Ep3 Chapter“1” Scene“1” Cut“2” Take“1” ドキドキは唐突に
「ねぇ、聞いてもいいですか?」
「さっきのお嬢ちゃんの事か?」
パントマイム女性は一人暗い夜道を歩いていた。もしも反対側から歩いて来る人間や、後ろを歩いている人間がいれば、確実に変な目で見た挙句、そそくさと距離を取ったコトだろう。
何故ならば、彼女は一人だ。それなのに独り言を平然と普通の声量で話している。しかもワザワザ声色を変えてまで。
誰がどう見たって変質者としか言いようがないだろう。ただこれがイケオジを除く所謂、普通〜普通以下の中年男性あたりなら、不審者として即通報案件かもしれない。
……が、若い女性であれば即通報とはならない辺り、役得と言えるだろう。
「その……益徳さん。女性にモテた事……ないですよね?」
「な……んだとぉ?オレサマにゃちゃんとガキもいるし、当時はモテモテだったんだからなッ!そ……そりゃまぁ、兄貴や子龍みたいには、ごにょごにょ」
独り言は続いていく。オドオドとした感じで話していたかと思うと突然声を荒らげるその話し方は、大根役者とは言えない豹変振りとも言えるが、周囲に誰もいないコトこそが此れ幸いというヤツかもしれない。
「そ れ に し て は女性の扱いがなっていません!あの女性、私の学校の先輩なんですよ?」
「おいおい、志……ウソだろ?あんな、ちんちくりんで、女らしい部分がひとッつも無ぇのが、お前の学舎の先輩……だと?」
どうやら彼女の名前は志と言うらしい。どうやらその志は何かしらのスイッチが入ったようで先程までのオドオドした感じから一変し、逆に声色が変わる方がオドオドし始めていた。
そしてミチルの元を離れてから志は、誰ともすれ違っていない。依って誰からも変な目で見られてなどいない。
「それでも同じ学校の先輩なんですッ!もう!男女問わず、ミチル先輩に絡みたい生徒っていっぱいいるんですからねッ!それに女性の見た目や胸の大きさだけで年齢を決め付けたらいけませんッ!」
「わ……悪かったな。まぁ、それならこれで“縁”も出来ただろ?あとはそっちで宜しくやってくれ。俺は呼ばれるまで大人しくしててやっから……じゃ、じゃあな。あばよ」
こうして志の視界から“益徳”と呼ばれた者は消えて行った……が、実際にこの光景を見た者がいたとしたら、本当に十中八九小首を傾げていた事だろう。
眼鏡を掛け、ロングで艶のある黒髪を靡かせ、さも美少女然として清楚な出で立ちの装いをした女性が、声色を変えた上で独り言を呟きながら歩いていたのだから。
―― To the Next Cut ――
「続いて次のニュースです。先日お伝えしました謎の戦隊ヒーローのコスプレをした人に、当局の取材班が突撃インタv――」
――ピッ
「この時間じゃランポーくんの再放送も無いし、次の「オトカマーニンナー殺人事件」の先行配信もされてないよー。
でも、今日は学校休みになっちゃったから、本当に何をしよう?バイトも夕方からだから、流石にこの時間に行っても意味無いし」
ミチルは暇だった。暇が昂じてベッドに寝転がりながら暇潰しテレビ鑑賞をした挙句、推しアニメ“名探偵ドイル・ランポー”の情報をスマホで検索していた。
先行動画配信を期待し、無い胸を膨らませながらチェックしたものの、思ったほどの成果は上がっていない。
しかしそれくらい推しているにも拘わらず、ミチルの部屋にはグッズの一つも置かれていない。見える所にあるのはベッドとテレビ。あとは高校の制服とバッグくらいだ。
……が、その反面、昨夜の一件はミチルにとって衝撃的としか言いようがなく集中出来ずにいた。だから思った程のランポーくんネタが見付けられなかったのかもしれない。
それはさておきあの後、自宅に着くまでにあのパントマイム女性が、追い掛けて来るんじゃないかとミチルの内心はドキドキしていた。それは先程までの無い胸を膨らませていた時とは違うドキドキで、強いて言うなら見てはいけないモノを見てしまった恐怖に近いドキドキだろう。
そしてミチルはそれを自覚している。
しかしその一方で、あのパントマイム女性の怪しげな光を持つあの瞳……それは自分にとっては一切謎ではなかった。何故ならば、自分にも同じ自覚があるからだ。
だが、今までその事を誰かに話した事は無いし、それを話してしまったらどうなるかを理解してるつもりでいる。
もしもソレを誰かに話してしまえば、ミチルが望む淡い希望は打ち砕かれ、普通の高校生活という「普通」は文字通り失くなってしまう。
そうなったら、「家から近い」だけで行く事を決めた「業スムーパー」も辞めなくちゃならないだろうし、家も引っ越さないといけなくなるかもしれない。最悪の場合、今の学校にもいられなくなるだろう。
ミチルからしたら面倒くさい事この上ないし、叶って欲しくない現実だ。それに何よりも自分の親に知られたくない。
だからその手の話しとは、極力関わりを持ちたくなかったのだった――
―― To the Next Cut――




