ◇ ◆


 奇跡だよ、と老人は語った。かつて末期と云われていた病を完治させた身で、孫の手を引きながら。


 その晩、人界のとある国の中心市街において不思議な風が吹き抜けたことが、その界隈での語り草となった。

 単なる強風であればいつものこと、今宵は少々風が強いだけだと市民は思ったかもしれない。しかし、その晩のそれは違かった。西北風が通常であるその界隈、しかし吹き抜けたのは別方角よりの東風。そしてそれは更に向きを変え、建物や乗り物、標識などの設置物が隙間を縦横無尽にすり抜けていったのだ。そして伝えてきたのは涼やかな温度でなく、どこか温みのある不思議な空気。真夏の温風であるはずなのに、それはどこまでも心地よく。

 ある者は、言った。

「夏なのに変だよな。なんだかその晩だけ、短い春が来たみたいだった」

 はるかぜというには時期はずれで素早過ぎ、進路が自由過ぎるそれは、確かに刹那だったのかもしれない。しかし、その夜外に出ていた人間すべてがうっすらとした心地いい温みを感じ取れるくらいには、印象的な感覚であった。

 またある者は、言った。

「あれだけ大きな風だったのに、物とかひとつも飛ばされてないのが不思議」

 風が起きたのは人口が密集する都心の中心部である。しかも市街地の一角どころか、首都全体を包み込む規模で濃密な大気が通り抜けたというのに。どうしてだか、ものの一軒も物的被害が無かったのだ。勿論、人的被害も無い。ちなみにその晩外干しされていた地元工芸品はその年一番の出来となり、屋外でおこなわれていた緻密作業は界隈屈指の完成度だとのちに評判になる。ただ風向きが変わっただけなのに、そしてほんの少し温風となっただけであるのに、その夜は妙な力が働いたのだ、と。

 何より。

「あの夜から急に元気になった人が、多いんだよね」

 夜風に当たっていた老若男女の多くが、すこぶる健康体となったこと。車椅子だった者は足腰が立つようになり、ある病人の身体から悪性腫瘍が消え、怪我を負っていたはずの者は一晩で快癒するという不思議が、街のかしこで顕れた。不思議な風にそよとでも額を撫でられた生き物すべてが(個人の程度はあれど)肉体の損傷を取り戻したのだ。

 そういった事実が、かの風を善いものだと判断する意識を大衆に浸透させた。これらの不可思議な事実、起こった事象は西北霊法師の巡礼地でもある都市にちなみ「聖なる風の奇跡」としてしばらく語り継がれることとなったのである。

 そして。

「俺、見たよ。……あの風の正体」

「あたしも見た」

「わ、わたしも見えた」

 人間の大半が只人であるため、何が原因であるのかは一晩では把握できず、しばらく根も葉もない憶測が飛び交うこととなったが。それでも視力の良い者、「視える」才持つ者は、少なからずその一部を目撃していた。

 あまりに素早すぎ、姿を見せた時間が短すぎたゆえに個々の証言が食い違い、噂は多少混乱した。ただその誰もが、口を揃えて云うのであった。


「緑、だった」


 聖なる風は、そのような色であったことを。


 みどりいろした風の神さまが、おじいちゃんの病気を治してくれたのよ。そう言って、少女は祖父の手を握り締めた。


◆ ◇ ◆


 我が名の由来となった鬣が、風にあおられ翻る。深く濃い色したそれは、背景の闇と照り返しの光とが見事な陰影を生み、深森であったなら周囲に溶け込むかのような色合いを見せていた。

 力を漲らせ迸らせた我が角が、闇夜で発光する。広がった光の霊気とそれを更に速く運ぶ風の霊気とが相乗効果を生み、周囲は凄まじい霊力に満ち溢れた。

「……ッ、」

 蹄に更に力が篭る。大気が、枝葉を揺する。頭上に燐光する霊力の象徴は、根元から先端に向けて新たなる霊気を送り出す。それはまるで、養分を全体に行き渡らせる大樹のように。霊気に満たされた角は、外気に次々と力を放つ。

 角から広がる霊力。

(もっと)

 轟々とうねる風。

(もっと……!)

