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我輩は騎獣である  作者: KEITA
第一章
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挿入閑話・ある天使の八つ当たり

エルヴィンの尻拭いを当然のようにさせられるサリアの気持ち


「あ・ん・の・お・ば・か!」

 サリアは怒号と共に、手にしていた可愛らしい巾着の紐を力任せに引き絞った。黒の布地に通された橙色の紐が、首を絞められたかのように悲鳴を上げる。

 構わず、彼女はその端を更なる力でぎゅっぎゅと締め上げた。とはいってもサリアは非力なので、布地が破けるまでには至らない。忌々しそうにその巾着を見つめ、ぽいと背後に放った。ぽす、と音を立て着地したのはサリア自慢のコレクションの山の上だ。

「……熟考って言葉、あのまっちろな羽に詰まってないのか!」

 鼻息荒くその山へ歩み寄り、次いで引っ張り出したのはこれまた可愛らしいかたまりだ。つい先日手に入れたばかりの、人界の動物を模した真っ白な縫いぐるみ。

 その色にかの面影を重ね、苛々ともふもふの毛玉を弄くる。

「いつまでたっても腹立つくらいお人よしなのはまーどーでもいいとして、なんでいっつも事後報告!!」

 渾身の力をもってぼすぼすと縫いぐるみの腹に拳を叩き込んだあと、引き裂かんばかりの勢いで顔を左右に摘み上げる。ひどいことをしているように聞こえるが、いかんせん彼女は非力なので、縫いぐるみを無残な目に合わすまでには至らない。申し訳程度に毛玉がへこんだだけである。

「むうう~っ」

 サリア自身そのことをわかっているので、なんとも言いがたい表情で唸る。いつだってこうだ。八つ当たりしたいのに、八つ当たりしきれない。

「あーもう、全部ぜーんぶあの頭までまっちろ天使のせい!」

 最終的には、そういうことになる。


○ ○ ○


 サリアと彼女の相棒たるエルヴィンは、今から七十年ほど前、同時期に生まれた。

 闇と光、黒と白。

 天使は、光闇両方の霊力属性を持つ。高位の上級天使こそ単独で双方の力を行使できるものが多いが、低位の下級天使はそうはいかない。生まれたときから消滅するまでのあいだ、どちらか一方の力しか持っていない。

 しかし、この世の自然な理に属する精霊族である以上、霊力のバランスをとるために、生まれたときから対となる存在がいるのは当たり前だ。闇の天使が生まれれば、どこかで光の天使が生まれる。逆も同じく。彼女とエルヴィンは、そうやって生を受けた。いわば、魂の相棒なのである。

 しかし、能力はともかくとして、彼らはとことん気が合わない。

 サリアの相棒はお人よしである。それはもう、こちらがあきれ果てるくらいお人よしだ。そしてその性質ゆえ、要らぬ面倒を望んで背負い込む。

(まーそれはどーでもいいんだけど)

 問題はそれが、サリアにまで降りかかってくることだ。エルヴィンひとりで苦労するならまだしも、その尻拭いを強制的にやらされるのである。あいつは魂の相棒を便利なお助けマシーンか何かと勘違いしてるじゃなかろうか。

(しかもいっつも事前に相談もなし、ことが起きてから当然のように「サリア、よろしく」とかあのすっとぼけたツラで押し付けてくる!)

 あいつは、いつだってそうだ。

「あたしは、あんたのママじゃないっつーの!!!」

 人界で覚えた言葉は、こんな時便利だ。


○ ○ ○


 サリアは、自分でも好きに生きていると思っている。

 嫌なものは嫌、好きなものは好き。それはサリアを生み出した主の影響なのかもしれない。彼女の主たる天使は、天のものにしては珍しく人界を好んだ。天全体において相当の実力者であるにも関わらず、その性質は自由人だった。幾度かお忍びで人界へと降り、人間に混じって生活していたことすらある。かの影響で、サリアも暇が出来たとき人界に降りて探索するのが癖になった。かの界には本当に、天には無い様々なものがあるのだ。


 そのうちの一環が、自宅に山と積み上げられたこの可愛いものグッズである。

 サリアは、性格に似合わず愛らしいものが好きなのだ。小さな巾着とか、小動物の縫いぐるみとか。他者には絶対教えないが。

 ひとしきり真っ白な兎の縫いぐるみを弄くったあと、それをぎゅっと抱きこむ。容赦ない八つ当たりをしたあとで、こちらを見上げてくるつぶらな瞳にさすがに罪悪感が込み上げたのだ。愛らしいもふもふの毛に、これまた愛らしい唇が埋まり、ぐりぐり擦り付けられた。銀の眉が垂れ下がり、頬が染まる。

「……ごめんなさい」

 彼女の相棒が聞いたら目玉をひん剥くだろう。それほどしおらしい台詞を同様の声で呟き、銀色の髪をした少女は縫いぐるみを抱きしめた。その動作と表情も、エルヴィンが見たら腰を抜かすと思われた。ついでに叫ぶかもしれない、「さ、さ、サリアが女の子みたいだ!!」と。

「……」

 お気に入りのかたまりを抱きしめていたら、少し苛々もおさまってきた。

「とりあえず、あの馬鹿に言っとかないと」

 今度から、何かこちらの助けが必要な行動を起こす時は事前報告をするように。そうでないと、いい加減可愛いものへの八つ当たり(しきれていないが)もやまない。

(なんのための相棒なのよ。あたしはそんなに、なんでもかんでも反対してるわけじゃないのに。理由があるなら理由があるで、少しは助けてやれるのに。いつだって事後報告するから、イライラすんのよ)

 自分は確かに相棒よりお人よしじゃない。けれど、お人よしの邪魔をしようとも思ってはいないのだ。

「あーやっぱイライラする……あとで人界に行ってこよっと」

 早急に新たな癒しが必要だ。そう考えて、サリアは縫いぐるみにもう一度頬ずりをした。


 こうして、黒い天使の新たなコレクションは増えていく。


「ちょっと、そう書くとなんか変なコレクションみたいじゃないアホ!」


 そうですかね。



サリア・・・霊力は高いが、腕力はゼロに近いくらい非力。実はエルヴィンの家のドアも、自分一人では開けられない。つまり毒舌はともかく、本人の暴力性は皆無である。たまにエルヴィンを蹴ったりするが、それは対の天使だからこそ出来る限定的暴力(笑)であって、またエルヴィンがわざと喰らってやってる部分もある。なんだかんだ言いつつ、良い相棒のようだ。


彼女の主であり「親」であるのは最高位天使・サリエル。三対の色無き翼を持ち、全精霊族においても名高い実力者。元は二対の翼持つ高位天使で、若い頃は人界において「告死天使」として知られた。今現在は天界と人界をいったりきたりして過ごしている。

サリアをはじめ生み出した「子」「使役」は数知れず。ただ、いずれも「親」に似たのか、変わり者とされる天使になった。サリア自身、サリエルに付いていった先で人界の可愛いものグッズにはまった模様。

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