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我輩は騎獣である  作者: KEITA
間章
40/127

若葉の巻3


 ドリスはいまだ、ワカバの種族がどんな生き物であるのかはっきりと理解してはいない。しかし、十数年共に暮らすうちにその嗜好や性質は否が応でもわかってきた。


 どうやらワカバの食事は草か果物か穀物で、肉やそれに順ずるものは一切受け付けないらしい。乳は平気だが出汁としての肉髄や卵でも駄目なのだ。臭気だけで体調が悪くなり、ひどい時は気を失ってしまう。ワカバの種にとって動物の血肉は毒そのものであるらしかった。

 そして何より、流血や死臭を毛嫌いする。その気配を遠くから感じ取っただけで目に見えるほど憔悴し、困憊となってしまう。それは出逢った当初からなんとなく察していたことだったのですぐに対応出来た。当初こそ事あるごとに気をやってはいたが、時が経つに連れて段々と慣れていき、今では一メートルくらい離れていればなんとか血臭には耐えられるようにもなった。それでも好きで苦しめたいわけでもないので、ドリスも家族もワカバには極力そういうものを近づけないようにしている。

 体格体高はあっという間に成長した。生まれたてと思われた当初は子ヤギくらいの大きさで、ドリスが楽々と抱きかかえられるほどだったのに、数年もしないうちに小型の馬程度にまで大きくなった。骨格が華奢で小さいことには変わりないので乗馬は無理だが、脚力は割かし強いらしい。背に軽い荷物を乗せて――どういう育ち方なのかは知らないが、ワカバの背表だけは分厚い皮となっている――ある程度の距離を移動するのはお手の物だ。たまに小さな娘を乗せて遊んだり、荷物運びをしたり、ドリスのために昼食の弁当を届けたりするのも、彼女の役割となった。ドリスの女房は「ワカバがいてくれて助かった、子守もちょっとした力仕事もしてくれるから」と喜んでいた。食事もある程度身体が出来てからは自分で調達することを覚えた。総じて手のかからないこどもであった。

 ただ。

「とうさま、背中がぴりぴりする」

 たまに、前触れもなくそんなことを言う。

「またか」

「うん。ぴりぴりして、痒い。どうしたらいい?」

「う~ん」

 ドリスとしても理由はわからなかったので、何も返せない。出来ることとして、痒み止めを塗ってやったりさすってやったりする程度だ。それでも、痒みとうずきはおさまらないらしかった。

 生まれてから十年ほどで不思議な力を扱えることもわかってきた。なんでも霊力はうまく行使すれば、生き物の傷や病気を癒すことが出来るらしい。ワカバの行使出来る霊力は俗に言う「霊法師」の域までとは到底いかず、普通の霊獣からしても微弱なものであったが、何もそういった不思議を扱えない只の人間からすると素晴らしい能力であった。木こりにしては繊細な指を持ち、慢性的な脱臼と腱鞘炎に悩まされていたドリスを、救ってくれたのである。ただ、こういった癒しの力をみずからの背表に使っても、とんと効果は無い様子だった。

 それでも。

 多少の不安要素はあったが、それでもワカバは見た目は健やかに成長している。少なくとも、ドリスはそう感じていた。



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