 眩いばかりに輝く霊気の塊。放たれる力の波動は強く大きく、大気と共に広がっていく。運ぶ風の続く限り。我が霊力いのちの続く限り!

 風の巡りは遅いようでいて速い。あっという間に広がりきった先、霊気と霊気とが「繋がる」気配がした。我輩を中心に、白霞めいた層が周囲に広がっていく。網のように細やかに、壁のように頑健に。

 繊細強固な霞が放射状に広がりきったのち、確かな応えが角に伝わった。我輩はそこで、確信する。

(成し得た……!)

 出立した地、駆けた軌跡、起こした気流、到達した地。すべてを繋いだ形は、この都市部全体を囲んだ線となっている。ものの数分で首都を一周した我輩は、駆け抜けた場所に霊気で印付けていた。そして我輩は今、そのすべてを解放・展開し、囲い込んだ空間をすべて制御下に置いたのである。

 すなわち。

《ハヤテ!》

《ほ~い》

《我が結界内の「声」すべてを集めよ!》

《うはっま~ためんどい命令きた~っ。りょ~か~い》

 アルカリー国の首都全域に、結界を成し得た。この国中枢を、我が縄張りと化したのだ。



 光の霊気結界は、展開した我が力の及ぶ範囲ならどこまでも広げられる。それを完成させてしまえば、あとは騎者どの曰く「こっちのモン」である。結界内は、我が力の領域であるから。

 家屋一戸に飽き足らず数戸、そして周囲の付属設置物や大きな動植物などを含めた広範囲の結界張りは、今まで練習を重ねてきた。ある程度自信がついたところで更に範囲を広げ、無理をしない程度で幾度と無く試してみた。小規模の集落全域を縄張りと化せることが証明出来、込み入った人間界隈においても我が結界は確実としたところで、こたびの大規模な実践と為ったのである。

 霊力恩恵のある自然区域の中でなくとも、それに代わる補助――この場合、力の強い風の使役――が有らば楽々と力を行使出来る。そして、広範囲の「声」を集めるに風の力を借りることほど効率的なものは無い。この世界は大気あってこそ生き物は活動出来、音も伝わるのだから。

《んじゃ、いっくよ~。せいぜいブッ壊れね~ようにしてね~ゴシュジンサマ》

 風の間延びした警告と共に。

 いったん周囲に散っていた風が躍り狂うように、吸い込まれるように我輩の元へと戻ってくる。そして次の瞬間、我が鼓膜に鳴り響いたのは膨大な数の人間や動植物が発する「声」であった。

「…………………………―――――――――ッ」

 思念、肉声。生き物が発するすべての会話音が我輩に襲い掛かる。それは、言葉に尽くしがたい情報の洪水だった。さながら鈍麻させていた聴覚を強制的に元に戻したかのように、過ぎるほどの音の量が、鼓膜と脳内両方に溢れかえる。覚悟をしていたはずであったのに、思わず前足が傾ぎかけた。途方も無い苦しみに、耳鳴りさえも聴こえない。

(多すぎる)

 風の言う通り、このままでは器が壊れる。鼓膜が破れて、頭が、破裂し、

「―――リョクッ」


 それは、襲い来る音の暴力を切り払うように轟いた声。

 我が背から。


「見失うな! 探せ!!」


 騎者が、指令を下した。



 時間にして刹那だったのかもしれない。ただ、永劫にも感じたひとときであった。

 それはすべて、心象的なもの。溢れかえる情報、音の洪水に呑まれそうになった脚を奮い立たせ、蹄に力を込め、思いのままに「地を蹴る」。成し得た白網を辿り、糸のようなその隙間を通り、押し寄せてきた波を跳び越え、迫りくる圧力をすり抜けて。目指すものへと目掛けて。実際の肉体はぴくりとも動いていなかったのに、そのとき確かに我輩は脳内で「駆けて」いた。先ほどと同じように繊細豪胆な注意を周囲に張り巡らせながら。背に騎者どのを乗せて。

