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我輩は騎獣である  作者: KEITA
第二章
17/127

挿入閑話・ある獣の煩悩

アホ話です。ケモノ的な意味でR15・・・?

「うううううう……」

 朝一番、蒼のが唸っていた。

「蒼の、如何した。体調でも悪いのか」

 健康優良を形にしたような雄が、なんとも珍しい。そう思って声をかけると、蒼のは否定する。

「違うっ」

「なら、なぜそんなに唸っている」

「それは……」

 またも珍しく、言葉につまっている。

「その……」

「なんだ、気色悪い。はっきりしろ」

「ぬ」

「ぬ?」

「ぬああああっ、と、とにかく、緑の!!」

「な、なんだ」

 いきなり勢いよく向き直った形相に、我輩は少し後ずさる。なぜ、こんなに蒼眼が血走っているのだろう。


「今日は一日、紅のに近づくな!!!」


(……)

 何を言っているのか、この雄は。

 かの雌に対する恋情など、それこそ耳が腐り落ちるほど聞き及んでいるし目が勝手に半眼になるくらいに見続けている。不可抗力にも関わらず嫉妬をぶつけられたことなど、数え切れない。

 しかし、なんの前触れも無くこう切り出すのは、不自然な気がした。

「蒼の、独占欲が高じるのはわからんでもないが、いきなりその要求は理不尽にすぎる」

「ち、ちがうっ」

 ぶんぶんぶんっとかぶりが振られる。わさわさ乱舞する蒼の鬣、その隙間から覗く蒼眼はやはり血走っていて、しかもうっすら隈が出来ているようだ。更にはなんだか、息も荒い。全身から熱気にも似た何かが立ち上っている気もする。

 あ。

「蒼の……、もしや」

「言うなあああああああああああっ」

 途端に、蒼の雄は我輩の視線を振り切るよう、いずこへと駆け出していった。その軌跡に涙が滴っていたような。

 ぽつんと取り残された我輩は呟く。同性ゆえ、悟ってしまった事情を哀れんで、心の底から。

「雄とは……あわれなものだな……」

 背後から見守っていた群れの雄が皆、頷いたような気がした。ほろりと身につまされるような、妙な同調意識がそこにあった。

 雌の発情期において、雄が天国となるか地獄となるかは、つがいか否かと同様だ。

 蒼のは勿論、後者にあたる。


☆ ☆ ☆


 まあつまり、紅のに発情期が訪れたのだ。


「というわけで、今日は私達雌だけで、食事をしてくるわ。雄は好きに食べててちょうだい。あ、ちっちゃいのは私達と一緒よ、例外だし。じゃあね」


 軽い口調で言い放ち、我が養母どのは雌を全員伴って出かけてしまった。あとに取り残されたのは勿論、哀れな雄どもの呆然とした様である。

「いつものことだ、いつものことさ。今更落ち込んでどうする、な」

 養父どのが皆を奮い立たせるように言うが、いかんせん彼の尾が自身の落ち込みを知らしめるかのように垂れ下がっている。

「落ち込んでませんよ、僕は。これしきのことで、落ち込んでたまるものですか。娘は立派な雌なんです、三年に一度発情するのは至極当然。だから僕のつがいが僕より娘を優先させるのだって、当然…………ぐすっ」

 情けなく鼻を啜るのは、紅色の鬣を持つかの雌の実父である。

「泣くんじゃねえよ馬鹿紅! 俺だってつれーのに!!」

 そう言いながら、いつもの地鳴り声が涙声になっているのは萌黄色の鬣の雄だ。

「そうだな、たかが一日だ。一日我慢すれば、我がつがいは私と共に食事をしてくれる。一日……一日……二十四時間……」

 ぶつぶつと呟きながら、血走ったこげ茶の双眸でかの雌らが去った方角を見つめる痩身の雄。

「いや、今はもう夜明けから三時間と少し経った。だから、俺のつがいが戻ってくるのはあと二十時間と五十七分と五十秒だ」

 至極真面目に言い放ちながら、豊かな鬣をなびかせ凛と立つのは蒼のの父親だ。その蒼眼からなぜか滂沱と液体を滴らせながら、ではあるが。

 そして。

「あ、蒼の」

 先ほどからぴくりともしない影に向かって話しかける。引きちぎった草に埋もれるようにして、沈没している若い雄。しかし応答は無く、漂ってくるのはなんとも言いがたい空気だ。突き出ている角も、心なしかへにゃんと項垂れているような気がする。

 そっと近づき、様子を見守る。このままでは草地の緑に埋もれ、同化してしまいそうな勢いだったからだ。

「平気……か?」

「平気なわけあるかああああっ!」

 がばっと、草の塊が跳ね上がった。そこから現れた蒼眼とかち合った時、我輩は心底後悔した。もはや、我らと同じ生き物の目ではなかったからだ。

(修羅の目だ)


