Ep6 Chapter“1” Scene“2” Cut“1” Take“2” スカートめくりは唐突に
「あっ!いっけなーい、もうこんな時間だ。お仕事に行かなきゃッ!」
こうして颯爽と脱ぎ散らかして着替え、五分後には“業スムーパー”でタイムカードを切るのが、いつもの決まった行動パターンだった――
部屋着から外出着に着替える途中で、いくら脱ぎ散らかしても文句の一つも言われない「独り暮らし」は、ミチルの中の“ハッピーポイント”の高い点だ。ただそれは脱ぎ散らかされる服が、抵抗もなくスルっと脱げる事に目を瞑ればこそであり、そこに気付いた途端に“ハッピーポイント”は下がってしまう。だからいつも時間と格闘し、家を出るギリのギリまで推しアニメの事を考えるようにしている。
更に付け加えると、ミチルは昔から嫌な事は寝たら大体忘れられるし、推しアニメを見れば脳内にこびり付いていたそんな事は、どこかへと吹き飛んで行ってしまう。
そんな楽観的な性格を持っている。
その結果、昨日の災難そのものや、その災難に巻き込んでくれた偶然のイタズラのような通知音の内容すら忘れてしまっていた。
そんなこんなで推しアニメが見られれば、毎日がハッピーなミチルだったのである――
今日はゴロゴロしたりテレビを見たり爆睡したりの生活だったワケだが、ミチルはこれでも、自他共に認めるどこから見てもいたって普通の女子高生だ。
「自他共に」の「他」には、非常に偏りがあるが。
なので本来ならば昼間はちゃんと高校に通っている。今日はたまたま休校になったから自堕落な生活をしていただけだと、ミチルの名誉の為に伝えておく。
ただ現状のこの国では、戦争の状況が思わしくないようで、しょっちゅう休校になっている。しかしテレビではその手の報道がされる事は殆どなかった――
―― To the Next Cut ――
「よしッ!準備バッチリですッ!孔明先生からの“錦袋”と助言にあった上屋抽梯があれば、ミチル先輩にお近付きになれるハズです。
流石に昨日は休校になってしまったので、「偶然を装って街なかでバッタリ作戦」を決行してみたんですが、結局会えなかったんですよねぇ……。はぁ。ミチル先輩って一体どこに住んでるんでしょう?あの公園付近をウロチョロしててもなかなか会えないんですよねぇ……」
朝、志の目覚めはバッチリだった。何やら昨日の休校時にはわざわざストーカー紛いの事をしていたようだが、ミチルはバイトまで家にいたのだからその作戦は空振りに終わっている。
そんなミチルにご執心な志は、自身が通う「自然科学総合高等学校」まで、電車を乗り継いで一時間は優に掛かる。その為に早起きは欠かせない日課なのだが、今日はいつも以上に準備に余念が無かった。
それは言わずもがな……だろう。だからこそ、起きてブラウスにアイロンを掛けてからの着替え、顔を洗って髪のセット、簡単に朝食を作って食べてから食器を洗ってお片付け。その後忘れずにちゃんと歯を磨く。
……と、いった“日課”を熟した上で、それ以外の行動として、“孔明”からのアドバイス“錦袋”と上屋抽梯について考察した結果、用意した“物”をしっかりとバッグに押し込むのも忘れなかった――
志は普段から見た目に反して直情的な行動をする事がよくある。日頃から清楚な美少女として知られる彼女だが、その内実はポジティブの塊、悪く言えば「直情的な暴走機関車」だ。
そんな志が暴走する度、クラスメイトが話す、耳にタコが出来るくらいネチネチした忠告も、「自分の為に言ってくれている」と前向きに考えればこそ、志の耳が閉ざされる事はない。むしろ喜んで聞きにいく。
だが志がその直情的な行動を改める事は一切ない。
そんな極端な前向き思考のため、志曰く、「自分はポジティブの塊」と友人に語った過去もある。
だが実際のところ、志が勝手にクラスメイトを友人と思ってるだけで、志を友達だと思っているクラスメイトは誰一人としていない。
それは偏に、志がポジティブ過ぎるのが原因かもしれないし、他者の忠告を受け入れなかった事が原因かもしれないが、志はそんなクラスメイトを友人だと勘違いしているので話しは非常に厄介と言えるだろう――
そんなこんなで日課を難なく熟した志は、“秘策”を少しばかり発育の良過ぎる胸に忍ばせると、意気揚々と家を出て最寄り駅まで歩を進めて行った。
その足取りはいつもより軽やかで、背中に翼があって、今にも空へと駆け出してしまいそうな勢いだった。いつもは胸の重みのせいで気を抜くと猫背になりがちだが、今日の彼女は凛としていた。
たとえその真横をニュースで話題になっている奇っ怪な戦隊ヒーローコスプレをした人間が高速で走り抜けようとも、その風圧で自分のスカートがひらひらと舞い上がり周囲の人にスカートの中身が見られていようとも、更には清楚な出で立ちからは想像も出来ないようなド派手な下着を晒していようとも、ミチル先輩に会える期待に比べれば全て些細なコトだった――
―― To the Next Cut ――