 襲い来る音の暴力。圧倒的な「声」の量。それらは我輩の器を破壊しようと、切れ目なく圧し寄せる。しかし背に乗る魂の片割れは、そこでも我輩を的確に導いた。

 怯むな、止まるな、脚を休めるな、そこは避けろ、跳び越せ、駆け抜けろ。

 先の視えない暗闇において、それは確かに唯一の光明だった。指令の通り不要なものを切り離し、僅かな飛び地目掛けて後足を伸ばす。違うと感じたらすぐにそこから離れる。繰り返すうち、鼓膜に耳鳴りが戻ってきた。やっと、精神的な余裕が出てきたのだ。それでも慢心してはいけない。

 まだだ。我輩はまだ、見つけていないのだから。

(どれだ。これか。いや、違う。では、これか)

 違和感、違和感。気の遠くなるような取捨選択ののち、徐々に的が絞れてくる。

(違う。これか。――これだ!)

 それは張り巡らせた網目の、わずかな数箇所に点在した。決定的な証、確かな真実。暗闇に刹那浮かび上がった道標。しかしまたも膨大な情報の波に埋もれ、遠ざかろうとする。離れていく導。しかし、かのようなことは問題ではない。もうその居場所は捉えたのだから。

(逃さぬ)

 我が脚に追いつけぬものなど、この界には存在しない。



 数瞬のち。

 広がっていた枝葉が、徐々に元の位置に直っていく。放射状の網目が段々と薄れていき、消えていく。風も、だんだんとおさまっていった。

 元の平穏な暗闇に戻ったその場所にて。止めていた息を、ゆっくりと解放する。手綱の力は、未だ緩まない。固唾を呑んで経過報告を待っている背中の気配。

「騎者どの」

 我輩は瞑っていた瞳を見開き、吉報を高らかに告げた。


「とらえたぞ。かの組織の構成員、行動域、そして本元含む拠点すべてを!」


 ひゅ、と呼気が吸い込まれる気配。手綱から力が離れ、鬣も含めたその根元、首や背にがしっと押し付けられる二本足の温もり。首筋に、安堵の息と喜悦の声とが一気に吐かれた。

「……ぃよっし、よくやった! ぶっちゃけすげえ怖かったけど俺リョク先生信じてた! 久しぶりにマジビビりしてたけど大丈夫だって本当はわかってた! いやホントに! わかってたけど最高! リョク先生素敵! リョク様万歳! 撲滅対象からお前外しといてやるわ!」

「どうでもいいが騎者どの、未だいけめんとやらを好きにはなれないのか」

「未来永劫好きになれないね! むり!!」

 我輩にしがみ付き、きりっとした声で断言する騎者どの。未だ理解し難い「いけめん」への拘りはさて置き、騎者が満足していると騎獣としても嬉しい。確認しないでもわかる、きっと青年の緑の瞳にはいつもの茶目っ気めいた覇気が溢れているだろう。

 身を起こしたのちも、力強く首筋を叩いてくる暖かい手。

「あーそれにしたって本当にお前はすげえよ。マジメに言うけど、めっちゃ誇らしいわ」

 我が一族においては「佳き脚」が最上の賞賛であるが。


「さすが俺の騎獣だ!」


 今はただ、それが他の何よりも勝る誉め言葉だと思った。


◇ ◆ ◇


『聖なる風の奇跡』は、何もすべて善いことが起きたわけではない。重病人や怪我人らが回復したその裏で、鎌鼬によって数人が死傷する、また数人が精神的な疾患を得るといった実害も発生していた。

 しかし、なぜそういったことが明るみに出なかったのか。あの緑色をした正体不明の風が「善いもの」として認識され続けたのはなぜか。

 諸説あるが、都の中心部に住居を構える貴族ルシウム=キエ=フロント――『聖なる風』が彼の屋敷の屋上に降り立ったことから奇跡が始まった――は、飄々とした面持ちでこう語ったことが知られている。