「緑のにわかるか?このどうしようもない想いが!わからないだろうな、つがいを持たないただの雄などに、俺の気持ちなんて!!紅のが、俺の、俺のつがい(予定)が、ははは発情してるんだぞ!お、お、俺の、俺の仔を孕みたいって、こ、子種を注いでって、交わりたいって、全身でそういってるんだぞ!!!!これが落ち着いてたまるか、くそ、ああ、紅のが可愛すぎて死んじまいそうだぁ、あああ、あ、やばい、うあ」


 怒涛の勢いで凄まじいことをまくし立てたあと、蒼のは再び突っ伏し草地の住人となった。色々な意味で置いてけぼりにされた我輩は、そろりとその場から離れる。なんというか、ついていけない。

 振り返ると、一部始終を見ていたらしい群れの雄らと目が合った。その視線に浮かぶのはまさしく共感と同情、応援の色。

(なぜ、皆そのような表情になる)


「わかります、痛いほどにわかります彼の今の気持ちは」

「つれーんだよな……あー次の繁殖期になったらぜってーヤる今決めたもう決めた」

「我が息子はいとおしいが……正直、あれのせいであと数十年は耐えなければならないと思うと、絶望を感じる」

「俺の息子ならば、とっとと小さい紅のをつがいにしろ。でなければ二頭目をつくれない」


 開いた口がふさがらない、そんな我輩にぽんと投げかけられたのは、我が養父どのの至極落ち着いた声音での言葉だった。

「安心しろ、我が息子。皆、雄はこうなる」


 どのあたりが「安心しろ」なのかわからない。

つがいには出逢いたい。けれど、自分もこうなると思うと、少し躊躇いが生まれた春の日の出来事だった。



リョクさん、大丈夫です。二百年くらいあとに、ちゃんと貴方も「こう」なってます。しかも超自然に。


~イヴァカップルそれぞれ~

※くっついた順


①養父どのと養母どの

夫婦暦:ざっと五百年

なれ初め:戦場・互いに一目惚れ

関係性:尻にしかれ尻にしく

ツーカーで通じ合える仲。ふははと笑う雄とおほほと微笑む雌

三頭の仔は上から雄、雌、雄。今どこにいるかは親でもわからないらしい。元気でやってればそれでいいよ!的に考えている。独り立ちした仔の優先順位はめちゃくちゃ下がるので、それが普通。


②地鳴り声の彼と、お嬢様な彼女

夫婦暦:百五十年くらい

なれ初め:箱入りお嬢様をヤンキーがひっさらって泣き落とし

関係性:突っ走る+それをフォローする

見た目も中身も正反対で、それがうまくかち合った好例

こう見えて独り立ち済みの仔が一頭居る。彼は正直二頭目作りたいけど、身体の弱い彼女の負担を思って切り出せない。豪気だけどつがいには繊細なのよ。


③紅ののとーちゃんとかーちゃん

夫婦暦:七十年くらい

なれ初め:ちっちゃい頃親を失った彼女を、彼が兄のように慈しみ一緒に育った

関係性:尽くしと尽くされ

精神的に相互依存してる感じ。紅のは外見かーちゃん似、性格とーちゃん似。えいやーと生きるお転婆な少女と、後ろからにこにこ見守る敬語青年的な。


④蒼ののとーちゃんとかーちゃん

夫婦暦:蒼のの年齢と大体一緒(三十年とちょっと)

なれ初め:ほぼ強引にさらって既成事実でゴールイン

関係性:ぐいぐい引っ張る+それに付いてって操縦する

なれ初めこそアレだが、主導権握っているのは俺様ヘタレな雄ではなく慎ましたたかな雌、蒼のはほぼとーちゃん似(年上好き+転がされるのが似合います)。ちなみに蒼のもとーちゃんも、人型でいう超絶美男子設定。つまり残念なイケメンというやつです。


⑤インテリモヤシと、たくましいおなご

夫婦暦:数年ちょい(新婚さん)

なれ初め:おなごが、インテリくんに惚れて押しかけた

関係性:理屈提示→実行

彼の言葉数は他人には多いが、彼女相手なら少ない。いわゆる外弁慶。雌の方が強いということは、彼らにとっては気にならないらしい。新婚早々生まれた仔は雄で、群れの若衆にまとわりつく腕白坊主。小さくとも一人称が「わたし」な辺りとーちゃん譲り。


※どんな関係性であろうが、雄どもはもれなくアレです。食事を共に出来ないだけで、もうダメダメに……。まあつがい同士で一緒にする行為の殆どが雄から雌に対しての愛情表現なので、それがいっこでも否定されるとこうなるのはしゃーない。

※雌の発情期は雄にとっての勝負どころ。ただし、仔が作れる状況に限る。作れない状況なら、我慢するしかありません。一般的に一頭育てるのが非常に難しいので、独り立ち前の仔がいる状況で二頭目をつくることはほぼあり得ない。野生の雄大変だな!

※雌の発情はほぼ強制的ですが、雄の発情はほぼコントロールできます。ただし、つがいの発情→理性を保ってることは難しいのは全世界共通。やっぱり雄まじで大変だな!

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