「気紛れな風が、助ける人間とそうでない人間を選んだだけではないのかな」

 西北の遊牧民に端を発する風の霊法師が有名であるこの地。風の恩恵は凄まじく、風の意に逆らわなければ誰でも生きてゆけるとされる。まだ未開発部分は多いが、豊かな国土持つアルカリー公国は、国民である以上否が応でも悟らざるを得ない特殊な事実が存在する。風の恩恵が凄まじいゆえに横たわる暗黙の常識、それが些細な市民感情に勝ることを、彼は識り得ていた。


 そう。風によって齎された恵みが真実なのなら、風によって被った害もまた真実であることを。


 ルシウムは巧みな話術でこうも言った。

「むしろどうしてだか訊きたいね。罪も無い市民であるはずの彼らはどうしてあの晩、いきなり獄中に入ったのか?」

 暖かな風が過ぎ去ったその直後。首都全域においてわずかであったが、数十人に渡る人間が突如発狂した。といっても他の市民に害を加えるわけでなく、自宅内の自室を一人で滅茶苦茶に荒らし書類や道具などをみずから破壊、そして滂沱と涙を零しながら何人かが揃って出頭したのである。訴えた自罪は横領と殺人、密漁や稀少生物の売買。そこから芋づる式に国際的犯罪組織の幾つかが壊滅する運びとなった。筋金入りの闇商人が「なぜこんなことをしていたのか自分でもわからない」と泣きながら出頭してきたとき、証拠不十分で彼を長年逮捕出来ずにいた警察の面々は驚きを隠せなかったという。「まるであの風が吹く前と吹いた後とでは別人のようだ」と。

 暖かな恵みと、厳しい裁き。『聖なる風』は、かのような両極端の奇跡も起こしたのだ。ルシウム始め多くの著名人がそう公言したこともあり、あの晩の出来事は善きことだという世論が固まっていった。

 勿論。

「ああ、僕? ……この脚が治った程度で、特に変わりは無いよ」

 大衆の面前、トレードマークであった大きな杖無しで佇む老人は、以前より血色の良い顔でそう言ってのけた。そういった宣伝効果とさりげに添えられたあの晩の出来事、繋がりで彼の先祖の功績等がまた世間に注目される運びとなり、政府から疎まれていたフロント家は逆に名声を高める結果となったのだ。

 フロント家の台頭を恐れる政府は悪評を流そうと画策したが、それより伝達速度の上回る風評と内部告発により次々と内政悪事が発覚、世間の対応や議会の再編成に追われることとなり、一貴族に構っている暇はなくなった。フロント家じたいも突き詰めてみれば昔から優秀才備な貴族であり、交易利益こそ齎せど権力を盾に国家を転覆させるわけでもない。「強大なものは無理に敵と見なさず、取り込んでしまえば国益となる」というこれまた内部からの提唱もあり、こうしてフロント家は優秀な当主と堅実な次期当主の下、新しく編成し直された政府と手を取り合って磐石に存続していくこととなった。

 フロント家再興勢の時代、『聖なる風』はなんの衒いも無く『聖なる風』として語り継がれる。敢えて言うなら、怪我や病気の快癒者並び吉事が非常に多かったため、裏で発生していた正反対の惨事は歴史の闇に葬りさられたのだ。

 暖かな癒しの風の直後、部分的に発生した凄まじい鎌鼬。それによる死傷者は、政府関係者数名と、警護部高官数名であった。政府は国営報道を使って犯人探しに躍起になったが、被害者のいずれも汚職の証拠が自宅から見つかり(罪状を隠そうとしてもやはり告発に遭い)退院と同時に即刻投獄されたので、世間は「天罰」と結論付け彼らの不運をさほど気の毒がらなかった。

 ただ。不可思議な風の裁きとはいえ、なぜ汚職程度で一部の者が死ななければならなかったのかは、如何な諸説を以っても拭えない不明点である。


◇ ◆ ◇


《ゴシュジンサマ生きてた~。ブッ壊れるかと思ったけどケッコ~頑丈だね。めでたしめでたし~ってヤツ?》


 小馬鹿にしたような口調と共に、ひゅるりと姿を「現す」使役。

「……うっわ、忘れてた。うるせえのがいた」

 我輩の首をばしばし叩きながら鬣を梳いていた騎者どのが、げんなりとした風情で声をあげる。

《うるせ~ってなんだよ~キシャドノ。オレのおかげでこうしていられんだから、カンシャしろよ~?》

「こーゆー押し付けがましい言い方が一番うぜえ……リョク、なんでこんなん使役にしたんだよ。もうちょっとアタマ良さそうなのイメージしとけよ」

 我が背の上でぶんぶんと腕を振り回す騎者どの。我が角をすり抜けながら、彼に視えない戯れを仕掛ける風精。

《いいのかな~そんなこと言って。ゴシュジンサマがブッ壊れなかったのも、半分ハヤテ様のお陰なんだぜ~?》

「そういうことだ、騎者どの。口調はともかく、ハヤテは至極優秀な使役だ。多少のことは多めに見てやって欲しい」

「ぬぐぐ……」

《や~いや~い》

「うぐぐ……」

《ば~かば~か》

「なッ、バカって言ったほうがバカだかんな、バーカバーカ!」

 気の抜けるような、ある意味平和なやり取りを背後に感じつつ、我輩はふっと息を吐いた。まだやるべきことは数多に残っているが、ひとまず最初の山は越えた。気を張っているばかりでは最後までもたない。行動の目処がついたところで、内在気を消耗した心身では万全の状態といえない。霊力を養うべく、軽く休憩するのもありだろう。

 ただ、確認すべきことは残っている。

「――ハヤテ」

《ほいほい~》

「可能なものは、潰したか」

《もっちろ~ん。いや~ニンゲンってのは暗示に弱いね~すんげ~ちょろかった》

 我輩と使役のやり取りに、怪訝げな声をあげる騎者どの。

「なんだよ、何かしたのか?」

「見つけ出したかの組織が手のものに、暗示を与えた」

「暗示?」

 我輩は、答える。

「我が結界内に置いたものは、すべて我が力の制御下に置くことが出来る。意識に直接働きかければ、精神の弱いものならば自滅する。――この国が警察組織に出頭するよう、促した」

「な、え、マジで。けっかいって、そんなことも可能なのか!?」

 驚愕にまみれた彼の声。我輩の説明に続けるよう、風はにやついた思念を飛ばした。

《そうそう~。ハヤテ様にかかれば、ゴシュジンサマの力どこまでも強化出来るってわけ~》

「すげ……いや、風っこもすげえけどよ、リョクお前マジですげえよ、ホント」

 天界霊獣に逆らっちゃいけねえな、と呟く騎者どの。ほんのりと苦笑含みなれど、その声音に畏れは混じってはいない。我輩が如何に人界の理に外れた力を行使しようと、彼はそれが為し得て当然だと理解しているからである。

 四十年余りかけて築いたものは、単に自身の経験だけではない。……騎者どのとの絆も、確かに育まれた。

《お~いゴシュジンサマだけじゃないだろ~。オレもすげ~だろ?》

「ん? あ、そだなスゴイスゴイ」

《だろ~? もっとほめろ~》

「スゴイスゴイ」

 背のやり取りを聞き流すに、ふと違和感を覚えた。今も尚把握しているかの組織の構成員、彼らの一部の気配が不自然に消えたのである。

《ハヤテ》

 違和感を払拭しようと思念をかけると、少年のかたちをした風はひゅるりと眼前に躍り出た。その口角が上がっている。騎者どののそれとは違う、歯を見せない笑み。

《ハヤテ、本当に暗示を全員に与えたのか》

《やったよ~?》

 にやにやと笑う二本足の少年は、水色の瞳を愉快そうに細める。

《……そうか》

 違和感は違和感だが、それを深く追求しても仕方ない。今は得た情報を手早くまとめ、更に突き進む行程を練るべきである。

「うし、じゃあリョク、次段階に入んぞ」

「うむ」

 背からひらりと降りた騎者どのが、我輩の眼前に移動し手を突き出してくる。我輩も次いで、手綱でない部分の角を彼に向けた。伸びる枝がまたかたちを変え、彼の掌に接する。触れた先から送る波動、伝わる意思。魂の片割れだからこそ為しえる、言葉無き情報の共有だ。思念を言葉として伝えるには我輩は未だ未熟すぎ、只の人間たる騎者どのから思念が伝わらないのは仕方ないが、角ごしになら多少こういったことが可能になってきた。

「―――……なるほど」

 すべての情報を整理し終わったあと、騎者どのは我輩の角から手を離す。象牙色の面には、理解の念と複雑な表情とがあった。

「北だな。北西の郊外にある植物園。そこが、人工エルフ製造の要、か」

「うむ」

「悔しいけど、デキる風っこ従えて正解だったな。俺達だけじゃ、きっとガス欠で終了だった」

「うむ。ハヤテ、先々も頼むぞ」

 我輩らの真面目な懇願に、優秀だがどこか不可解なところのある風は愉しげに応えた。

《りょ~か~い》

 一部不明な箇所はあれど、今はそれに関与する余裕は無い。人界の「首都」における生息人口は過密だ。ときに、狭範囲に関わらず予期せぬ事象で命を落とすこともある。そういったものを細かく気にしてはいられない。この地域全体に成し得た巨大結界は、目的達成と同時に解いたのでもうこれ以上この場所に留まっている理由も無い。ただ、念には念を入れて出立すべきである。

「リョク、どのくらいで回復できる」

「一晩あらば充分だ」

「じゃ、明け方出発で」

 腰に携えた武器霊具を、いつもの紫布で包みなおす騎者どの。背に巻き付けていた旅行鞄より着替え用の衣を出し、その場に広げて寝床を作り始めた。

「騎者どの、我が霊気結界をここにも張るか」

「いや、無駄遣いさせんのやめとくわ。俺はこれでジューブン」

「左様か」

 せめてと四足を折って寝床の横に胴体を置けば、「こりゃ丁度いいな」と上着を被った騎者どのが寄りかかってきた。我輩の胴を枕に落ち着いたあと、幾ばくもしないうちに寝息が聴こえてきた。悟らせなかったが、余程疲労していたのだろう。我が騎者は、我が身より遥かに脆弱な器持つ只の人間なのである。

《ハヤテ、風の帳を》

《りょ~か~い》

 思念で命じれば、我輩らより離れた箇所で微風が発生する。我が力を行使せずとも、使役の力のみで出来ることは数多あるのだ。

 とはいっても光の結界と違い、風の結界のみだと虫除けぐらいしか確かな効能が無い。ただ、健やかに眠る人間の身に、少しでも有益な休息になるといい。その感慨を旨に、我輩も瞼を下ろした。

 こたびの山場を越えたことで、我が一族の失踪事件が解決するのか否かはまだわからない。ただ、ことが大きく前進するのは間違いないだろう。

 決着は、日の出以降に待ち構えている。






簡単に説明するとリョクがやったのは


①首都をぐるりと一周

②一周しながらおらおらおらと霊気でマーキング

③マーキングが繋がったところで結界発動

④発動出来たところで縄張り化

⑤縄張り内の会話を全部盗聴(!)

⑥盗聴した会話を選別・分析して首都民で犯罪者っぽいのを識別(!!)

⑦識別したのをさらに分析して失踪事件に関わってそうなのを選り分け

⑧選り分けた情報からアジトを導き出す←今ここ

EX:ついでに失踪事件に関わった犯罪者全員に自首するよう暗示かけ


…って流れです。⑤⑥辺りがキツかったっぽい。その他は割と簡単だったっぽい(マジか


そしてハヤテは暗示にかからなかった奴を勝手に成敗してしまいました。リョクは暴力沙汰が苦手なので鎌鼬には関与してません。ハヤテが勝手にしたことです。

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